23 それは、何気のない一言だった




 スーパーマーケットの荷物の運び入れ、品出し、前陳の作業をしながら知った顔の客と少しの会話をする。

 上司が何か言う前に動く、一年も働いていたらある程度のことはできる。

 学生のアルバイトが頼ってきて来たり、上司を通さずに課長や店長から色々と言われることもある。


 ――この生活も、あと700日。


 ファミレスもトロイノロいだと言っていた先輩達と同等かそれ以上の仕事ができるようになった。今では手のひらを返したように頼ってくる。

 厨房で調理をさせてもらう機会も少し前から用意された。

 今後のことを期待されて育成されているのだと感じるが、最初の育成期間や研修期間に散々言っていたことを忘れるわけもない。


(……この場所で「いらっしゃいませ」と何度言ったか)


 気持ちが籠っていないとかなんとかいう客もいたけど、今では言わなくなった。

 気持ちを感じているのか? 込めていないのに。

 笑顔でそれっぽく言えば満足をしてくれる。

 ただ飯を食べに来ただけの客が、ただ働いているバイトに上からモノを言わないでほしかった。


 ――この生活も、あと640日。


 居酒屋のバイトも手際が良くなった。

 酔っ払いの対応は相変わらず好きではないけど、一年と少し前を考えると上達をしたし、なにより心を殺してできるようになった。

 今、世の中は夏休み前で浮かれているらしい。

 大学生のスタッフはテストが近いからという理由で休みがちになる時期だ。その分、僕の方に負担がかかる。

 まぁ、人が少ないときは中村さんが手当てで給料を多くしてくれるから働き時だ。


 ――この生活も、あと……。


「本当にこのままで……いいのかな」


 僕は、何気ない一日のスーパーマーケットのバイト終わりにそう呟いた。

 僕は明日も、明後日もその次の日も同じことを繰り返すだけ。

 それで、この不安が紛らわせれるなら、僕はこれをする。


 ……変革? そんなのする気力も残ってない。


 そんなの考える思考力も時間も、自由もない。


 ……そう思っていた。


 佳奈に「大学に行ったらいいんじゃないかな」と言われるまでは。


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