06 両親が……いなくなった
二人は雪を体に積もらせながら、母親の職場に到着した。
豪雪の影響で買い物客もガランとしている様子。従業員の何人かも気を抜いているのかバックヤードの中で談笑をしている姿が見える。
そんな中、売り場に出ていた従業員を見つけて母親のことを聞いてみたのだが――……
「えっ、今日は来てない……?」
シフト表を確認しても母は今日、出勤日ではないと伝えられた。
「だ、だって……まだ家に帰ってきてないですし……!」
どれだけ聞いてみても「今日は来ていない」「出勤日ではない」と言われ、母が帰って来ていない理由は何一つ分からない。
終いには「まだお若いからね、ハッスルしているんじゃないの?」と、悪い冗談を子どもに向かって言ってきた。
典型的な悪い大人の、典型的な悪い対応。
明人と佳奈は自分の冗談で笑っている従業員のことを無視し、母の職場を出ていった。
「兄さん、どうするの?」
「……帰ろう。たまには大人だって羽を伸ばしたい日があると思う……明日になったら帰ってくるさ」
「……うん」
大雪が降り続け、来た時より積もっているように思える。
母さんと父さんは、今何してるんだろうか。
心にあったその違和感が不安に変わるのを感じ、来た道を帰ることにした。
◇◆◇
父と母が家に居なくなってから3日が経った。
最初は、2人で小旅行にでも行ってるのだろう。残業して雪の遅延で帰宅困難になったのかも。なにか特別な用事で実家に帰ってるのかもしれない――と考えていた。
そう考えて……でも、違和感があった。
両親は、連絡を寄越さずどこかに行くような人達じゃない。
「ただいま……」
今日も塾には行かず、家で勉強しようと思い、放課後になると真っ直ぐに家に帰った。
いや、家で勉強したいというのは口実だ。今日こそは両親が帰ってきているのではないかという期待をしているのだ。
だが、玄関を開くと明人の表情はストンと落ちていった。
二人の靴が無い。
明かりもついていない。
普段は聞こえてくるはずの生活音が聞こえてこない。
「……っ」
玄関を勢いよく閉めて中に入った。
普段通りの居間、何も手がつけられてないキッチン、カーテンが開けられている窓。
どこもいつも通りなのに――親が居ない。
明人はカバンをソファに投げ、そのまま寝転がった。
「子どもが受験って時に、どこほっつき歩いてんだよ……」
手で顔を覆って呟いた。
母と父のことが気になって勉強に集中ができない。
もしかして事故にあってしまったのではないか? と思ってテレビのニュースに目を通すが、どこにも「平野」の名前は出てこない。
出てこない度に安心するが、結局どこにいるのか分からない状態に戻るだけだ。
佳奈の方は昨日受験を無事終え、あとは結果を待つだけとなった。
あれだけ二人が大事にしていた妹の受験だろうが。
あれだけ厳しく教育をしていた兄の受験だろうが。
応援してくれるはずの二人の姿は見えない。
佳奈を不安にさせないように、とマイナスなことは言わないように努めているが……佳奈も馬鹿ではない。おそらく色々と考えている。受験に集中出来ていればいいが……。
「……くそっ」
佳奈を1人で受験会場に行かす訳にはいかず、明人が付き添いで着いて行って送り迎えをした。
佳奈は大丈夫だと言っていたが、少しでも安心して試験に望んで欲しかった。
母の仕事先に行った次の日、父の方の職場に連絡をとってみたが『有給休暇を消費しているみたいです』と返答が返ってきた。
有給休暇の使い道は何か聞いていますか、と聞いてみたが結果は知らないとの返答。
電話を受け取った人以外に聞こうにも忙しいと断られ、結局それ以上の情報はなし。
明人の中で心配や不安が段々と『怒り』へと変わっていくのが分かる。
結婚記念日とかで旅行してました~、アハハ……と言ってくれた方が、怒りを通り越して呆れに変わるから感情ぶつけなくて済む。
どんな理由でもいい、帰ってきて安心させて欲しかった。
大きく呼吸し、気分を落ち着かせ、ソファから時計を確認する。
「……そろそろ佳奈が帰ってくる時間、か。料理、作っておかないとな……」
不安と怒りが渦巻く中、キッチンに向かった。
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