『自分に酔えない『日常』に想い焦がれ』
久遠ノト
この世界において、ちっぽけな僕たちは
レールの上を歩く足は前を向いて
01 何気のない日常
「おつかれ~。じゃ、またな」
「おーう、またな~」
塾が終わり、同じ高校から通っている友人と交差点で別れた。
道を歩くと『合格祈願』『学業御守』の御守りが結ばれた鞄を持つ学生が道を行き来しているのがよく目に入る。
時期は受験期、大学受験シーズンだ。
青年の名前は
父親譲りのくせっけ、特段顔が整っているということもなく、体格は細くもなく太くもない。自称進学校の高校に通っている彼は、
普通の家庭に生まれた、普通のこども。
目立った特徴もこれと言ってない。
粗探しのように特徴を上げるならば、無自覚なシスコンであるというところだろうか。
「――あ、もしもし? 佳奈?」
『わ、兄さん。どうしたの?』
耳に近づけたスマートフォンから聞こえる元気な声を聞いて、明人の口が自然と綻ぶ。
電話の相手は
『あっ、塾が終わったのか! そっかそっか』
「そそ。さっき終わったとこ。どこにいる?」
『今は……えーと、ここは……マクド〇ルドが見えるよ!』
そんな妹も中学三年生になり、塾に通いながら高校受験に向けて勉強をしている。
3つ歳が違う妹とは受験期が毎回被ってしまうことから、親に負担をかけているような気もする。憂いても子どもが何か出来る訳でもないから仕方ないのだけれど。
ともあれ、二人は夜遅くまで塾に通い、合流して帰る。いつもの流れだ。
妹の方が早く終わるからと暇つぶしで街中をウロウロとして待ち合わせ場所が毎回違うが、それはご愛嬌。
「どのマ〇クだ」と上を見上げ、明人は当てずっぽうで「塾近くの所?」
「えっ、すごっ。なんでわかったの!? そうそう! そのマクド〇ルド!」
「当たった。分かった、すぐそっち行くね」
ぷつりと携帯を切ると手をポケットに突っ込み、中のカイロで手を温める。
12月過ぎで肌寒い。塾内は暖かくて寒さを感じなかったけれど、外に出たら嫌でも時期を思い出させられる。
テレビでも先日『初雪を観測〜』という報道が流れていたのを学校に行く前に横目で見た。本格的な冬が到来をしているらしい。
マフラーとマスクから顔を出し、ほぅと空に息を吐くと、白く濁り、溶けていく。
――息を吐くと白くなって消えるような時期だもんな。
なんて時間の流れを感じて感傷に浸りながらも、世間ではウイルスが流行ってるだのなんだのと言っていたことを思い出した。
「……大事な時期だから、面倒くさいけどマスクはしておこう」
独り言を呟くと、明人はマスクを着用し、佳奈が待つ場所まで駆け足で向かった。
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