第11話 猫の胸毛はスパダリの胸毛

「ヨシッ!じゃあ、改めて謝罪と歓迎の意を込めて、サービスしてやろう!」


「え?」


ふっ、と重力が一瞬なくなったかと思うと、わたしは王様の肩に担がれていた。山賊担ぎだ。


「ちょっ」


抗議する間もなく、王様はかがみ込み、呪文を唱えた。


「マルス!」


すると、まるでジャックと豆の木もかくやというほどの巨大な植物が、足元からメキメキ伸びた。石畳を盛大に破壊し、わたしと王様をドンドン空へと押し上げていく。


「うわー!バカー!降ろせー!」などと一通り抗議の声を上げても、王様はガッハッハと楽しそうに笑っていた。


地面がだんだんと遠くなるにつれて、わたしは王様にひっつき大人しくせざるを得なかった。どこかから出てきたパッチさんが豆粒大になって怒っていた。


「どうだ?いい眺めだろう?」


伸び切った植物の上で、王様ははしゃいで、ドヤ顔をする。


「さ、ささ、寒い!」


わたしは生まれたての子羊のように震えていた。当然だ。風がすごい。何十メートルという高さに吹く風はマジ容赦ない。吹き飛ばされないように、わたしはへたり込んで、植物の幹に背を預けてる。


「こ、これ、落ちたら死ぬんじゃ?」


「アッハッハ、転生者が何言ってるんだ?落ちても地面に穴があくだけで、お前は無傷だよ」


ということは、人型の穴があくのだろうか?いよいよギャグマンガだ。


「な、なんで、何で寒いの?」


聖女の加護があるのに。と続けようとして、歯がガタガタ震えた。


「そんなもんオメー」


王様が月明かりを背にして、ドSな笑みを浮かべる。


「えっ、ちょ」


グイッと腕を引かれる。


「温め合う喜びを忘れねーために決まってるだろ」


王様の胸に抱かれた。


より正確に言うなら、バックハグ。あぐらしてる王様の上に座らされての、バックハグ。


ギューってされる。温かい。非常に温かい。というか、もはや熱くすらある。


「こ、こ、こ、こういうのって、イケないんじゃないですか!?職権乱用的にも、色々と!」


わたしは真っ赤になって言う。鏡で確認する必要ないほど顔が熱い。


でも、王様はわたしの異をまったく意に介さず、マイペースに言った。


「自前の毛皮がないと大変だよなー」


そう言って、しっぽでわたしの首にマフラーを作ってくれた。


わ、わからない。王様にはビタ一文そんな気はないのかもしれなかった。


そしてそんなことはどうでも良くなるくらい、深く、なめらかで、きめ細かい毛皮を王様はしていた。はっきり言って、落ち着く。特に胸毛の素晴らしさたるや!後頭部がどこまでも沈んでいってしまいそうな錯覚に囚われる。


匂いもワンダホーだ。陽だまりを閉じ込めたような郷愁を誘う芳しさがあった。身も心も温かった。


「おい!寝るな!せっかく連れてきたんだから、少しは景色を楽しめ!」


プニプニと肉球で頬にちょっかい出される。


「う、うう、やめて」


わたしはますますふわふわの奥地に逃げ込んだ。急速に眠気が襲ってきていた。思えば、今日はとてもいろんなことがあったのだ。


「おやしゅみ」


「寝るなー!」


夢の中でクロが必死にほっぺたを舐めてきた。


ザリッ、ザリッ


くふふ、わたしは可笑しくなって、笑う。


幸福感と、安心感につつまれて、わたしは子どものように全てをゆだね、眠りに落ちた。

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