第138話 書籍発売記念SS「お別れ」
僕がこの世界に転生してから、80年ほど経った。随分と長いこといたものだ。もう元の世界より四倍も長くこの世界にいる。邪神を倒してからは、トロンバレン共和国で万屋を経営しながら、冒険者としても活動を続けている。
万屋の方はどんどんお店の規模が大きくなっていき、面倒くさくなった僕は素材の納品だけを行うことにして、それ以外の全てを商業ギルド代表のオースウェンさんに丸投げしてきた。
おかげで時間に余裕ができたので、素材集めも兼ねながら、姿を変えて気ままな一人旅なんかを楽しむことができた。
この数十年でこの世界は大きく変わっていった。ヴァルデリン王国、ミシティア帝国、アウグネス聖国、魔王国デモナイズ、そしてトロンバレン共和国、この五つの国が平和協定を結んだのだ。
その偉業に大きく貢献したのがオーロラだった。オーロラが契約したのはAランクのレッドドラゴン『ヴォーラ』、Sランクのアルティメットグリフォン『スノウ』、SSランクのストームドラゴン『ナギニ』の三体だ。
一体でも国家滅亡レベルなのに、それが一人の召喚士の元に三体も集まっているのだ。誰も逆らうことなどできない。しかし、オーロラが所属する帝国が支配を望まなかったので,平和協定を結ぶことに落ち着いた。
もちろん帝国の皇帝はテオドールだ。一番上の兄は聖国と魔王国と秘密裏に取引をし、テオドールを亡き者にしようとしていたし、武力自慢の二番目の兄は、オーロラの前ではその武力が霞んでしまった。
その点、テオドールというかオーロラは王国のSランク冒険者のオッチョさんや、魔王国の王となったハヤト、聖国の聖女サヤカ、トロンバレン共和国の評議会統括イグニートさんなど、各国の主要人物と繋がりがあり、平和協定を結ぶ立役者となったのだ。
えっ? テオドールとオーロラは結婚したのかって? それは内緒だね!
あ、ちなみにハヤトとサヤカさんは結婚したよ。僕もその結婚式に呼ばれて、見に行ったからね。もうすでにハヤトは尻に敷かれていたけど、案外その方が上手くいくのかもしれない。
それから、
今は霊峰ドラゴニアの竜の里で暮らしている。二人とも何千年ぶりに
そして今僕は、オーロラの死期を感じ取って彼女の元を尋ねて来ている。黒猫の姿になって。
なぜか空いている窓から家の中に入り、ベッドに横になっているオーロラの枕元にちょこんと座る。
「最後に来てくれたのね。ミスト」
その声はしわがれて、僕をなでるてもしわしわだ。それもそのはず、オーロラはもう九十歳を超えおばあちゃんになってしまったのだから。
〈うん、僕が来ることに気がついてた?〉
「ふふ、そうね。何となくね」
〈今日はお礼を言いに来たんだよ。この僕を召喚してくれてありがとう。オーロラと一緒に過ごした時間は、とっても楽しかったよ〉
「私もよ。私の召喚に応じてくれてありがとう。もう私も長くはないわ。それがわかってて来てくれたんでしょ?」
〈……うん〉
もし僕がオーロラに時魔法を使えば、このしわしわな手も……
「そんなことしなくていいわ。私はもう十分長生きしたから」
ああ、契約はとっくに切れているのに僕の心が読まれてしまった。すごいねオーロラは。僕のことなら何でもわかっちゃうんだね。
そして今初めて知ったよ。ネコも涙を流せるんだね。
「それで、あなたはこれからどうするの?」
〈もう少しこの世界を見守ってから……ちょっと遠くへ旅に出ようと思ってる〉
「そうなのね。遠くにか……それは元の世界に帰るってことかな?」
〈えっ!? なんでそれを!? いつから知ってたの!?〉
「驚いた? 今知ったの。私も驚いたわ。けど、何か妙に納得したわ。だって、あなたってハヤトさんやサヤカさんと随分仲良かったし、考え方がこっちの世界の人と違ってたから」
〈そっか、今まで黙っててごめんね〉
「ううん、いいの。でも、まったく違う世界で暮らしていくのは大変じゃなかった?」
〈そうだね。何せ最初は苔だったからね〉
「えっ!? 苔!? どういうこと!?」
僕はその後、転生してきた頃の話や前の世界の話をした。オーロラは驚いたり笑ったりしながら、興味深げに聞いてくれた。でも、それももう終わりに近づいている。
「ふぅ。最後に楽しい話を聞けてよかったわ。でも、私もそろそろかな。何だか……疲れて……眠たく……なって…………ありがとう…………さようなら」
オーロラはその言葉を最後にそっと目を閉じた。
(リザレク……ダメだよね。僕も乗り越えないと。さようなら、オーロラ)
僕は最後にオーロラの頬に口づけをして、この世で一番大切になった人に別れを告げた。
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1月24日、苔から始まる異世界ライフ(旧 苔から始まる異世界生活)の書籍が発売されました。その記念といたしまして、SSを公開いたしました。
書籍版「苔から始まる異世界ライフ」では、Web版にはなかった進化先が追加されており、新たな展開を楽しめるようになっております。また、王都で出会った不思議な少女、エイミーちゃんの出生の秘密に迫るようなシーンも用意されております。
また、むに様に素晴らしいイラストも描いていただきました。表紙絵には人間が一人も描かれていないという、一風変わったものになっていて気に入ってます!
最初の売り上げが肝心なので、編集さんにしっかり宣伝するように言われております。何卒、ご購入のほどをよろしくお願いします。
また、カクヨムコンテスト中ということもあり、地球に帰ってきた直後のお話を短編として投稿してみました。よろしければそちらも楽しんで読んでいただければと思っております。
タイトル
「アリから始まる現代ライフ~異世界から侵略された地球を守っているのは人間だけではありません」
キャッチコピー
「昆虫だって動物だって魔物に転生した僕だって地球を守る為に戦ってます!」
↓↓↓ よろしければ評価の方もお願いしますm(_ _)m
https://kakuyomu.jp/works/16818093092079152879
合わせて、作者初のラブコメ短編
タイトル
「あの事故から好感度がわかるようになった俺が、気になるあの子の好感度を0から100に上げるために頑張る話」
キャッチコピー
「心を閉ざしたあの子の好感度を上げてみたい。最初はそう思ってただけなのに」
↓↓↓ こちらもお暇があればどうぞ!
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