no34...2人の距離

「来なさい。《サモンテイム》アイアンゴーレム!」


 展開された大きな魔法陣からは、見たことのある鋼鉄の巨人が現れた。その大きさは軽く二メートルを超えており、ダンジョンの天井ギリギリまで迫っていた。


(でもベネッサ。麻痺で身体が……)


「大丈夫です。《シンクロテイマー》」


 ガクッとベネッサの身体から力が抜けると、アイアンゴーレムがベネッサの身体を抱き抱えて、背中の凹みに背負った。


(え、これって)


「ふふ、実はこれ私が操ってるんです。《シンクロテイマー》は従魔と完全に一つになるスキルで、私がアイアンゴーレムを操ってます」


『ベネッサ! 三匹行ったぞ!』


 カグラの声でシェルロックリザードへ視線を向けると、弾丸のように飛来した三匹が、アイアンゴーレムに突き刺さった。


「沈みなさい! アイアンクラッシュ!」


 アイアンゴーレムが両手を組んで鋼鉄のパンチを振り下ろすと、三匹のシェルロックリザードの頑丈な岩鎧は砕かれ、地面にめり込んで絶命した。


(強っっよ!)


 アイアンゴーレムっていう名前から、RPGの序盤に出てくるゴーレム系の雑魚モンスターかと思ったら、すごく強い。


「この子は私が手塩にかけて育てたゴーレムですから、スキルレベルも半端ないですよ」


(ベネッサ! まだあんなにいるよ!)


 崩れた壁の中から、シェルロックリザードがわらわらと出て来た。


「見ていてください。アイアンゴーレムの力を」


 残りのシェルロックリザード達にアイアンゴーレムが両手を向けると、ギュンギュンと手のひらが赤く熱く光り始めた。


「穿て! インフェルノブレイズ!」


 ズギューン!と両手から、まさかのビームが出た。恐らく火炎魔法系なのだろうけど、極太のそれは完全にビームだった。アイアンゴーレムから発せられた極太ビームは、床で伸びてたシェルロックリザードも含め、全て消し炭にしてしまった。


 ああ、魔核が……。ベネッサに任せるとやっぱり魔核は残らない……。


 ……ズキ!


 痛っ……。ん? なにいまの? 今はベネッサが身体を支配してるはずだから、私にダメージはこないはずなのに。ズキっと心臓が締め付けられるような痛みが走った。


(ベネッサ、大丈夫? 痛くない?)


「はい、大丈夫ですよ。もう麻痺も消えました」


 ベネッサはダメージを受けていないようだ。なんだったんだろ?


 《シンクロテイマー》を解除してアイアンゴーレムから降りたベネッサは、弾き飛ばされていたカグラを拾ってくれた。


『アイアンゴーレム。凄まじいモンスターだな』


「ええ、第八領地にある古代遺跡に発見されたモンスターです。テイムするのに苦労しましたが、力強い味方です」


 ベネッサに拾われたカグラは、シェルロックリザードに削られた刀身が元に戻っていた。


(あれ? カグラの刃が治ってる?)


『ああ 我には自己修復のスキルがあるからな』


(よかったぁ……。カグラが使い物にならなくなっちゃったかと思ったよ……)


「時間はかかるが ある程度の破損は問題ない』


 本当によかった。カグラが無事で……。


『それよりも涼音 我らに言うべきことがあるのではないか?』


(う……)


 珍しくカグラが怒ってる。でも、スキルが欲しかったんだもん。もっと強くなって、役に立ちたかったしベネッサを、早く王子様に会わせてあげたかったし。


――貴様が死んだら 我はまた一人になるんだぞ――


 カグラはさっき、もう一人にしないでくれと言った。何年、何百年ここにいたかはわからない。死ぬことのない身体でただ一人。寝ることも許されず、ずっと一人で孤独と闘って来たのかな。


(ごめん……。一人で突っ走りすぎました)


『うむ わかれば良い』


(ベネッサ、もう戻ってもいい?)


「あ、待ってくださいね《リバースサモン》」


 展開された魔法陣の中にアイアンゴーレムは、シュッと吸い込まれて行った。本当に便利な魔法だ。


「大丈夫です。交代〈スイッチ〉」


 ぐわっと押し出される感覚に襲われて、魂が身体にフィットした。確かにベネッサの身体はなんともない。さっきの痛みはなんだったんだろう。もしかしたら、2in1でいる事の弊害みたいなモノだったらどうしよう。


 いつか私はベネッサの身体から出ていかないといけない時が来るのかな。あんまり先のことを考えて動くのは得意じゃないけど、地上に出て全て丸く治ったら、カグラを握れない時が来るのかもしれない。そう思ったら手の中のカグラの感触を、重さを改めて実感する。私だってカグラとずっと一緒にいたいよ……。


『どうした涼音? 腹でも空いたか?』


「もう! カグラって乙女心をわかってないんだから!」


『なんだと?』


「っていうかー? カグラさんって意外と脆いんですね?」


『……貴様 言って良い事と 悪い事があるぞ』


「本当のことじゃないのー! 岩に負ける神剣ってどうなの?」


『元はといえば 貴様が我の忠告を聞いて引かぬからだろう!』


 ふふ、楽しい。カグラとこうしてお喋り出来るのもあとどれくらいなんだろう。


――ズキッ


 胸の痛みが、この身体との別れの時が迫るのを知らせている気がした。


――配信累計時間:7時間48分


―――――――――――――――

この作品を読んで頂きありがとうございます


執筆の励みとなりますので、フォローと★で応援お願いします。

「面白い!頑張れ!」と思ったら★3を

「まぁまぁかな」と思ったら★1をお願いします。ペコリ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る