ダンジョン技術研究所職員、自作ロマン武器を試したくて副業で配信始めました。

けーぷ

第1部

第1話

 国立ダンジョン技術研究所。その名の通りダンジョンに関するあらゆる最先端技術を研究している研究機関である。


ダンジョン黎明期の混乱を経て国が設立した由緒正しき組織であり、ポーションや転移門といった探索者にとってはなくてはならない技術を開発したのも「ダン研」の研究者たちだ。


そして数年前にはそれまでの通信技術では不可能とされてきたダンジョン内部と外界のリアルタイム通信を実現する「ダンジョンネットワーク」を実現させたのも彼らである。


同時期にはダンジョン内部の磁場の影響でそれまでは困難とされていたドローン制御も成功させ「ダンジョン内でのドローン飛行」を実現させた。


その結果何が起きたか。そう、空前の「ダンジョン配信」ブームが発生したのである。


それまでは映像資料としてしか見ることができなかったダンジョン内部や、探索者たちの常人離れしたアクションをリアルタイムで見れるとあってダンジョン配信は空前の大ヒットコンテンツとして世の中を席巻していた。


 そんな情勢の中、ある日のこと。仕事終わりの帰り道、国立ダンジョン技術研究所第7課新技術部門チーム所属の三崎 考(ミサキ コウ)は悩んでいた。


「どうすればロマン武器の価値を伝えられるのか…」


 ダン研では様々な技術の研究開発を実施しているが、その中でも第7課は異色なチームとして研究所内でも認知されていた。


このチームの目的は唯一つ。「前例を破壊する」こと。


そんなチームに所属している三崎の研究テーマは「ダンジョン内における新機軸兵装の実現」。彼流の言葉を借りるのであれば「要するにロマン武器の再現」であった。


変人揃いの第7課においても彼の研究テーマは一線を画しており、案の定上司や査定委員会からの評価も芳しくない日々が続いていた。


大学院の博士課程を修了し、新卒で研究所に入所して早5年。彼も気づけば32歳。そろそろ成果を出さなければ真面目にヤバいと感じ始めていたのである。


「さすがに今期もいつものノリで成果報告会に臨んでも良い結果は期待できんよなぁ…」


人の話を聞かない完全にわが道を行くタイプの三崎もさすがに5年もあれば社会人として求められている振る舞いや、組織としての本音と建前も理解できるようになっていた。


ボヤきながら帰宅した彼は翌日のダンジョン内兵装試験に向けてさっさと眠りについた。その日が彼にとっての転機になるとは夢にも思わずに。


翌日の夕方、とあるダンジョン内下層エリア。黒ずくめの格好に仮面をつけた不審者が佇んでいた。もちろん三崎である。黒ずくめの格好も仮面も、彼のお気に入りのロマン武器シリーズだ。


「っと、もうこんな時間か」


仮面内のヘッドアップディスプレイに表示されていた時刻は19時をさしていた。普段のダンジョン内兵装試験では17時頃には切り上げ、ダンジョンから研究所に戻って報告書を整理している時間だ。


だが今日の新兵装が思った以上に仕上がりがよく、試運転に夢中になっていたらこんな時間になっていた。


「早く研究所に戻らんとな」


そうつぶやいた瞬間、


『警告。ダンジョン内においてモンスターの咆哮らしき音と人間の悲鳴を検知いたしました』


と仮面内の通信モジュールから音声が入った。


「アルファか。何があった?」


アルファとは三崎が作成した特殊兵装群統合火器管制型人工知能である。要するに超スーパーなAI(三崎談)である。


ロマン武器の運用を補助するAIといえばロマン武器の定番であり、三崎が最初に作成したロマン武器でもある。余談だが三崎はフ○メタル・パニックのアルが大好きだった。


『状況から推察するに人間がモンスターに襲われている模様です。救助を推奨します』


「おっけい、すぐ行く。燃料と弾薬はいけるか?」


『残量は50%程度ですが救助を前提とした一撃離脱なら問題ありません。それに本日の装備ならよほどのことがない限り遅れをとることはないかと思います』


「わかった、ならすぐ向かおう!」


ーーー


西原誉(ニシハラ ホマレ)は大学生のダンジョン配信者だ。珍しい女性ソロ探索者であり、その容姿と技量で人気を博している。


その日もいつものように大学後にバイト感覚でダンジョン配信を行っていた。最近は中層エリアもほぼ問題なく踏破できるようになってきており、その日は調子も良かったことから下層に進出することにした。


そんな彼女を心配するリスナーもいたが、下層に潜って1時間も経過する頃には彼女もリスナーも「意外といけるじゃん」という手応えを感じ始めていた。


ひとしきり遭遇したモンスターを片付けたところで休憩しつつリスナーと会話する余裕も出てきた頃にそれは起こった。


「さて、そろそろ休憩は終わりにするね。もう少し周囲探索してから今日は終わろうと思います」


”気をつけて”

”これでホマレも下層探索者だー!”

”学生ソロで下層探索者はマジですごい”


「みんなありがと!じゃあそろそろ動くからまた返信しにくくなるけどごめんね」


そう言ってから30分弱、一回もモンスターに遭遇しなかった。通常、ダンジョン内には多数のモンスターが徘徊していることから30分弱もモンスターに遭遇しないことはありえない。


なにかがおかしい、と彼女が感じ始めたまさにその時、目の前にそれは突然現れた。


「は………?」


”は………?”

”は………?”

”は………?”

”は………?”

”は………?”


目の前に突然現れたソレはホマレをその目に捉えた後に咆哮した。


「「「「グォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」」」


「なんでドラゴンがこんなところに!?」


彼女の目の前に現れたのはドラゴン。深層以降に現れるモンスターであり下層で遭遇することは一般的にはまずない。そんなドラゴンが目の前にいる。


「変異種!?」


”これはマジでまずくないか?”

”なんで下層にドラゴン!?”

”ホマレ、早く逃げて!!!”


ホマレもリスナーたちも軽いパニックになっていたが、ホマレもソロで下層にアタックできる技量がある。すぐに全速で撤退行動に移っていた。


「これは無理!逃げます!」


”早く逃げて!”

”妥当。”

”誰か救援要請だしたほうが良くね?”


そんな彼女をあざ笑うかのようにドラゴンは一定距離を保ったまま追いかけてきた。時々小規模なブレスや魔法攻撃を放ってきており、どうやら獲物を追いかけて楽しんでいるらしい雰囲気を感じる。


それから数分後、恥も外聞もなく一目散に逃げ出した彼女だがドラゴンをふりきることができず、ついに被弾した。


「きゃあっ」


ドラゴンのブレスが右肩をかすり体勢を崩した結果、地面に倒れ込んだ。握っていた武器も離してしまい足も挫いたようで立ち上がろうとすると痛みがはしる。


これ以上は逃げられないと悟った彼女の顔色は蒼白になる。


”ホマレ、早く逃げて!!!”

”まずいまずいまずいまずいまずいまずい”

”これ以上は見てられません。俺、落ちます…”


コメント欄も阿鼻叫喚となる一方で、同時接続の人数は過去最高の30万人を突破していた。


携帯端末の同接人数がたまたま目に入ったホマレは「ダンジョン事故はほんとに数字になるんだな」と今更どうでも良いことを思いながら自分の死を覚悟した。


獲物が逃げることを諦めたことを悟ったドラゴンは、人の目から見ても飽きたような表情を一瞬したあとにブレスを溜め始めた。その光を眺めながらホマレは、


「誰か、たすけて…」


と掠れた声でつぶやいた。


そしてブレスが放たれた。

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