第零採掘部隊
第零採掘部隊のクルー、シノミヤサツキは今日も適度に手を抜きながら職務を遂行していた。これはカコボシミライが到着する10分前の話。
『悲報 共和国市民、全員揃って税金泥棒だった。』
僕はそんなアホくさい掲示板の書き込みを見て、優越のような気分に浸る。バカどもは今日もネットで知らないやつに向かって毒を吐いている。世も末だ。
「まったくもって世界は悪い方向にしか行かないな……そうだろう? ジン」
僕がそう問いかけると少し背の低い彼は背中をビクつかせてこっちを向いた。
「えっ、……ああそうだね」
ジンはなんとも言えない表情で答えるとすぐに手を離してしまった操縦桿を握りなおす。彼は星図と自分の手のひらを駆使しながら船を操っている。
「ここがエルサナ星系の入口だから……、いや宇宙流砂でよく見えない……、あれ?」
「ジン、張り切ってるとこ悪いが……自動操縦がオンになってるぞ」
僕が彼の足元の機器を指差し、そう伝えると彼もその事を確認し肩を落とす。
「早く言ってよ…」
「さっき交代するときカレンがオンにして下に降りてったの見てなかったのか?」
僕が諭すように言うと彼は更に肩をガックリと落とした。
「やっぱりカレンさんから信用されてないんかな……」
彼は操縦席のシートから離れ僕の隣に座った。片手で顔を覆い前屈みになって遠くの星を見つめてる。
しょうがないだろう、何度も事故を起こしかけてるんだ。ただそれを彼にストレートに伝えると、また彼の部屋から泣き声がうるさく聞こえてきて眠れなくなる。ここはオブラートに……
「カレンは優秀だ、それに付いていくのは並大抵の努力じゃ難しい。だが彼女の期待に答えられれば、それはもう立派な船乗りだ。違うか?」
よし、完璧だ。やはり僕は優しい。クルーを鼓舞しつつ仲間同士の軋轢を回避した。絶対にした。流石は僕だ。
「んんぅー、そうかな? じゃあボクにも伸びしろあるかな」
チェックメイト
「そのとおり! 伸びしろしかないな!」
僕がそう激励すると彼はニコッと笑った。お気楽な奴だ。
「じゃあサツキも早く採掘ポイント見つけないとじゃん! ねっ? ネットをサーフィンしてる場合じゃないねっ」
ボクのノート型デヴァイスをパタンと閉じながら彼は投げかけてきた。
!!
こいつ……
「まあ痛み分けという所か……」
僕はブリッジの中央にある大きなタッチパネルを表示してジンに伝える。
「もう3週間は採掘地点は発見出来てない、多少手を抜いたところで進捗は変わらない。そもそも無理な課題なんだ、半径1デイトない範囲で一つの物だけを探そうなんて」
僕はやるせない思いを関係のないジンに向けてしまいしまったと後悔した。最近寝不足気味ですぐイライラしてしまう。
ジンは少し困った顔をして答える。
「でもサボってたらまたムスビさんに怒られるよ、おやつが減らされちゃうよ?」
バカヤロウ、何がおやつだよ、そんなんでおののくかよ。
「まあ確かにそれは悲しいな」
しかしこの純朴な子供じみた男の子をがっかりはさせたくないので、適当に答える。
カン カン カン カン
階段を登ってくる音が聞こえた。扉が開いてブリッジ内が一瞬寒くなる。
「二人共、ちゃんとやってますか?」
すぅっと通るような高い声で後ろから話しかけられる。
僕はその声が少し苦手でドキッとしたが、椅子をくるりとを向けて聞き返す。
「別に……、明日も作業するんだろう? 休まなくていいのか?」
彼女は目に装着しているヴァイザーグラスデヴァイスの目のアニメーションをウィンクさせながら話す。
「あなたがサボってないか見に来たんですよ、サツキ」
やかましいな、いつもいつも。
この女はこの部隊で庶務を担当してるだけあって、気配りができ押し出しが効く。要するに僕がもっとも苦手とするタイプの人間だ。現にこうやって自分の勤務時間終了後に見回りにきた。
「ほうー、それは関心と言わせていただこう。ただ君には僕に釘を刺す以外にもやることがあるんじゃないか?」
するとそれを聞いた彼女はヴァイザーに表示されている目を泣いているパターンに切り替えた。
……僕は少し反省しよう、と思ったがなんでそんなアニメーションに感情を左右されなくてはならないのか馬鹿馬鹿しくなった。
大体僕はこの女のヴァイザーを外した顔も見たことが無いのだ、その下の素顔はきっと憎たらしいに決まっている。
「フフっ、ジンもしっかり見張っててくださいね? サツキがサボってるのがわかったら、あなたのおやつも減らしますよ?」
「ううっ……、それだけは、それだけはぁ!」
思わぬ流れ弾に当たり、ジンは彼女に向かって必死に両手をスリスリして祈っている、子供か。
「まあいいです、それより、一旦休憩にしましょう。カレンも下でまだ起きています」
そう言うと彼女も下に降りて行ってしまった。
カレンはここのナンバー2のような人物だ、艦長以外の年齢がほぼ同じなので必然的に位が一番高い彼女が僕たちを仕切っている。
ただいつもならばもうムスビも酒を飲んでいる時間だが今日はシラフのようだった。
下に降りると普段髪を留めているカレンが髪を下ろした姿でソファに座っていた。シャワーを浴びたのか濡れている。不測の事態か?
「この感じだと、前みたいに突発的にパーティをやろうって訳でもないな? カレン何かあったのか?」
僕はそう聞きながらテーブルに置かれている惑星カイ土産の貨物せんべいに手を伸ばす。
「さっき通信が入った、サワムラが来るんだとさ」
彼女はイライラした様子で答える。
サワムラはこの部隊に補給物資を届けに来てくれている兵站局の人間だ。大体週に一回の間隔でここ来る。普段は頼んでもずっと来ない時だってあるのに、誰かが急ぎの要請でもしたのか?
「3日前に来たばかりだろう」
「そうだよね? ボクがお願いして届けてもらったそのせんべいもまだ沢山ある、うんある」
ジンは僕の手に持っている菓子を指差してうなずく。
違うぞジン、このせんべい味が濃すぎて食べにくいんだ。
「人が補充されるってよ」
カレンはそう言いながら仕事用のデヴァイスを確認した。
「本当か? 人手は十分足りているし何故?」
僕がそう零すと反対側に座っているムスビがこっちをムッと睨んできた、ような気がした。
「知らねぇよ、まあ多少は楽になるしいいんじゃね? 知らねぇけどさ」
カレンはデヴァイスをテーブルにぶん投げ眠そうに目を擦った。
いやあまりにも唐突すぎる、この部隊が始動してから一度も人員補充は愚か、整備の点検すらしていないのだ。それなのに急に何故。それに
「部屋はどうするんだ、今まで一人一部屋使えていたのに、誰か相部屋になるんだぞ」
「新入りは男だ、サワムラが言っていた。お前ら二人で相談しやがれ」
カレンがそう突っぱねた。
これは面倒なことになった、僕は前任地では相部屋が嫌すぎて基地の近所のアパートを契約していた程だ。
そんな考え事をしているとジンが恐る恐る口を開いた。
「あのカレンさん、もし新しい人が物凄い年上とかだったらどうすればいいですかね? ボク失礼なことしちゃいそうで怖いです」
「あぁ? 知らねぇよ!」
速攻で彼女は低く地鳴った。いつもの事だ、ジンはいつもカレンを怒らせる。
その勢いに完全に押されたジンは萎縮して動かなくなった。少し不憫だ。
「とにかくだな、出迎える準備だ。案の定ミナト艦長は部屋から出てこない。あたしらが現場判断でいいはずだ……自己紹介考えとけ」
カレンはそう言うとタバコを取り出した。しかしすぐにムスビがその手を黙って抑えた。
「…悪い」
すぐさま彼女はタバコの箱をポケットに押し込んだ。
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