破戒僧「覚超」物の怪退治 分冊版1

Danzig

第1話

破戒僧覚超の物の怪退治 1


今にも壊れそうなボロ寺

そこに女が訪ねてくる


覚超:ほう、このような古寺(ふるでら)に、訪ねてくる御仁がおるとは・・・珍しいな

覚超:しかも、こんな夜更けに、女性(にょしょう)一人とはな


女をしげしげと見つめる覚超(かくちょう)


覚超:おい、女


覚超の声にビクつく女


女:は・・・はい・・・


覚超:名は?


女:ち、千代と申します。


覚超:で、そちは、何故(なにゆえ)この寺へ参った


女:実は、あなた様に、折り入ってお願いしたい事がございます。

女:私の住む村の峠に、物の怪(もののけ)が出るようになりまして、峠を通る村人を襲(おそ)うのでございます。


覚超:ほう、それは難儀(なんぎ)な話だな

覚超:それで?

覚超:拙僧(せっそう)に何をしろと・・・


女:あなた様に、その物の怪を退治しては頂けないかと・・・・


覚超:ふむ、どこで聞いて参ったかは知らぬが・・・


値踏みをするような目でお千代をみる覚超


女:実は村で、たいそう腕が立つといわれる、お武家様(ぶけさま)にお願いして、

女:物の怪を退治して頂こうとしたのですが、

女:そのお武家様も物の怪に殺されてしまい・・・


覚超:ほう


女:ですが、そのお武家様が出立される前に、自分が敵(かな)わぬ時には、覚超(かくちょう)という僧侶を探してみろと・・・


覚超:なるほどのぉ


女:ですから、もう、あなた様しか、頼(たよ)れる御仁(ごじん)は、いないのです。

女:お願いでございます。

女:どうか、物の怪を退治しては頂けないでしょうか


覚超:うむ、確かに拙僧なら、物の怪の類(たぐい)を退治する事は出来るやもしれん・・・・

覚超:だが、無代(むだい)ではないぞ。

覚超:それも聞いておろう


女:はい・・・それは存じております

女:それで、如何(いか)ほどあれば・・・


覚超:ほう、払う気があるのか

覚超:そうよのう・・・まぁ五十両と言ったところか


女:ご・・・・ごじゅ・・・・

女:そ、そのような大金は・・・とても・・・


覚超:ははは

覚超:普通は、払えるような金ではないわな

覚超:まぁ、諦(あきら)めて、その物の怪とは関わりを持たぬか、

覚超:はたまた、もっと徳の高い僧にでも頼んでみる事だな


お千代に背を向ける覚超

狼狽するお千代


女:あああ・・・

女:そんな・・・

女:わ、私はどうすれば・・・


覚超:ん?

覚超:何故そちは、そうまでして、その物の怪とやらを退治(たいじ)したいのだ?


女:実は・・・

女:私は早くに母を亡くし、これまで父と兄に育てられてきました

女:父も兄も、私には、とても優しく、私は幸せでした

女:ですが先日、その父と兄がその物の怪に・・・・


覚超:そうであったか・・・


覚超:事情は分かった

覚超:しかし、無代という訳にもいかぬしな・・・

覚超:そうよのう・・・


考えながらちらりとお千代を見る覚超


覚超:一夜(いちや)の夜伽(よとぎ)でもあれば、その代わりにもなるやもしれんな・・・


女:えっ・・・


ハッとするお千代

ニヤケる僧侶


覚超:若い女性(にょしょう)の身体であれば、金銭(きんせん)はいらぬが・・・

覚超:ふむ、見たところ、そちは若い上に器量もよさそうだ



覚超:そちにその気があるのであれば、十分報酬の代わりになるが・・・・

覚超:どうだ?


女:そ、そんな・・・


覚超:ん?

覚超:やはり、嫌か


しばし考え


女:わ・・・・分かりました

女:私でよろしければ・・・どうぞ・・・


震えながらも了承するお千代


覚超:そうか、そうか・・・・ははははは

覚超:今宵(こよい)は楽しくなりそうだな


女:・・・・


恥ずかしさで返事のできないお千代


覚超:しばしまて


覚超:確か、ここいらに・・・

覚超:お、あった、あった


端においてある廿楽(つづら)から服を取り出す


覚超:では、これに着替えてもらおうか


服をお千代の足元に放り投げる


覚超:着替えたら、場所を変えるぞ

覚超:こんな所では気分が出んのでな


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夜道をあるく二人

暫く無言で歩く


女:あの・・・覚超(かくちょう)様・・・


覚超:どうした、お千代、

覚超:目的の場所は、もうそろそろだが、今になって臆(おく)したか?


女:いえ・・・そうではございません

女:あの・・どこまで行かれるのでしょうか?

女:それに、何故、私が小姓(こしょう)の姿に


覚超:ははは、場所が変われば、気分も変わるものよ

覚超:それに、何故そちに、そのような小姓の格好をさせたかだが・・・


覚超:なぁに、大した事ではない

覚超:拙僧(せっそう)にも少しばかり『好み』というものがあってな、

覚超:はははは


女:は・・はぁ


覚超:男だと思っておったところが、一皮剥(む)けば女だった・・・

覚超:それも一興(いっきょう)じゃろうて、はははは


女:・・・


覚超:なぁに、お主にとっては、初めての事だろうが

覚超:拙僧の言うた通りにしておればよい

覚超:怖ければ、目でも瞑っておれば、直に済むわ


女:・・・はい


覚超:今、お主の顔が見えてしまうと、気分が出んのでな、その時がくるまで、傘は深くかぶっておれよ


女:・・・はい


しばらく歩き、ボロボロの御堂の前で止まる。


覚超:さぁ、着いたぞ


女:・・・ここ・・・ですか?


覚超:そうじゃ


女:先程のお寺と、あまり変わらないような佇(たたず)まいですが・・・


覚超:あぁ、どちらもボロ寺だがな、場所が変われば、気分も変わるというものよ


女:そうですか・・・


覚超:よいな、目を瞑っていてもいいが、身体は拙僧のいう通りにするのだぞ


女:・・・はい


息をのむお千代。


扉を開けて中にはいる


覚超:さぁ、拙僧について入ってまいれ


女:・・・はい


覚超:暗いので足元に気を付けてな


御堂の中に入る二人

薄暗い御堂の中


女:ここは・・・

女:暗くてなにも・・・


奥からうっすらと浮かび上がる蒼白い光

そこから姿を現す妖艶な女性


妖怪:誰じゃ・・・


女:ひぃ


驚き、覚超にしがみつく千代


覚超:心配するな、拙僧の後ろに隠れておれ


女:はい


妖怪:おや、どこか聞いた声だが・・・


覚超:久しぶりだな


妖怪:なんじゃ、覚超か

妖怪:一体、何の用じゃ


覚超:時雨烏(しぐれがらす)をもらい受けに参った


妖怪:ほう、

妖怪:で、金は?


覚超:金はない


妖怪:ははは、全く・・・

妖怪:話にならんな

妖怪:なんじゃお前、似非坊主(えせぼうず)なんぞに、なり腐って、ついに頭まで逝(い)ってしもうたか


覚超:拙僧にも、事情というものがあってな


妖怪:とにかく、金が無いならお前に用はない

妖怪:さっさと帰れ


覚超:あぁ、確かに金はない・・・

覚超:金はないがが、その代わり、こいつを持ってきた


妖怪:何?


お千代の背中を押して相手に投げつけるかのように付きつける

勢い余って崩れる二人の女


女:あ・・・


妖怪:なっ・・・


覚超:お千代、そいつにしがみつけ、早く


女:え?・・・は、はい! ん・・・


必死にしがみつくお千代


覚超:ほれ、そいつをくれてやる


妖怪:え?

妖怪:・・・・なっ!

妖怪:こ、こいつは・・


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傘を取ると、小姓の格好をした者が女だと分かる

妖艶な態度が一変し、急に蒼ざめて狼狽する女


妖怪:お、お、お、女!・・・

妖怪:うわぁぁぁああわわわわ

妖怪:は、離れろ、は、早く、離れろ・・・離れろ


覚超:お千代、決して離すでないぞ

覚超:それが今宵(こよい)の夜伽(よとぎ)じゃ


女:はい!・・んんん


妖怪:やめろ、離れろ、離れろって


覚超:どうじゃ、十分な報酬であろう

覚超:お千代は器量のよい女性(にょしょう)じゃ、嬉しかろう


妖怪:て、てめぇ、どどどどどどういうつもりだ

妖怪:俺が女が、だだダメなのを、ししし知ってやがるだろが

妖怪:あわわわ、離れろ、離れろって言ってるだろ


狼狽しながら悪態をつく女


覚超:ははははは、そうであった、そうであった

覚超:御主は、女が苦手であったな

覚超:お千代、今お前が抱きついている、そ奴も、物の怪の類(たぐい)じゃ


女:え?


覚超:そいつはの名は火狐(かこ)、火を操る狐の物の怪でな、

覚超:物の怪のくせに、女性(にょしょう)に触れると腰が抜けるそうだ


覚超:それゆえ、女性(にょしょう)に近づかれぬよう、自らを女性(にょしょう)に扮(ふん)しておるのだ


狼狽する火狐に近づく覚超


覚超:ところで火狐、いや、その格好をしておる時は朱火狐(あかね)と呼んだ方がよいかな

覚超:どうした? 動けぬのか?


妖怪:みみみ見りゃわかるだろ


覚超:我が愛刀(あいとう)『時雨烏(しぐれがらす)』が、ちょいと入用(いりよう)になってな

覚超:時雨烏(しぐれがらす)を返すというのであれば、その女性(にょしょう)をお主から引きはがしてやってもよいが?


妖怪:ななな何言ってんだ

妖怪:あれは、おおお前が俺から借りた五十両のかたとして、俺が預かってるんだろ

妖怪:ごご五十両もって来なきゃ返すが訳ないだろが


覚超:そうか、それは残念だ、邪魔をしたな、では・・・


帰ろうとする僧侶


妖怪:ま、まてよ覚超、何処へ行く


覚超:何処って、お主に『金がないなら用はない』と言われたからな、帰るのじゃ


妖怪:か、帰る前に、こ、この女を何んとかしろ、このまま帰るなんて、ひでぇだろ


覚超:ほう、そうか

覚超:では、拙僧が刀をお主に預けて、五十両を借り受けた・・・

覚超:しかし、そんな話はなかった・・・

覚超:そういう事でよいかな


妖怪:は、はぁ?

妖怪:な、何言ってんだお前

妖怪:そ、そんなバカな話があるか

妖怪:お、俺は確かに五十両お前に貸したぞ


覚超:いや、まて


妖怪:人の話を聞け!


覚超:確か、お主がどうしても、拙僧の時雨烏(しぐれがらす)を貸して欲しいと言うたので、拙僧が仕方なく、五十両でお主に貸した・・・

覚超:そうであったかな?


妖怪:おい、人の話聞いてんのかよ

妖怪:何でそんな話になるんだよ、

妖怪:都合のいい事ばかり言ってんじゃねぇぞ、くそ坊主


覚超:そうか拙僧の記憶違いであったか・・・

覚超:そうか、そうか、それは残念だった・・・では


帰ろうとする僧侶


妖怪:まて・・まて・・

妖怪:わかった、わかったから

妖怪:も、もうお前のいう通りでいいから、この女をどけてくれ

妖怪:頼む、早く・・・


覚超:やはりそうであったか

覚超:そうか、そうか、それであれば・・・

覚超:お千代、もうよいぞ


女を火狐から引きはがす


覚超:よっと


女:あ・・・


妖怪:はぁ・・・はぁ・・・

妖怪:助かった・・・


女:あの・・・覚超様


覚超:ああ、そちはもう帰っても良いぞ、夜道ゆえ、気をつけてな


覚超:物の怪は、拙僧と朱火狐(あかね)で退治しておく故(ゆえ)、安心しておれ


女:はい、ありがとうございます


妖怪:おい、何言ってんだ覚超

妖怪:何で俺が、五十両踏み倒された挙句に、妖怪退治までしなきゃならないんだよ


覚超:何を言うておる、お主に貸した時雨烏(しぐれがらす)の利子を、まだ貰(もら)い受けておらん。

覚超:お主には、利子分働いて貰(もら)わぬとな


妖怪:はぁ?

妖怪:金を貸したのはこっちだぞ、それを、人の弱みを利用して、こっちが借りたなんて話にしやがって

妖怪:しかも何が利子だ、バカも休み休み言え


覚超:まぁ、そう怒るでない

覚超:坊主を助けておくと後々よい事があるやもしれぬぞ


妖怪:ったく、何が坊主だ、似非坊主(えせぼうず)のくせに

妖怪:お前を助けたって、ご利益なんてありゃしないだろ!


覚超:さて、では参るとするか、朱火狐(あかね)


妖怪:人の話を聞けって!


覚超:久しぶりの物の怪退治と行こうではないか

覚超:お主も心が躍るであろう


妖怪:躍らねぇよ、この戦狂い(いくさぐるい)が!


覚超:はははは、腕が鳴るのう

覚超:さて、この度(たび)はどんな戦(いくさ)になるだろうなぁ

覚超:楽しみじゃて

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