大好きだった(女性ひとり読み)

Danzig

第1話


私は今、結婚式場の披露宴会場にいる。

今日は、私の従妹(いとこ)、誠司(せいじ)さんの結婚式


白いスーツ姿で、メイン席に座る誠司さん

隣には、ウェディングドレスを着た誠司さんの奥さんになる人・・・


7つ年上の誠司さんは、一人っ子の私にとって、

兄のような存在であり、憧れだった。


特にイケメンじゃないし、これと言ってスポーツが得意な訳じゃない。

でも、凄く優しくて、いつも私を構ってくれてた。


誠司さんの聞かせてくれる話は、私にとっては、いつも大人の世界の事で、

誠司さんの好きな歌も、本も、私の大切な大人のアイテムだった。


そんな誠司さんが、結婚しちゃうんだなぁ・・・


結婚式は滞りなく進んで行くけど、

目の前で何が起きているのか、私はまだ受け止められずにいるのだろう。

私だけが一人取り残された空間で、周りの映像だけが動いている

そんな感覚だった


披露宴が終わりに近づき、食事の最後にコーヒーが出された時。

コーヒーの香りが、私をようやく現実世界へと引き戻してくれた。


コーヒーかぁ・・・


コーヒーの香りを嗅ぐと浮かび上がってくる、誠司さんへの想いの記憶


誠司さんは、いつもブラックコーヒーを飲んでいた


私も誠司さんの真似をして、美味しくもないブラックコーヒーを無理して飲んでたなぁ

この大人の味を美味しいと思えるようになった時、誠司さんに追いつけるような気がしていた。


お母さんのお兄さんの子どもが誠司さん。

子供の頃、誠司さんを男性として意識した時、

私と誠司さんは親族だから結婚できないんだと悲しんでたけど、

ある日、従妹同士は結婚出来ると知って、すごくドキドキしてたのを覚えている。


早く誠司さんに追いつきたくて、いつも背伸びしてた。

だから、いつも同級生の男の子達が、みんな子供に見えていた。


いつしか、ブラックコーヒーの味を美味しいと思えるようになったけど、

誠司さんとの距離は、少ししか縮まらなかった気がする。


私もようやく18歳になったのに、

今年、高校を卒業して、大学生になれるのに、

そうしたら、もう少し誠司さんに近づけると思っていたのに、

また誠司さんは、私を置いて先に行っちゃうんだね


私は最後のコーヒーを口にした

ブラックの苦みが、この恋の終わりを私に告げている


でも

誠司さんには幸せになって欲しいな


真っ白なドレスを着た奥さんになる人は、とても綺麗で優しそう。

誠司さんが選んだ人だから、きっといい人なんだろうね。


よかったね。


結婚おめでとう、幸せにね。


お兄ちゃん

大好きだったよ

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