第2話地上へ行こう

京太は、記憶に従い、半壊した建物の中を歩いた。




ある部屋の前で立ち止まり、中に入る。


部屋の壁には、1本の剣が飾ってあった。


京太は、その剣を手に取る。




「エクスカリバー」




脳裏に浮かんだ剣の名を言葉にすると、エクスカリバーは光を放った。




――本物のエクスカリバーなんだ・・・




その言葉に反応するようにエクスカリバーは、光を増す。




――反応しているのかな・・・




「宜しくな」




反応するようにエクスカリバーは、数回点滅を繰り返す。


京太は、嬉しさと興奮を覚えながらも、部屋を後にする。

 それから、他の部屋も見て回り、当分は、ここで暮らすことを決意した。




その後、1人残された天界で託された記憶を頼りに

魔法と剣の鍛錬をして過ごす京太。


天界には、昼夜が無い為、時間が分からなかったが、疲れる迄鍛錬をし、眠る生活を繰り返していた。


どれくらいの月日が経ったのだろう・・・・・


――そろそろ降りようかな


そう決意したのは、天界で生活して、3年が過ぎた頃だった。


出発を決めた京太は、鍛錬の合間に建てた12本の柱の1つ1つに挨拶をしてまわり


最後の柱の前に立つと、京太は話しかける。



「アトゥム様、これより地上に向かいます」




京太は、柱に背を向けると、魔法を唱えた。




「ゲート」




何も無かった場所に、シンプルな扉が現れた。


天界に現れた扉を潜ると、そこには、青い空と森があった。




――ここが地上・・・




この世界に来て初めて降りた地上に胸が躍る。




――これから、この世界で生きて行くんだ・・・




辺りを見渡すが、見えるのは草原と森だけ。




「さてと・・・」




京太が魔法を唱える。




「マップ」




頭の中にこの辺りの地図が浮かび上がった。




――一番近い街は、ここだな・・・




現在地から、一番近い街に向かって歩き始めた。


距離は近かったが、思った以上に、山あり谷ありの道だった。


途中、ファングウルフの集団に遭遇したが、京太が力を注ぎオーラを発生させると


ファングウルフの集団は、逃げて行った。




――あ、あれっ・・・




オーラに恐怖を感じたファングウルフの集団は、一目散に逃げた。




――もう、オーラは出さない様にしよう・・・




戦闘にならなかった事に悔やんだ京太は、反省した。


暫く山道を進んでいると、今度は、ビッグベアーに遭遇した。




「今度は、間違えない!」




京太は、アイテムボックスからエクスカリバーを取り出す。

ビッグベアーは、2本足で立ち、京太を威嚇してきた。


立ち上がったビッグベアーの大きさは、5メートル近くもあったが、

京太に恐怖心は無い。


剣を構え、一瞬で近づき、エクスカリバーを振り抜く。




――あ、あれっ!?




切った感触は殆ど無かったが、目の前に居たビッグベアーは、2つに分かれていた。




「流石、エクスカリバーだね」




エクスカリバーは、一瞬光ったが、すぐに治まった。




――なんか、可愛いな・・・




ビッグベアーの死体をアイテムボックスに収納した後、再び歩きだす。


山頂を越え、下り始めていると、途中で人の争う声が聞えて来た。




「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」




「怯むな!」




京太は、声のする方向に急ぐ。


視界の先に、争う姿が飛び込んでくる。


――あれは盗賊?


馬車を襲う小汚い格好の集団。

それに対抗する兵士のような格好の者たち。


戦況は、不利。


──助けるしかないよね・・・


決意を固めると


盗賊に襲われている馬車を助ける為に、ゆっくりと近づいた。




「てめぇ、何者だ!」




盗賊の1人が京太に気付き、剣を向けて襲い掛かってきた。


相手の動きが遅く感じたので、剣を抜かず、相手の剣を奪う。




「あれ・・・・・?」




男は自分の手を見ていたが、京太に首を落とされて、絶命した。


そのまま馬車に近づくと、盗賊達を次々に切り倒す。


突然現れた京太に恐れを抱いた盗賊達は、一目散に逃げ始める。




「ひ、ヒィィィぃ!」




「ば、ば、化け物だぁ!!」




「逃げろ!!!」




慌てて逃げだす盗賊達を追う事はせず、馬車に近づいた。




「大丈夫ですか?」




京太の問いに答えたのは、馬車の中から出て来た男だった。


男の服装は、中世の貴族の様な恰好をしていた。




――この世界の貴族・・・かな?




「危ない所を助けて頂き、有難う御座います。


 私は、【ダイアン ホルン】と申します。


 それから、奥にいますのが私の家内で【マーレ ホルン】です」




「僕は京太、この先の街に向かっている所です」




「そうですか、私共も街に帰る所でしたので宜しければ、護衛をお願いできませんか?


 この度の襲撃で、護衛の者も減ってしまいましたし、貴方の様な強い方だと道中も安心ですので・・・


 勿論、それ相応のお礼は、させて頂きますので」




ダイアンの誘いに、京太は乗る事にした。




「構いませんよ、行き先は同じですから」




「それは有難い、どうぞ宜しくお願い致します」




ダイアンは、礼を言うと、護衛長の男を呼びつけた。




「【コルレオ】、京太様をご案内しなさい」




「はっ!」




コルレオは、京太に近づく。




「私は、ホルン子爵様の護衛長、コルレオだ。

貴様は最後尾から付いて来い、他の者に迷惑を掛けるなよ!」




それだけ言うと、コルレオは、去って行った。




――怖そうな人だな・・・




京太は、言われた通りに最後尾を歩く。


途中で『ファングウルフ達』の気配がしたが、京太がオーラを放つと姿を消した。




――護衛の時は、便利だな・・・




その後、街に着くまで、何事も無かった。


街の入り口で、門兵に止められたが、子爵の馬車とわかるとすんなりと通された。


馬車は、平民街を抜け、貴族の屋敷の並ぶ通りに入っていく。


そして、とある屋敷の前で馬車が止まった。


ダイアンが馬車から降りと、待機していたメイドたちから

一斉に声がかかる。



「旦那様、お帰りなさいませ」


ダイアンは、『うむ』と軽い返事を返すと、屋敷には向かわず

京太のもとへと歩みを進めた。


「京太様、この度は、有難う御座いました。


 代金や謝礼の事も御座いますので、どうぞ中にお入りください」




京太は、誘われるままダイアンについて屋敷へと向かう。


ダイアンが屋敷に入ると、メイドたちが荷物を降ろし始めるが

護衛長のコルレオだけは、京太から視線を外さず、ニヤついていた。



「馬鹿め・・・」


『ぼそっ』と呟いた後、京太の姿が見えなくなると、

他の兵士達と兵舎に戻った。



屋敷に入った京太は、ダイアンに促されるまま、応接室に入る。




「どうぞ、こちらで暫くお待ちください」




ソファーに座ると、待機していたメイドが、お茶を運んできた。


無言のまま、お茶を差し出したメイドだが、何故か手が震えている。




――新人さんかな?




お茶に手を付けず、待っているとダイアンが応接室へと入って来た。




「お待たせいたしました」




ダイアンは、正面のソファーに座る。




「京太様、こちらが謝礼で、こちらが道中の護衛料です」


「有難う御座います」


差し出された袋の中を確認する事無く、懐に仕舞う振りをしてアイテムボックスに収納する京太。


「金額は、確かめなくて宜しいのですか?」




「はい、ダイアン様を信用していますから・・・」


その言葉に、笑みを浮かべる。


「はっはっはっ・・・有難う御座います。

 ささ、お茶でも飲んでお寛ぎ下さい」




ダイアンに言われるがまま、お茶を飲むと、体が痺れる感覚に陥った。




――毒入りのお茶だったんだ・・・




「グフッ!」




手足が完全に痺れて、持っていた湯飲みを床に落とす。




「この痺れ薬は良く効くようだな」




痺れて、口も聞けない京太を見ながら、ダイアンは笑っていた。


ダイアンが手を鳴らすと、兵士達が入って来る。




「この者をいつもの様にしておけ」




「はっ!」




コルレオは、部下に命令を下して、京太を運び出す。

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