第12話 異世界転職したらドラゴンのお腹のなかに入れられました…


わたしは今、ドラゴンのお腹のなかにいる。


何を言っているかわからないと思うが事実なのだ。



みなさんお久しぶりです!異世界転生職した小熊蜜柑です。保育士やってまーす。前の世界でも保育士やってたけど、こっちの世界だと女神の加護とやらが受けられて、とにかく丈夫。というか、無敵バリアが張られているような状態なので、どんなヤンチャな子でも大丈夫でーす。


あと、給料や福利厚生がめちゃくちゃいいでーす。


みなさんも異世界転職いかがでしょーか?


なにより子どもたちがみんなかわいいです。もちろん前の世界の子たちもかわいかったけど、こちらの子たちはフワモコしてます!そういうの好きな人にもオススメ!


と、ついつい宣伝をしてしまうくらいにはお気に入りの職場です。若干人手不足なのもありますが。


さてさて、余談はこのくらいにして、冒頭のドラゴンのお腹のなかにいるっていうのはなんじゃらほい?と思う方もいるかもしれません。優秀ですね。


こちらはまあ、その、なんていうか、サービスです。


というのも、父兄のドラゴンの方が急な腹痛で倒れてしまいまして、なんでも超丈夫なドラゴン族が腹痛だなんて、通常の病気はあり得ない。ということは、逆に変なモノでも食べたんだろう、と偶然通りかかった王様が判断しまして(そう、この世界のわたしの暮らしている国には王様というのがいるのです。大きくて美しい猫さんみたいな見かけなのですが、中身はタダのドSです)、わたしになんと「お前ちょっと中入って見てきて」「え?」「女神の加護あるからイケんだろ」「え?」という流れでドラゴンのお腹のなかに入れられました。


……ブラックじゃないですよ?


アルマジロっぽい見た目をしているサティさんも「王様!パワハラですよ!」って諌めてくれましたし。


けど、倒れているドラゴンのお子さんであるコアちゃんが、フワフワモコモコの羽毛を不安や恐怖から震えさせていまして、そこはもう、わたしは飛び込むしかないな、と思った次第です。そう!自分の意志です!自分の意志でドラゴンのお口に飛び込んだのです。


虎穴に入らずんば虎子を得ず、ドラゴンの口に入らずんばドラゴンの子をあやせず、なのです。あやせねば保育士失格ではありませんか。


わたしはかような職業倫理から自発的にドラゴンのお腹のなかに現在いるというわけです。


ハイ。


……と、まあ、なんだか面接の受け答えみたいな感じになっていますが、そろそろやめます。


なんでこんな口調だったかというと、ドラゴンの口のなかに入っていくという経験は頭のなかでずっとおしゃべりでもしてなきゃ発狂する感じだったから。


まず歯は獰猛過ぎるほどにギザギザで、今は気絶しているけれどなにかの拍子に起きて口を動かしたり、歯ぎしりでもしたらズタズタになってしまうんじゃないか?といくら無敵バリアがあるとわかっていても想像してしまう。


息もそれなりに生臭い。当たり前といえば当たり前で、口が臭いというのではなく、その奥に入っていくのだから、ドラゴンが臭いとかいうのではなく、たとえ美の女神であろうとそこは臭いだろうと思う。臭いは無敵バリアを透過する。もちろん毒なんかの成分があれば無敵バリアがろ過してくれると信じているが、それにしてもちゃんと臭い。


ヌメヌメもする。無敵バリアはあくまでもダメージを受けないようにはしてくれるが、なんというのか?生活レベルの刺激に関してはスルーなのだ。お風呂とか入る時、何も感じないのではつまらないというので、おそらく女神様のハカライというものなのだろう。


けれど、それにしてもヌメヌメする。わたしはすでに喉奥にまでしゃがみ歩きでお邪魔しているわけで、唾液を通りぬけて、たぶんもうほぼ胃液のゾーンにまで来ていると思う。すると、ヌメヌメレベルも一段上がり、臭いの方も数段上がるのは必定。


はやく出てシャワーを浴びたい。わたしはもう半べそだ。ドラゴンの腹のなかにいるのだから、そのくらいの権利はあると思う。


手にしている月光草のボンヤリした明かりを頼りにそれでも前に進んでいくと「これは?」というものに行き当たった。


わたしはそれを「ドッコラショッ!」と気合一発引っこ抜くと、周りの臓物がビクンビクン動いて、え?なに?やばい?と思ったのも束の間、外へ排出されていた。……ゲロまみれで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る