第58話村の危機の結末


レッドオーガのウーガが倒された事により、

アビスは京太に興味を持った。




「人族が、このような事が出来る筈がない。

 さては貴様、人族では無いな、我と同じ魔物との間に生まれた者だろう」




――この人は、何を言っているんだろう・・・・・




京太は、それを否定をする。




「違うけど・・・・・」




だが、勘違いをしているアビスは、そのまま話を続ける。




「まぁ、隠さずとも良い、何か理由があるのだろう。

 どうだ、我の下に就かぬか?」




突然のアビスからの勧誘。


驚きながらも断る。




「無理。

 それに、僕は魔物との間の子ではないよ」




その返事を聞き、アビスは再度、問い直す。




「なら、貴様のその強さはなんだ!

 人族がレッドオーガを素手で倒せる筈がない!」




「貴方に話す必要はありません」




「わかった、ならば仕方あるまい。

 少し痛い目に合って貰おう。

 そうすれば、話す気になるだろうからな」




アビスは、レッドオーガ達に命令を下す。




「遊んでやれ」




その言葉に、笑みを浮かべたレッドオーガ達は、京太に襲い掛かる。


だが、レッドオーガ達は、京太に触れる事すら出来ない。


攻撃を躱し続ける京太。



「申し訳ないけど、仲間を待たせているから、本気で行くよ」




京太は、アイテムボックスから剣を取り出す。



突如、剣が現れた事に、レッドオーガ達は驚き、一瞬、動きが止まった。


その隙をつき、京太は剣を振るい、次々にレッドオーガ達を倒した。


血溜まりができ、多くのレッドオーガ達が横たわる中

アビスに剣先を向ける京太。



「後は、おまえだけだ!」




アビスは、壇上から降りて来る。




「何故、何故だ!

 人族ごときがこんな・・・・・もういい!遊びは止めだ!

 貴様を捕らえるなど、生温い!

 我に挑んだことを後悔しながら死ぬがいい」




アビスは脇に差していた剣を抜いた。




同時に、先程のレッドオーガ達と比較にならない速さで間合いを詰める。




「これで終りだ」




そのまま剣を振り抜いた。



一瞬の出来事。


間合いを詰める速度も、剣を振り下ろす速度も段違い。



アビスが強いことは確かだが・・・・

その剣は空を切り、京太には掠りもしなかった。




アビスが、素早く間合いを詰めた時、京太も動いていた。



アビスが見たのは、京太の残像でしかない。



「躱しただと・・・・」



アビスの背後から、声がかかる。




「今度は僕の番だね」




そう言うと、京太はアビスを真似た。



だが、その速さにアビスは付いて行けず、

体を2つに切り裂かれた。



血を吐きながら床に倒れたアビスは、最後にもう一度問う。




「貴様・・・は、何者・・・なんだ・・・」




「神だよ」




京太が素直に答えると、納得したような顔で、息を引き取った。


レッドオーガ達との戦闘が終り、

人質を探す為に、謁見の間を出ようとすると

遠くから足音が聞こえて来た。




――まだ、いたのか・・・・・




そう思いながら、再び剣を構える。



だが、そこに現れたのは、仲間達だった。




「京太ぁぁぁ!」




叫びながら、空を飛んで抱き着いて来たのは、フーカだった。




「私ね、頑張ったんだよ」




「う、うん、ありがとう」




フーカは、嬉しそうに京太に抱き着いたまま羽を『パタパタ』させている。




――フーカっていつから僕を呼び捨てで呼ぶようになったんだろう・・・・・




そんな事を考えていると、他の仲間達も追いつき、京太の周りに集まった。



その中から、ソニアが問いかける。




「京太、ダンジョンに入ってから、魔獣も魔物を見ないけど?」




「うん、倒したよ」




「えっ!?

 もしかして、その・・・全部?」




「ハハハ・・・・・見つけた魔物は全部倒したけど、

 ダンジョンの中、全部かと言われれば、自信ないかな。」

 



ソニアは、ため息を吐く。




「ほんとに・・・・もう・・・まぁ、何時もの事だから、少しは慣れたわ。

 それで、人質を探すのよね」




「うん、手伝って貰える?」




「任せて、手分けして探しましょう」




全員で宮殿の中を隈なく探し、人質だった女性と宝物庫を見つけた。


ただ、宝物庫の中は、冒険者や村から奪った物で、

高価な物は無かったが

一応、アイテムボックスに収納した。




その後、助け出した女性を連れて、ダンジョンから出ると、

放置していた馬車に乗り、

1の村へと向かった。




1の村に到着すると、村の住人と、村長のリーマスが近づいて来た。




「冒険者様、その・・・ダンジョンは、如何でしたか?」




「レッドオーガは思った以上にいたけど、倒したから大丈夫だよ。

 それに、村も取り返したから、戻れる筈だよ」




その言葉に、リーマスは安堵しているが、京太の話は続く。




「レッドオーガのボスとその周辺の者達は、僕達と同じ言葉を話したよ。


 それに、今回の襲撃の原因の一つは、

 オーガに襲われたが、村に戻って来た女性を殺した事がきっかけかもしれない」




リーマスは聞き直す。




「どういう事でしょう?」




「人族がゴブリンに攫われて子を産まされたり、

 食料になる事は、知っているよね」




「・・・・・はい」




「オーガがそれと同じ事をして、子供を作ったんだよ」




その事実に、リーマスは言葉を失うが、何とか声を絞り出す。




「・・・あのそれで・・・・・」




「オーガと交わった女性は、オーガの子を産みました。


 でも、彼女はその子に僕達と同じ言葉を教えました。


 そうする事で争いを失くそうとしたのかも知れません。


 その証拠に、彼女はその子を連れて村に戻って来た筈です」




「なんと!・・・ならば何故、この様な事になったのですか?」




京太は、ため息を吐く。




「 村に戻った彼女は、村人たちに化け物と罵られて殺されたからですよ。


 殺される寸前、やっとの思いで母親が、息子のレッドオーガが、

 今回の首謀者なんです」




「なんという・・・・・それでは、この度の事は・・・」




リーマスは、ガックリと地面に膝を付いた。




「これは、儂らが起こした事だったのか・・・・・」




落ち込むリーマスに話掛ける京太。




「今回、あのダンジョンから助け出した女性達がここに居ます。


 でも、貴方達が、前回の様に彼女達を化け物呼ばわりするのであれば

 此処に残す事は出来ません」




リーマスは、村の皆の表情を見るが、誰もが浮かない顔をしている。




「申し訳ありません。

 今の私達には、どうこう言う資格が無いことはわかっております。

 ですが、助けるだけの食べ物もありません。


 厚かましいお願いなのはわかっておりますが

 どうか、冒険者ギルドで見て頂く事は出来ませんか」




この発言が、村で引き取りたくないという言い訳なのか、

それとも、面倒を見るだけの食料が無いことが理由なのかを

京太は、確かめる。




「では、食べ物があれば、面倒を見れるという事ですね」




その返答に、リーマスは、顔色が無くなる。




――この人達、受け入れる気が無いんだ・・・・・




そう思うと、悲しく思えた。



それに、この状況だと、助かった人達もどう扱われるかが心配になる。




このまま村に任せても、心の傷を深くするかもしれないと判断した京太は、

女性達の元に向かった。




「ちょっといいかな?」




近づいて来た京太に、女性達は、改めてお礼を告げる。




「この度は、助けて頂き、有難う御座います」




「ううん、気にしないで。

 それより・・・・・」




京太は、リーマスとの会話の内容を包み隠さず話す。



その事を聞き、女性達は、案の定、ショックを受けている。




この場所に残ることは出来ない。



それが、現実であり、事実だ。



塞ぎこむ女性たちに、京太は笑顔を向ける。



「それで、提案があるんだけど」




京太に視線が集まる。




「僕の領地で働かない?」




その提案を聞き、数人の女性が身を乗り出した。




「こんな私達でも使って頂けるのですか?」




「こんなって・・・・・

 貴方達は、何も悪い事はしていません。


 仕事も、家も、全て用意しますので、安心してください」




女性達は、1人、2人と決意を固め、

最後には、全員が京太の街に来ることを希望した。




「それと、先に言っておくけど、街は王都の近くだけど、

 まだ開発中だから、あまり期待しないでね、

 でも、家とかは、ちゃんと準備するから」




「有難う御座います」




女性達との話し合いも終り、リーマスの元に戻る京太。




「お待たせしました。

 彼女達の事だけど、僕が引き取るよ」




「え!?」




「僕の領地で働いて貰う事にしたから」




その言葉に、村の人々は驚く。




「貴方は、領地をお持ちなのですか?」




その言葉を聞き、京太の後ろから、イライザが前に出た。





「私の旦那様ですから、当然です。


 そういえば、自己紹介がまだでしたわね。


 私の名前は、イライザ アトラ。

 アトラ王国、第一王女です」




その言葉を聞いた途端、村長のリーマスを始め、

村民全員が地面に膝をつき、頭を下げた。




「貴方達が、大変な思いをしている事は、理解出来ます。


 ですが、魔物の子を連れ帰ったとはいえ、殺す必要な無かったのでは?

 確かに、難しいことは理解できましたから、これ以上攻める事は致しません。


ですが、今回助かった女性達の保護も放棄されたことは

 理解出来兼ねます。


 なので、この件は、しっかりと父に報告させて頂きます」




それだけ言い放つと、イライザは京太の腕を掴んだ。




「貴方、帰りましょ」




「あ、う、うん」




京太は、引き摺られるようにして、その場から去った。


馬車の近くまで戻ると、テントを貸した女性と子供が待っていた。




「色々、お世話になりました。

 これをお返しに来ました」




「返しに来てくれたんだね、ありがとう」




京太がテントを受け取ると、

2人は、その場を離れようとした。




「ちょっと待って!」




京太の呼びかけに、2人が振り返る。



「あの、何か?」



「これから、どうするの?」




「村に戻って仕事を探します」




「そうか・・・・・

もし、良かったらだけど、一緒に来る?


仕事ならあるし、迷惑でなければ、2人の家も用意するよ」




その言葉に、2人は驚いている。




「あの・・・・・」




「あっ!さっきの話聞いていないんだね。

 この人が、王女様で、僕が、こん・・・・」




「旦那様です!」




京太は婚約者と言おうとしたが、

イライザにより旦那に訂正されてしまった。




2人は慌てて膝を付こうとしたが、イライザが止める。




「それで、どうしますか?」




「・・・・・あの、宜しいのですか?」




恐縮気味に聞いてくる2人だが、イライザは気にも留めていない。





「旦那様が決めた事です。

 私に文句はありません。

 お二人方が、決める事ですよ」




微笑みながらそう伝えると、2人は『お願いします』と頭を下げた。




「じゃぁ、一緒に行こう」




全員が馬車に乗ると、京太達は、村を後にした。


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