第13.9話 暇な日の話

 世界の管理者と会った日くらいから僕の国の料理事情は少し改善された。なんと週に1度だけ地球の食材を届けてくれるというのだ。これが「管理者権限」らしい。いかにもなネーミングだ。


 それはすごくいきなりな会話の内容からだった。本当に。


「そういえば、なんかこちらも色々とお世話になっているから管理者権限で地球上の食材を週1回だけ届けてあげる。」


「...は?」


「...うん。」


「...え?」


「うん。」


「...良いんですか?」


「ええよ。」


「...じゃあ頼みたいものがたくさんあるんですよ。お金ならそれ相応に払います!」


「いや、お金はいらないよ。管理者権限自体はいくらでも無コストで使えるし、私は無料で手に入れたものでお金を稼ぎたくはないからさ。」



 と、言うことらしい。いきなりのサプライズだった、流石「管理者」だ。ということで早速たくさん送ってもらった。なんでも良いらしいからとりあえず食材を一通りもだけど、衛生用品も届けてもらうようにした。後で代用できそうな材料をこの世界で探してこの世界でも作れるようにしておくつもりだ。そうすれば週1に頼らなくても良いことになる。


 そして食品。海鮮をたくさん持ってきてもらった。ご丁寧に氷入りの箱に入れてもらっている。もしかしてこれも地球の物だろうか?今日は久々に暇だから前のように「国」としてパーティーをすることにした。しかも今回はイセ王国の国民も呼べるからもっと楽しいし、シンジも居るんだ。料理の腕は大丈夫と言ったところだろう。


「リサ!今日は暇な日だから夜に国としてパーティーを開こうと思う!予定に入れておいてくれ!」


「はい!楽しみにしていますね!」


 今日の仕事は書類のチェックだけだからあまり重労働ではない。だから寝っ転がりながら今日のパーティーをひたすらに楽しみにしていた。



「夜だ!パーティーだ!」


 予定を入れてお知らせとして貼っておいたから、続々と住民が来ている。もちろんイセ王国にも招待状を送ったから来てくれるだろう。当然シンジにも手伝ってもらう。


「やっほーシュウヤ!」


 タメ口で言ってくるのはシンジとバレットしか居ないからすぐに分かる。これはシンジだ。バレットなら大体「よお」って言うし、そもそも声で分かる。


「よおシンジ!今日は来てくれてありがとな!」


「んで今日は俺に料理を手伝えと言うんだろ?だからうちからも少し食材を持ってきたぜ。見ろ!立派な松茸!みたいなきのこだろ!」


「確かに立派だが...言いにくいことなんだが、これ毒キノコだぞ。」


「えー!せっかく頑張って100本位採集したのに!?」


「毒かどうかと採集したことは関係ないぞー。これは『ムツケタ』と言ってな、この世界では言わずとしれた有名な毒キノコだ。でもこのきのこでの死者は10年間で3人居るから、それくらい地球、いや日本から転生してきて、松茸に似たこのきのこであっけなく死んだやつも居るってことだよ。」


「だから周りは少し引いていたのか...」


 じゃあなんで周りは突っ込まないんだよと思っていたが、言わないであげておいた。でもこのデータを初めてみた時日本から転生したやつはうちらだけじゃ無いんだな。と思った。


「...さあ、始めようか!みんな!」


「「「おー!」」」


 僕とシンジは手慣れた手付きで伊勢海老の殻を剥いていた。とても懐かしい感覚だった。僕らはもともと海の近くで生まれたから、こういうのは昔、いやたった数年前だけど、手慣れていた。


「シンプルに焼くか。調味料も少なめで。」


「そうだな。でもなんでこんな所に伊勢海老が...特殊ルートとかあるのか?」


「僕だけの『特権』さ。君もなにか欲しい物があったら1週間後位までに届けておくよ。」


「ははは、じゃあいつか使わせてもらおうかな。」


「そうしておけ。」


 数分後、汁も出ていていい感じに焼き上がっている。今夜はたくさん届けてもらったから、国民全員分ある。つまり今日パーティーをしなかったらほぼほぼ腐っていたということだ。


「ハフハフ!んん!シュウヤ!これ美味いぞ!」


「まあ美味いだろうな。僕おすすめの大きなエビだからな。」



「どうですか?地球から注文したものは。私なりに良いものを仕入れたつもりですが。」


「うわぁ!なんだアイゼンフェルトさんかよ。なんで毎回びっくりさせるんだよ...」


「だってシュウヤさんの驚き顔は新鮮ですので。私の部下共にやっても無反応になってしまいましたから。」


「新鮮だって言わないでよ!恥ずかしい...!んで?今日はなんの用なのさ?」


「僕にもそれを食べさせてください。輸入したのは良いですけど、食べたことが無いので...」


「それなら、はい。どうぞ。熱いからね。」


「本当に熱いですね。でもハフハフ...美味しいですね。これは『リピ確』です。」


「よくそんな言葉知ってるじゃん。」


「輸入した商品に書いてありましたからね。意味はなんとなく分かります。『管理者』ですので。」


 管理者って言うのは関係ないと思うけど...まあそういうことにしておこう。でもとりあえず地球からのものが入ってくるのはたとえ週1度であっても嬉しいことだから、まずはアイゼンフェルトさんにお礼を言っておかないとな。


「輸入してくださって本当にありがとうございます。おかげでこの世界でもっと色々なことができそうです。」


「そうだね。じゃあ私はそろそろこれで。また何かあったら言ってくださいね。いじめられてたら言うんですよ〜!」


 いじめられることは無いだろうけど...彼はどこかへ消えていってしまった。まあいつもどこかで僕の様子を見てるんだろうな。一応手を振っておこう。


「シュウヤ様...このエビ美味しいです...!」


「おお、サラか。美味しいって言ってくれて良かった。まだ色々な料理を作るから待っててね!」


「...はい!」


 今日は色々と良い日になった。そして初めてサラの少し大きい声も聞けた。料理を作りながら色々な事を考えていた。


「『リピ確!伊勢海老』って。リピ確って伊勢海老で使う言葉かよ...」


「どうかしたの?シュウヤ〜。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る