第2部

第55話【第2部】プロローグ

アメリカ合衆国。ホワイトハウス。


その部屋の主が軍の制服に身を包んだ男に尋ねた。


「日本に発生した例の島、その後どうなっている?」


「我が国も含めて強行偵察の第一波の派兵を終えてからは静かなものです。日本も周囲の海域に艦艇を展開しているのみで新たな動きは今のところ見せていません」


極東において連続して発生したスタンピード。そして「ダンジョンに星が流れた日」の深夜に太平洋に突如出現した無人島。


無人島発見の報告を聞いた彼らは太平洋に展開していた第7艦隊の特殊部隊をいち早く急行させた。なお外交ルートでも正式に日本政府へ調査協力を打診したが断られていたため、もちろん無断での派兵である。


公になれば多少の問題になることは間違いなかったがそのリスクを負ってでも早めの対応が必要だと判断した。


なぜなら。


あの国のクレイジーな研究者が披露した数々の超兵器たちが文字通り世界のパワーバランスを変えてしまったからだった。


ダンジョン産のAI。まるでコスプレショーのようなのに笑えない汎用性とバリエーションを誇るパワードスーツ。数々のドローン兵器とその物量。そして真面目に考えるのが馬鹿らしくなるほどのインパクトを世界に与えた人型の巨大ロボットと、既存の航空宇宙工学を完全に無視した飛行モジュール。


極めつけに対消滅弾と衛星兵器神の杖という文字通りの戦略兵器。


これらを見せつけられた世界中の人々は思った。


「そういえば日本ってそういうとこあるよね」と。


日本人からしてみれば大変迷惑な話である。やらかしたのは日本という国ではなく、どこぞのクレイジーな研究者なのだから。


それはともかく。


いまの日本国やロマンがどうのと騒いでいる例のクレイジーな研究者にあの島を渡してしまったら次に何が起きるのかまったく想像がつかない。


ただでさえモンスターが地上に溢れ、島周辺海域のみとはいえ太平洋にまでモンスターが出現したのはそれ単体だけでもとんでもない事なのだ。


そこに例のクレイジーな研究者が掛け合わされることを想像するだけで頭が痛い、というのが世界各国の首脳の共通した懸念事項だった。


そのような背景から例の島は世界中の注目の的となっており、世界各国が物理的に干渉をし始めていた。


日本は当然のこと、アメリカ合衆国を含め潜水艦などで太平洋に展開していた数カ国が例の島へ強行偵察を実施。


その際、偶発的な遭遇戦が発生し数カ国が入り乱れての乱戦となった。さらにそこにモンスターが襲いかかってきたことから各国の特殊部隊は撤退。


どの国も島に拠点を構築することが叶わずに安全な海域まで退き、その後は1週間弱睨み合いが続いているという状態だった。


もちろんその間に各国が何もしていなかった訳ではない。各国それぞれが国内で臨時の部隊を急遽編成し、再上陸に向けての作成を練っていた。それに時間がかかっていたのである。


なにせ上陸先は人類史において初めて確認された地上解放型ダンジョン。さらに自国と日本以外にも数カ国が入り乱れた乱戦が再発する可能性も非常に高い。


そして何より例のクレイジーな研究者もおそらく島に派兵される。


アレに勝つためにはどうすればよいのか?そのヒントを求めて各国の情報部隊は血眼になって例の研究員の配信を何度も何度も何度も見直していた。


そんな背景の中、軍の制服に身を包んだ男の手元の端末が鳴る。その男は部屋の主の方を見て、


「緊急連絡のようなので少し話をしても良いですか?」


と訪ねた。部屋の主が鷹揚に頷いたのを確認した男はそのまま端末を用いて会話をする。そして


「日本の工作員からです。例の研究者が総理公邸を出て入間基地へ向かったとのことです」


「そうか…。いよいよ彼が来るか」


「入間基地からの行き先まではまだ確認できていないようですが、ほぼ間違いなく例の島でしょう」


「だろうな。さて話を戻そう。我が軍のほうも準備は済んだのか?」


「はい。考えうる最高の布陣が準備できました。Navy SEALs、およびグリーンベレーからよりすぐりの深層探索者を。そしてDARPAからも秘密兵器を」


「あぁ、DARPAの彼も出るのか…本当に大丈夫なんだろうね?」


「正直私も不安です。しかし日本のクレイジーな研究者に対抗できるのはDARPAの彼くらいかと。性格含めて色々と問題児ではありますがその能力は間違いありません。出し惜しみをするべきではないと判断しました」


「…まぁ、そうだな。いざとなったら外交ルートも含めて使えるものは全て使って後始末をするからしっかり進めてくれ」


「承知しました」


「うむ。では改めて。合衆国大統領テイラー・ローワンの名において大統領令を発令する。あの島をどの国にも渡すな」

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