第53話 【第1部】エピローグ

通称「ダンジョンに星が流れた日」から1週間ほど経過したとある平日。


三崎はソファーの上でだらけていた。


「なぁアルファさんや」


ソファーの上でだらけながら端末に話しかける三崎。その姿は日本を救った英雄には見えない。ただの30代前半のニートである。


『どうしました、マスター?』


「これって完全に軟禁だよね」


あれから1週間、三崎は首相官邸に隣接する首相公邸に匿われていた。


要するに総理大臣と一つ屋根の下で生活していた。謎の覇気を纏うおっさんとの同居生活である。まったく嬉しくない三崎であった。


『まぁ確かに軟禁状態ではありますが。この状況下では仕方がないかと』


「いやまぁわかってるんだけどね。そんなマジレスしないでくれよ」


『はいはい。しかし本当に現時点ではここが日本で一番安全じゃないですか?対消滅弾やら神の杖やら完全に戦略兵器ですからね。気を抜いたら本当に各国の特殊部隊にやられますよ』


「わかってるってば。というかだから使いたくなかったんだけど…まぁしゃーないか…」


そう言いながらゴロゴロする三崎。完全に気が抜けていた。とそこに部屋をノックする音が。


そして三崎が返事をする前におっさんが入室してくる。


「やぁ、三崎くん!調子はどうだ?」


この公邸の主、鷹匠秀一その人であった。その後ろからは3人の書記官と、5人ほどの護衛がぞろぞろついてきていた。


若干げんなりしつつもソファーから身を起こした三崎は


「鷹匠さん、せめて返事してから入ってくださいよ…」


と悪態をついていた。この1週間で無駄に仲良くなった2人であった。


「すまんすまん。この時間なら大丈夫かなと思って。ちょっと10分くらい話をいいかな?」


「勿論良いですよ、どうせ暇ですし」


三崎の向かい側のソファーに腰掛けた鷹匠が書記官の一人に目線で合図を送る。その書記官から手渡された一つのファイルに三崎はざっと目を通す。


コーヒーを飲みながら三崎が資料を読み終わるのを待つ鷹匠。そして三崎が目を通したのを確認すると


「ということで、三崎くん。せっかくの機会だ。南の島でバカンスでもしてこないかね?」


と満面の笑みで語りかけてきた。


その資料によると今回の大規模連続ダンジョン震の影響を受けて、八丈島の南西およそ300km地点に新しい島が海底から隆起して誕生したらしい。


そしてその島はなんと島そのものがダンジョンであり、地上部と島周辺海域にもモンスターが跋扈しているとのことだった。


すなわち、人類が恐れていたモンスターの地上進出が限定的ながらも実現してしまったのだ。


島の発見から数時間以内には日本国は軍の強行偵察部隊を送り込み、まずは簡単な調査を実施。


その結果どうやら諸外国も既に勝手に島に侵入しようとしていることがわかったらしい。


要するに現在その島は全世界の注目の的とのこと。


「ということで我が国としてはこの島を着実に支配下におきたい。もちろんそもそもうちの経済水域内だから正論だとうちのものなんだけど、やっぱ色々あるので実力でも取っておきたいんだよね」


ゲンナリした表情の三崎を見て、真面目な表情をした鷹匠が続ける。


「それに君もこのご時世、普通にその辺を歩くことも出来ないだろ?」


「まぁそうっすねぇ…はいはい、わかりましたよ。受けましょう」


「うん、話が早くて助かるよ。それで何が必要だい?」


「まず深層探索者を何名か。可能ならダン研から佐野と生田を。軍か警察からも数名お願いします」


「承った。その他は?移動手段はどうする?」


「ひとまず全員八丈島集合にしてもらえますか?俺も羽田空港から飛行機で行こうと思います。」


「八丈島集合は伝えておこう。三崎くん、君は羽田を使ったら騒ぎになりそうだから入間基地から軍用機で向かいなさい。ちなみに八丈島からはどうする?」


そう聞かれた三崎はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、手元の端末を操作して壁に資料を投影した。


それを見た鷹匠も同じくニヤリとし、書記官たちは頭を抱え、護衛達は息を呑んだ。


そこに投影されていたのは全長200メートル超、全幅50メートル弱の大型の潜水艦だった。


「いつ使おうかと思いながら作ってたんですけどね。大型潜水空母わだつみです。」


ロマン武器が夏の海で三崎を待っている。

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