#15 -幕間- ブラストの女難?


「私感動してるんですよ。他人に興味なさそうなブラストさんが総務部のこと思い出して、まさか“イヅナのスーパーコンピューター”が作ったもののことまで知ってるなんて。どうでした? 機械音痴でも使えるように分かりやすいプログラムにしてたの、良かったでしょ? 早く返却して下さい。あ、無断で持って行ったから返却じゃないですね。押収です押収」


 目の下に大きな隈を作り壊れた機械のように無機質な声と表情で自らを叱責する女性に、ブラストはえも言われぬプレッシャーを感じて呻き声を上げた。

 ブラストがいるのは、メディオ地区にあるI.P.E.本社ビル。その総務部の一角である。

 先日バード商会に襲撃された事件は記憶に新しいが、その復旧作業もほぼ完了して今日も屋上では社章が大きくはためいていた。

 彼は昨夜ハッキングに使用するために無断で拝借したチップをコッソリ返却しに来た所だったのだが、まるで待ち構えていたかのように1人の総務部職員に捕まってしまい現在に至っている。


 ブラストよりも頭一つ分は小さく見下ろすほどの小柄な体躯。ショートボブにした艶やかな黒髪。普段であれば人懐っこくころころと変わる表情を今は不機嫌一色に染め上げた彼女の名は灰田はいだゆう。総務部戦術支援班に所属する戦術オペレーターの1人だった。


「そう言うなよ、ちょっと借りただけだって。ってか何でバレたわけ?」

「I.P.E.の技術の結晶ですよ、在庫管理とセキュリティはブラストさんが思ってる以上に厳重です。それで? 何に使ったんですかこのマスターキー」

「部屋の鍵を部屋ン中に忘れたんだよ」


 投げやりにはぐらかし続けるブラストの言葉に、灰田の不機嫌ながら保とうとしていた笑顔が凍り付いた。

 ブラストから取り上げたチップをそっと保管ケースに戻すと、懐から取り出した端末でどこかに連絡をとり始める。


「……はい、はい。ええ、今から午前中いっぱいまでです。よろしくお願いしますね」


 ふぅ。と小さなため息をついて通話を終えると、ブラストの後方に向けて小さく手を振った。

 ブラストがその仕草を疑問に思って振り向こうとした瞬間、音も無く忍び寄った影がブラストを抱え上げて拘束する。


「は? なんだ? 誰だアンタ」

「誰でもいい。行くぞ」


 もがきながらどうにか首だけで自身を拘束した男を見上げると、ブラストの身長よりも頭一つ以上は大きい男が重機のような上腕二頭筋と大胸筋を隆起させてブラストを羽交締めにしていた。

 眼前の小柄な灰田と比べてしまえばゆうに40センチを超える身長差に、思わずブラストの視線が2人の間を往復する。


「蓮さん、第三訓練室の使用許可申請取ったからブラストさん連れてって。私はハルさん探してくる」

「分かった。行くぞブラスト」

「おい離せって! アンタ一色ひといろれんだろ。関係ねぇだろ!?」

「関係はある。優が困ってる」


 ぶっきらぼうに言い放った大男に、ブラストは抵抗の甲斐なく第三訓練室まで引きずられていった。




一色ひといろれん、法務部一課所属」

「そうだ」

「変わった制限武器使ってるだろ。見えない剣。付いた異名が“とも朧月ろうげつ”」

「そうだ」

「……ハァ」


 扉に第三訓練室と刻印された無機質な20メートル四方の部屋の真ん中で、ブラストが怒りとも不機嫌とも諦念とも言い難い複雑な表情をしながら腕組みしていた。

 ブラストの眼前には、自分を引っ張ってきた大男が立ち塞がっている。

 一色ひといろれん、190センチを超える身長に分厚い装甲板のような筋肉の鎧を全身に纏ったこの男の名である。

 そして、ブラストと同じく法務部一課に所属するイヅナ精密電子が誇る精鋭の1人だった。


 高身長に比例してしっかりとした骨格・体格。肩幅も広く、たゆまぬ努力によって身に付いたであろう全身の筋肉はこれでもかというほど自己主張している。

 だが、それでいて次の瞬間には気配を忘れてしまいそうになる静かな佇まい。

 退いてくれと睨んでみるが表情から思考は読み取れない。余り普段から表情筋の動くタイプではないのだろう。これまでのやり取りから、ブラストはそう結論付けた。


「んで、こんなトコまで引き摺ってきて俺をどうしようって?」

「連れて行けと言われた。優とハルもそのうち来る」

「ハァ……。アンタさ、言葉が足りねぇって言われたこと無い?」

「よく言われるが」


 眼前に立って微動だにしない蓮との会話の噛み合わなさに何度目か分からない大きなため息を吐く。

 先ほどから、何を言ってもこの調子なのである。


「総務部の、えーっと……灰田だっけか。あの子がチップの管理をしてたってことだろ? 勝手にパクったのは悪かったけど、無事に返したから今回はそっとしておいてくんねーかな?」

「いいですよ? でも、私のやり場のない怒りの発散に付き合って下さい」


 ボヤくブラストの声がタイミング良く聞こえたのか、ドアを開けて訓練室に入って来た灰田優が先ほどと全く同じ凍り付いた笑顔を浮かべたまま小首を傾ける。


「マスターキーがしたことはまだ私しか知りませんし、管理してる私ならその無断外泊も無かったことに出来ますし、してあげてもいいです。でもね、とある事情で昨日徹夜して私すっっっごくご機嫌斜めなんですよ」

「へぇ、そりゃお仕事熱心なことで。チャラにしてくれんなら有難ぇけど、具体的には何したらいいわけ? アンタに土下座でもすりゃいいのか?」

「あらブラストさんもお疲れでしょうに、こんな時でもウィットに富んだ言葉の選択がお上手なんですね。難しいことじゃないですよ、折角だからここに居る2人とお手合わせ願えませんか」


 普段の彼女を知る者からしたら聞いたこともないような蜿々えんえんたる言葉で言い切ると、それだけで随分と体力を使ったらしくフラフラと覚束ない足取りで訓練室の隅に歩いていく。

 隅っこでちょこんと体育座りをして、いつでもどうぞ。と小さく手を振った。


 座り込んだ灰田優から視線を正面に戻すと、彼女に続いて訓練室に入ってきた男が蓮の横でストレッチを始めていた。

 その男の風貌でまず目を引くのは、ラフなシャツから大胆に曝け出した褐色肌。

 筋力だけを求めた巌のような筋肉ではなく、しなやかさと柔軟性を持っていることはブラストでも一眼でわかった。

 そして金髪、耳に付けたピアス。丁寧に整えられつつも野生的な印象を醸し出す顎髭。


 値踏みするように見ていたブラストと褐色男の視線が交差する。

 ややタレ目の目尻に、双眸を彩るグレーの虹彩は胡乱げにブラストを見上げ、男はクッと鋭い犬歯を見せて笑った。


「ウチのブレインを泣かせたのはテメェだな?」

「ハァ? 泣かせてねぇよ。今もアッチでご機嫌に笑ってんじゃねぇか」

「わかんねぇか。わかんねぇよなァ。まぁいいや、せいぜいオレらにボコられちまえ」

「模擬戦だろ。アンタらこそ、2対1で負けても言い訳すんなよ?」


 ブラストの不遜な物言いに褐色肌の男、ハルが眉を跳ね上げる。更に言い返そうと口を開く前に、隣に立つ蓮が傾けた首をゴキリと音を立てて鳴らした。

 手に持った模擬戦用の木剣を構え、ブラストにも構えを取れと鋒を向ける。


「あ? 何にキレてんだよ。寒いぜアンタら」

「言うねェ、オレより先にリーダーに着火すんの、中々ないぜ。、はナシな」

「っせーな。ちゃっちゃと終わらせようぜ」

「……断る。彼女が満足するまでは付き合ってもらう」


 吐き出した呼気と共に突き出された蓮の剣と防御のために交差したブラストの双剣がぶつかり、鈍い音を立てた。



 突き出された剣先が交差した木剣の上を滑っていく。的確に眉間を狙ったその一撃を双剣で下から押し上げ、逸らし、そのままさらに上へとカチあげた。

 ガラ空きになった蓮の胴目掛けてブラストの両袈裟斬りが吸い込まれていく。


「獲ったッ!」


 まずは一人! と口端を釣り上げたブラスト顔が、苦悶に歪んだ。

 弾き飛ばされ2本の木剣がブラストの後方へと乾いた音を立てて転がっていく。

 振り下ろした姿勢から蓮を見上げるブラストに、蓮は眉一つ動かさずに転がっていった木剣を顎で指す。


「早く拾ったらどうだ? それとも、素手で続けるのか?」

「どんな馬鹿力だよアンタ」


 何のことはない。カチあげられた木剣の反動を押し返して蓮がそのまま大上段から振り下ろした。

 ブラストの想定を遥かに超える速度で振り下ろされた蓮の木剣は交差した双剣を上から叩き付け、その衝撃に耐えきれなかったブラストが思わず取り落とす。

 それだけのことだった。


 憮然とした表情で木剣を拾い上げたブラストはジンジンと疼痛とうつうの残る右手を握りしめる。

 舐めてかかるとマズい。振り向きながら身体のギアを一段引き上げると、床を強く蹴り込んで正眼に構える蓮へと斬りかかった。


 ブラストが放つ幾重にもフェイントを織り交ぜた怒涛の連撃を、蓮は危うげなく受け流していく。

 そればかりか、まばたきや息継ぎのタイミングを狙い澄ました重たい反撃がブラストの握力と体力を加速度的に削り取っていった。

 息が上がるほどではない。だが余裕があるわけでもない。蓮の掌の上で転がされるような感覚に、ブラストの眉間にも段々と皺と脂汗、そして身体全体に無視できない疲労感が積みあがっていく。


「アンタ、性格悪いだろ」

「いいや。だが今日の俺は彼女の代弁者だと思ってくれていい」

「そんなにあの灰田って子のが大事かよ」

「うん? 当然だろう。俺も優に付き合っている」

「あーそーっすか。そりゃ仲がよろしいこって!」


 ブラストの苛立ちは蓮の言葉が圧倒的に足らないが故の勘違いだったが、その苛立ちまぎれに繰り出した甘い一撃を、蓮は決して見逃さなかった。

 左右の木剣を強かに打ち据え、守る術を失った胴体へ横薙ぎが叩き込まれる。

 呻きながら転がっていくブラストから視線を外さず、残心ではなく追撃の構えを取ろうとすると後方に控えるハルから声が掛かった。


「蓮、チェンジ。オレにも殴らせろって」

「……分かった」


 息を吐き出し残心すると、蓮は踵を返してハルの元へと歩いていく。

 コツンと拳同士を突き合わせて、蓮は壁に身体を預けてもたれかかった。


「ってぇ……容赦ねぇわアイツ。アンタも蓮と同じでキレてるクチか?」

「いんや? でも、たまにはいつもと違うメンツとやる模擬戦もいいだろ」

「さあね。今日じゃなけりゃもっと楽勝でアンタらボコれたかもしんねーのによ」

「へぇ? まるで今日は本調子じゃねーみたいじゃん」


 木剣を杖に立ち上がるブラストにハルが挑発的な軽口を浴びせる。

 その物言いにブラストもイラっとはするが、まさか昨夜スサノヲの部隊とやり合ってきたとは言えず、「別に」とだけ吐き捨てた。


「ハッ、なんでもいいけどよ、次はオレ様にボコられる番だ。休憩は終わったか?」

「そんな趣味はねぇよ。今度こそ俺がアンタらを叩きのめして終わりにするさ」

「やってみやがれ。おら、いくぜ!」



 何度目かのハルの蹴撃がブラストの腹部を掠める。直前で半歩分だけ身体をずらして直撃を回避したブラストの胸部に、一回転して勢いを増した後ろ回し蹴りが突き刺さる。

 培われた戦闘経験は思考速度より早くブラストに木剣を放り捨てさせた。装甲を纏った左腕の機動義手マニューバアーマーでハルの足を掴み取りギリギリと締め上げる。


「あっぶねぇな!」

「喧嘩中に喋ってると舌噛むぞっオラァッ!」


 悪態を吐いたブラスト目掛けてハルが跳躍した。ドロップキックが来ると身構えたブラストの首にハルの脚が軟体動物のように組み付いたかと思うと、跳んだ勢いを推進力に絡めた足でブラストを地面へと叩きつけた。

 受け身も取れず頭から落ちたブラストはピクリとも動かない。


「うわ……ハルさんなに今の」

「ハル、そんな技使えたのか」

「この前格闘技好きな女の子と試合観戦しに行ったらやってたから見様見真似。ウラなんとかラナ? とか言うやつ。軽すぎかよコイツ」


 首に絡めた脚を解いてハルは立ち上がり、動かないブラストを見やる蓮と灰田に向けて「もうよくね?」と肩をすくめてみせた。

 2人も頷きかけて、全く同時に声が漏れる。


「あっ」

「ハル」


 後方を指差そうとする仕草にいち早く反応したハルが振り返ろうとするが、首を捻った瞬間その視界がブレる。

 殴られた。そう脳が認識するより前に、幼少期からの数え切れない喧嘩で鍛えられた反射神経で手を付いて倒れ込んだ衝撃を床に逃す。

 加えて体幹と腕の筋力だけで強引に側転し距離を取ると、揺れる視界を頭を振って吹き飛ばした。


「行儀が悪ぃな! 何すんだテメェ」

「それはこっちのセリフだっての。首から落としてアンタ殺す気かよ!?」

「その程度で死なねぇだろ。それとも突風サマは虚弱体質か?」


 悪態を撒き散らしながら歩み寄り互いの服を掴み掴まれ引っ張りあう。

 見上げるブラストに見下ろすハルカ。

 先に目線を外した方が負けと言わんばかりに視線の火花を散らす。

 そしてしばらくの沈黙が流れ、2人は心底嫌そうな顔で同時に口走った。


「「コイツ合わねぇわ」」


「俺には息ぴったりに見える」と呟いた蓮に、隅っこで眺めていた灰田も目を細めて同意の言葉を発した。



 30分か、1時間か。それともはたまた2時間か。”灰田優の気が済むまで”という酷く大雑把な時間指定で行われた模擬戦も、灰田が眠気に負けて舟をこぎ始めたことでようやく終わりを迎えた。

 数えるのも馬鹿らしくなる程訓練室の床に転がされたブラストは痛む節々を押さえながら起き上がる。


「結局、俺はなんでアンタらにボコられたんだよ」

「さっきも言っただろ? コイツ、緊急案件で昨夜出勤してンだよ。夜勤明けでしんどかった時に自分が管理してるチップがなくなってりゃ、そらキレるだろ普通」

「敢えて上に報告せずに私刑で終わらせたことは彼女なりの優しさ」

「あー、そゆこと? ……んじゃまぁ、少なくともボコられ損じゃないわけか」


 怒りのやり場を失い、ブラストは頭からスッと血の気が引いていくのを感じた。


「これで用事が終わりなら俺はもう行くわ」

「またサンドバックにされたくなったらいつでも言えよ」

「二度とごめんだよ。てか、アンタら部署も違うのにやけに仲いいよな」


 ハルの挑発を疲れた声で躱し、訓練室のドアを開けて立ち去ろうとするブラストはふと気になったことを口にする。

 力尽きた灰田を抱きかかえた蓮は、少しだけ得意げに「ハルとも優とも昔から一緒だから」と肩をそびやかした。


「俺からしたらどっちも弟と妹みてーなモンだ。弟妹きょうだい分が泣かされたらどうすっか、テメェだって分かんだろ」

「兄弟……ね。まぁ、確かにそうだな。俺が悪かったよ」

「……素直に謝ってくれればそれでいいんですよ」

「アンタ、寝てたんじゃなかったのか」

「寝てませんー。ちょっと目を瞑ってただけですー」


 冷たい視線でブラストを射抜くように数秒見つめた後、あざといほどに可愛らしい笑みを浮かべた灰田に見送られ、ブラストは痛む節々に鞭打ちながら訓練室から退散するのだった。

 背後から追撃のつもりなのか「私達のコンビネーション、いつかその目に見せてやりますからね」という謎の宣言布告を浴びせられ、ブラストはへいへい、と肩をすくめるのだった。



 訓練室での私刑を終えたブラストはイヅナ社内の自分のデスクへは戻らず、機密データを物理媒体に保管してある倉庫へと足を運んでいた。

 機密といっても、他企業の手に渡ると企業間戦争になるような危険な代物ではない。どこの企業にもある”古いけど捨てるに捨てられないデータの山”というやつだった。

 何度も足を運んだことがあるのだろう。ブラストは慣れた足取りで倉庫内を歩いていくと、棚の中段程に収められたケースを引き抜き1枚のデータディスクを取り出す。

 ラベルに書かれた文字は黒塗りで潰されているが、ブラストは迷いなくそのデータディスクを懐に入れてケースを棚に戻した。

 念のため倉庫付近の通路に人がいないことを確認して、ブラストは足早にその場を立ち去った。


 自席へと戻ったブラストはしかし、もう少しゆっくりしていれば良かったかもしれないと後悔することとなる。

 ブラストのデスクで待ち構えていたのは、相棒のカーム。法務部二課でありながら特例的にブラストの相棒を務める寡黙なスナイパーである。

 普段は滅多に感情を表に出さない彼女としては珍しく憤懣やるかたないといった様子でブラストを睨めつけていた。


「お、おぉ、相棒!珍しいじゃねーか、お前が俺のデスクに来るなんて! な、なんか貸してた本とかあったっけ?」

「……私の銃」

「今はちょっと、具合が悪ぃみたいで。多分1週間くらいしたら思い出すと思う……」

「早く出して。午後の訓練で使うから」


 的確に急所を撃ち抜くような言葉にブラストの口がへの字に曲がる。

 彼女との舌戦で勝ち越した事はあったかと脳内で指折り数えてみるが、途中で思考放棄する程度には負け続けていた。


「あー、そのーなんだ、ちょっといろいろあってさ。今度の給料で同じの買うからさ!?」

「……カスタム」

「ぁ、あー、分かった、いや、分かってますとも! もちろんフルカスタムでバッチリ再現して返すつもりだったさ!」

「……現物は」

「あー……やっぱ見せなきゃダメ?」

「……ダメ」


 最後の抵抗として現物を見せるのだけはやめておくつもりだったが、最早蛇に睨まれた蛙。

 観念して、朝出社した際にデスクの中にぶち込んでいた拳銃の残骸を引っ張り出してカームに差し出す。


「最悪」

「……わりぃ」

「……次の給料、約束」


 拳銃の残骸をひったくるように奪うと、カームはブラストに見向きもせず足早に去っていった。

 周囲のデスクに座る同僚からじっとりとした気配を幾つも向けられ、ブラストはわざとらしく咳ばらいをする。

 近くの席で仲のいい同期の金髪男がニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべているのに気付き、ブラストは睨み返した後八つ当たりのようにそいつの腰掛けるイスを蹴り飛ばしてやった。


「今日は女難の相でも出てんのかねぇ」


 絶対に違うだろうという痛々しい視線をその身に受け続けながら、ブラストは事務処理用の端末を立ち上げるのだった。



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