【創作落語】珈琲(コーヒー)

Danzig

第1話

【まくら】

えー、毎度バカバカしいお笑いを一席お付き合い願いたいと思います。

世の中には、嗜好品(しこうひん)と呼ばれるものがあります。

嗜好品とは、匂いとか味、そう言ったのもを楽しむものだそうですね。

嗜好品の代表的なものといえば、最近は少なくなりましたが、やはりタバコですかね。

外国にはシガーバーなんて呼ばれる、タバコや葉巻を楽しむ為のお店もあるようですね。


その他には、ガムですとか、お酒、ジュースですとか、

あと、お漬物なんてのも嗜好品の中に入るのだそうです。


そして嗜好品と言えば、何と言っても、お茶の類(たぐい)ですね。

日本茶に始まり、紅茶、中国茶など、大変愛好者が多いそうです。

中でも、コーヒーなんてのは、もう大変沢山な愛好者がいて、

しかも、こだわりとかも凄いらしいですね。


「コーヒーとは、悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、愛のように甘い」

なんて言われてるそうで、

なんだか格好いいですね。


日本にも大変沢山のコーヒー好きがいるようなんですが、

このコーヒーが日本に伝わったのは、江戸時代なんだそうです。

長崎の出島で飲まれていたそうなんですね。


それから時が経って、横浜に黒船が来航してからでしょうか、

江戸でもコーヒーが飲まれる事があったようです。


【本編】


熊五郎:おう八、いるかい?


八五郎;そりゃ、いるけど、熊さんどうしたんだい。


熊五郎:ちょっと八に聞きてぇ事があってよ。


八五郎:俺に聞きたい事?


熊五郎:そうなんだよ、

熊五郎:八、お前、コーヒーっていう飲み物、知っているか?


八五郎:コーヒー? 何だいそりゃ


熊五郎:南蛮のお茶だよ


八五郎:へー、南蛮の? 知らねぇなぁそんなお茶は


熊五郎:そうか、やっぱりお前は知らねぇか・・・


八五郎:やっぱりってなんだよ・・・ったく

八五郎:それで、美味いのかい、その格子(こうし)ってのは


熊五郎:格子じゃねぇよ、コーヒーだよ、コーヒー


八五郎:あぁ・・まぁ、名前何てどうでもいいや、で、美味いのかい、そのお茶は


熊五郎:いや、それが、俺も飲んだ事はないんだよ


八五郎:なんでぇ、熊さんも知らねぇんじゃねぇか


熊五郎:まぁ、そうなんだけどな


八五郎:じゃぁ、どこで知ったんだい、そんなお茶の事を


熊五郎:俺の妹のお千代いるだろ?


八五郎:あぁ、お千代ちゃんな。 お千代ちゃんがどうしたんだい?


熊五郎:いや、お千代がどうしたって訳じゃぁねぇんだけどよ

熊五郎:この前、お千代が勤めてるお茶屋に、ちょっと、お千代の顔を見に行ったんだよ


八五郎:熊さん、またお千代ちゃんに、小遣いせびりに行ったのかい?


熊五郎:まぁ、いいじゃぁねぁか、そんな事は

熊五郎:でよ、そうしたら、そこに、南蛮人が居てな、コーヒーを飲んでたんだよ

熊五郎:それが、あんまりにも美味そうに飲んでやがるからよ、俺にも一杯くれよって言ってみたんだよ

熊五郎:そしたら、イヤだって言いやがってよ


八五郎:なんでぇ、ケチな野郎だな


熊五郎:まぁ、高価な飲み物らしいからな、銭(ぜに)よこせって言われても払えねぇし、まぁ仕方がないさ


八五郎:でも、そんな事聞いたら、お茶好きの俺としちゃ、飲みたくなるじゃねぇか、なぁ、その高知(こうち)ってやつ


熊五郎:高知じゃねぇよ、コーヒーだよ


八五郎:まぁ、名前はどうでもいいよ、飲みてぇなぁその・・・


熊五郎:コーヒーな


八五郎:あぁ、それそれ。何とかならねぇのかな


熊五郎:だろ?

熊五郎:だからよ、俺達で作ろうと思ってよ


八五郎:作れるのかい、その・・・あれを


熊五郎:まぁ、俺も分かんねぇけどよ、作ってみてぇじゃねぇか

熊五郎:だからよ八、おめぇも手伝え


八五郎:手伝えって、どうやって作るんだよ


熊五郎:作り方は聞いて来たんだよ


八五郎:へー、どうやって作るんだよ


熊五郎:何でも、コーヒー豆ってのを煮だすんだとさ


八五郎:コーヒー豆? どんな豆なんだい、そりゃ?


熊五郎:コーヒー豆ってのはこの国には無いらしいんだけどよ、

熊五郎:まぁ、豆っていうくらいだから、似たような形なら、似たような味だろ


八五郎:ふーん、そんなもんかねぇ

八五郎:で、どんな形した豆だったんだ?


熊五郎:俺が見せてもらったのは、大豆(だいず)を半分にしたようなやつだったよ


八五郎:大豆? 大豆ならあるよ、ちょっと待ってな

八五郎:確か台所のところに・・・おう、あったあった、ほら大豆


熊五郎:おう、よしよし

熊五郎:それを黒くなるまで煎(い)るんだってよ


八五郎:そうかい、それじゃ、煎(い)ってみるか・・・

八五郎:って、どうやって煎るんだよ、銀杏(ぎんなん)を煎るみたいな感じでいいのかな?


熊五郎:いいんじゃねぇか、そんな感じで


八五郎:おう分かった、やってみるよ


(大豆を煎る八五郎)


八五郎:お、だいぶ匂いがしてきたな


熊五郎:あぁ、香ばしいな


八五郎:でもよ、熊さん

八五郎;だいぶ焦げ目はついて来たけど、あと、どれくらい煎ればいいんだい?


熊五郎:うーん、もうそろそろいいんじゃねぇかな。

熊五郎:それ以上煎っても、焦げ臭くなるからよ。


八五郎:そっか、じゃぁ、この辺にしとくか。

八五郎:で、この後は、どうするんだい?


熊五郎:豆を煮(に)出すんだってよ


八五郎:煮出す?

八五郎:えーっと・・・じゃぁ、火鉢に鍋を乗っけてっと

八五郎:これで煮出していけばいいんだな


熊五郎:あぁ、それでいいと思うな


(大豆を煮だす八五郎)


八五郎:なぁ、熊さん

八五郎:大分煮詰めたけど、これ、あとどれくらい煮詰めればいいんだい?


熊五郎:そうだな・・・分からねぇから、ちょっくら飲んでみるか?


八五郎:そうだな


(二人でコーヒーを飲む)


八五郎:・・・熊さん、コーヒーってこんな味なのかい?


熊五郎:・・・うーん、煮出しが足らねぇのかな


八五郎:じゃぁ、もう少し煮出してみようか


(再び煮出す八五郎)


八五郎:もういいかな・・・どれどれ


(コーヒーを飲む二人)


八五郎:熊さん、これ美味いかい?


熊五郎:あんまり美味くねぇなぁ、

熊五郎:何だか薄い出汁汁(だしじる)飲んでるみてぇだな、こりゃ


八五郎:熊さん、騙されたんじゃぁねぇのか?


熊五郎:騙されたってどういう事だよ

熊五郎:お千代の所の客だぞ、いい成りしてたし、異国の金持ちが俺達を騙(だま)したって何の得にもなりゃしねぇだろ

熊五郎:それによ、そんなに悪い奴には見えなかったんだよ


八五郎:それじゃぁさ、熊さんが全部聞いて来なかっただよ

八五郎:きっと、もっと色々入れてんだよ?


熊五郎:あぁ、そうかもしれねぇな、俺もそそっかしいからなぁ


八五郎:しっかりしてくれよ、熊さん

八五郎:じゃぁ、何が足らねぇんだろうな?


熊五郎:そうだな・・やっぱり、味としては昆布(コブ)じゃぁねぇかな?


八五郎:昆布かぁ・・・そうかもしれねぇな。

八五郎:じゃぁ、昆布入れてみるか


熊五郎:あぁ、そうだな、入れてみるか


(昆布を入れて再び煮出す、熊五郎)


八五郎:熊さん、昆布もだいぶ煮出せてきたぞ


熊五郎:おおそうだな、じゃぁちょっくら飲んでみるか


(二人でコーヒーをのむ)


八五郎:うーん、少しは良くなったけど


熊五郎:そうだな・・・まだ何か足らねぇんじゃないかな


八五郎:何だろうな


熊五郎:じゃぁ、カツブシかな?


八五郎:カツブシか・・・そうかもな

八五郎:じゃぁ、入れてみるか


(カツオ節を入れて煮込む)


八五郎:これくらい煮出せばいいかな


熊五郎:じゃぁ、ちょっくら飲んでみるか


(二人でコーヒーを飲む)


八五郎:うーん、だいぶ良くなって来たけど


熊五郎:でも、やっぱりまだ何か足らねぇ気がするな


八五郎:なんだろうなぁ足らないものって・・・・

八五郎:熊さん、思い出して見なよ、何かあるだろ


熊五郎:そんな事言った・・て・・あっ!


八五郎:どうした熊さん、何か思い出したのかい


熊五郎:そういえば、コーヒーの色ってもっと黒かったよ


八五郎:黒かった?


熊五郎:あぁ、黒かった、真っ黒だったよ


八五郎:黒いってどうすりゃいいんだよ


熊五郎:うーん・・・そりゃ多分、醤油だな


八五郎:あぁ、そうだよ、きっと醤油だ!

八五郎:熊さん、やるじゃねぇか


熊五郎:おお、俺は料理がちょいと出来るんだよ

熊五郎:まぁ確かに、醤油みてぇな色してたな


八五郎:醤油か・・・ちょっと待てよ


(台所から醤油を持ってくる)


八五郎:よし、じゃぁ、醤油いれるぞ


(醤油を入れる八五郎)


八五郎:どうだい、熊さん、これぐらいかい?


熊五郎:うーん、もう少し黒かったかな


八五郎:ほう、結構入れるもんだな


熊五郎:あぁ、結構黒かったぞ


(醤油を入れる熊五郎)


八五郎:こんなもんでどうだい?


熊五郎:色はこんな感じかな


八五郎:そうかい、じゃぁちょっくら飲んでみるか


(二人でコーヒーを飲む)


熊五郎:・・・


八五郎:・・・


(二人で顔を見合わせる)


八五郎:・・・いいんじゃねぇか?


熊五郎:あぁ、ちょっと濃いめだがいい味だな


八五郎:何だか蕎麦(そば)が食いたくなる味だな、こりゃ

八五郎:南蛮人ってのは、こんなものを美味い美味いって飲んでるんだな


熊五郎:そりゃ、やっぱり、あれだな、

熊五郎:南蛮の奴らも、やっぱり美味いと思うものは同じって事なんだな


八五郎:ははは、そりゃ違いねぇや


それからというもの、熊さんは麺つゆの事をコーヒーと言って自慢したという、

おなじみ、コーヒーの一席、

お後がよろしいようで


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【創作落語】珈琲(コーヒー) Danzig @Danzig999

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