第15話 事件または事故

「...これは泥棒に入られたな。周辺の警備を徹底して怪しいやつが居たらこっちへ連れてくるんだ!」


「「はっ!」」


 と言うことで、昨日カップラーメンを作る上での肉の数が合わないと言われ来てみたらどう見ても泥棒が入った状況だった。なので僕はさっきのように警備に初めて警備らしい仕事を頼んだ。


「もう逃げちゃったら、後で買い付けておくから問題ないよ...」


「もうしょうがないんですかね?」


 でも外から入ってきたにしても相当なやり手だな。あの警備をすり抜けるのは相当なものだ。



「犯人を見つけました!ていうか自首しに来てくれました。」


 それは小さな女の子だった。それもどこかで見たことあるような...地球では多分見かけなかったはずなのに。


「君が、シュウヤって人?」


 なんで僕の名前を知っているんだろう?


「?そうだけど...」


「わたし、死んじゃったの。だから、あなたに会いに来たよ。」


 なんのことだろう?でもやっぱりどこかで見たことがある。


「シュウヤ様、この子を知っているのですか?となるとあなたが地球上で『死ぬ』前に出会ったということですか...」


 この言葉を聞いて思い出した。もしかしたら...


「もしかして君って、交通事故の時の...?」


「そう!守られた人!でもせっかく守ってくれたけどね、あの数年後病気で結局死んじゃったの...」


 やっぱり、この子も地球からの転生者か。しかも僕にかばわれた子だったとは。でもなんで僕の居場所が分かったんだろう...それについて聞いてみるか。


「なんで僕の居場所が分かったの?」


「神様に聞いたんだよ!そしたらここの世界で国の王をやってるって聞いたからどうしても会いたくて。ただ願いを1つ叶えると1つ不幸になるんだって。それが今。泥棒の家として生まれちゃったの。そして親は早く死んじゃったから、仕方なく今盗みを働いたの...」


 そうだったのか...なんかかわいそうだよな。泥棒の家として生まれたらそれは不幸だよな。もし盗みをやめても名前だけはみんな悪いものとして覚えるからどこも世話してくれないしな。今拾ってあげないと大変なんじゃないか?この子の将来に関わっているからな。


「盗みは嫌い?もうしたくない?」


「もちろんだよ!そもそも人の物を勝手に取るのは良くない!」


 本人がそう思っているなら大丈夫だろうな。


「じゃあ、罪滅ぼしにうちの国で働いてくれないか?悪いことをしたのは元には戻らないから、良いことで悪いことを上から塗りつぶしちゃおうよ!」


「良いの!?じゃあその仕事やりたい!じゃあ何を...あ、名前を言うのを忘れてた。私は『ミサキ』って言います!よろしくおねがいします!」


「よろしくな。じゃあヒカル!いい感じの服を探すか買っておいてくれよ。今のままじゃちょっとみすぼらしいからな。お金は僕持ちで良いから。」


「は...はあ。」


 今日、職員が一人採用された。小さな小さな職員だが、僕が立派に育てるつもりだ。そのためには色々とやることがあるが、今日はゆっくり休んでほしい。



 あれから数ヶ月経ったが、彼女は熱心に私の「秘書」として働いてくれるようになった。なんの仕事がしたいと聞いたら僕のそばで働きたいって言ってくれたから今まで枠が空いていたこの仕事をさせる事にした。


 毎日書類を持ってくれたり、お茶を運んできてくれたり。意外と結構助かっている。お茶も今までいちいち注いで持ってきていたからな。書類だっていちいち下の階まで取りに行ってたし。


 時には褒めてあげる。そうするともっと褒められようと自分を高めようとする。またいつでもポジティブな気持ちにさせることでモチベーションも上がっていく。


「いつも助かってるよ。ありがとう。」


「はい!どういたしまして!これからも頑張ります!」


 そして僕らはお小遣い程度の給料と勉強を週に1度彼女に教えてあげている。しかもその先生は元プロの人だ。イセ王国に奇跡的に居たんだ。元貴族の子供たちの学校で教師として在籍していた人が。



「...そういう事で『ノルド』さん。あなたに先生をお願いしたい。できるだけ丁寧に、優しく教えてほしいんだ。良いかな?」


「はい、王の命とあらばその子のために誠心誠意頑張ります。そしてこの老いぼれを拾ってくださりありがとうございます。」


「うん。じゃあ、頑張ってね。」


 彼はもともとある国の貴族の子供たちの学校の先生だった。その道のプロである。彼はまさに紳士といった雰囲気で、年をとっても更に格好良さに磨きがかかっているような人だ。


 彼はずっと前に現役を退き、最近政治が安定してきたイセ王国にいわゆる「隠居」しに来たらしい。そこでまた先生として雇ってしまうのは少し悪いが、それでも彼が快く受け入れてくれたことは僕は嬉しい。


「...そう、ここはこうしてこうすることによって、この計算が出来ます。うんうん、いい感じですよ。」


 確かに教え方が上手いし、計算とかを楽にする方法も知っている。彼の授業を時々窓の外から聞いているから教え方は認めている。


「シュウヤ様〜!書類の審査ですよ!」


「ああ、済まない。なに、彼女がうまく勉強しているかどうか見ているんですよ。どうやらうまくいってますね。」


 僕も少し窓から授業を聞いて勉強しているとは言えなかった。



 そうして、あっと言う間に丸2年がたった。異世界各地にサンジーフ王国の存在が知れ渡った頃だ。やっぱり「食べ物の国」として。観光客も後を絶たず、毎日良いときで数千人規模も来てくれていて人口もたくさん増えていた。なので定期的にイセ王国にも多少住民を送らせてもらった。


「もう2年か...この国もだいぶ栄えてきたな。ミサキは基礎的な学習が終わったらしいし、この国の貿易や交通の基礎も出来たし、だいぶ安定的で良いことだが、少し暇になったな。そうだ、住民や観光客の意見を求める箱を設置してみよう。誰かが意見とかを書いて入れてくれるだろうから。」


 僕は大工さんに意見箱のような、上に紙が入って後ろから板を開けて取り出せるという箱をつくってもらった。流石大工。ものの数十分でやってしまった。


「ここに僕の字で『ご意見箱』っと。」


 そう、これからはしばらくこのご意見箱を元に国を更に良くしていこうと思う。少しでも不満があったら言ってほしいからな。


「ミサキ!これから君に新しい仕事を任命しよう!毎日夕方にこの箱の後ろを開けて紙をすべてここに持ってきてくれ!」


「はーい!」


 僕の国の運営はこれからだとも言える。もっと国民の声に寄り添っていくんだ!


「『寄り添う』か...日本でもそんな言葉をたくさん聞いてきたな。」

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