第118話 武闘大会前日
今回はきちんと正面からお邪魔した。人の姿だし、ギルドカード持ってるからね。
武闘大会開催の影響か、王都は以前にも増してたくさんの人達でごった返していた。朝早くだというのに、大通りなんか身動きも取れないくらいだ。これは宿もいっぱいだろうから、夜は毎回転移で家に帰るとするか。
そんなことを考えながら、僕はとりあえず冒険者ギルドへと向かった。確か、イグニートさんがそこで受付をしているとか何とか言ってた気がしたから。
カランコロン
相変わらず、小気味よい音を鳴らしてくれる冒険者ギルドの扉をくぐる。
そのギルドも他と変わらずに混雑していた。おかげで注目されることもなかったからよかったけど。
さて、ギルドに入ってすぐにいつもはないものが置かれているのに気がついた。クエストを貼っている掲示板の橫に、もう一つ大きな掲示板があったのだ。
何かと思い近づいてみると、今回の武闘大会のトーナメント表みたいだった。
(そう言えば、ギリギリまで
ハヤト―――――┐
|
アジダハ――┐ |
|―┘
ブライアン―┘
オーロラ――┐
|―┐
ルサール――┘ |
|
オットー――――┘
サヤカ―――――┐
|
ダライアス―┐ |
|―┘
グランドール┘
イグニート―┐
|―┐
ヨルムガン―┘ |
|
フォッグ――――┘
ふむふむ。知った名前がいくつか見える。まずはハヤトか。去年の優勝者であるタイヨウを基準に考えると、なかなかいいところまでいけそうだね。単純な攻撃力で言えばタイヨウに軍配が上がるけど、魔法有りならハヤトの方がやや優勢か?
それからブライアンってのは、聖国で戦った取り憑かれてた人だよね。ハヤトやタイヨウに比べたら見劣りするな。
あとオーロラって、あのオーロラだよね? もちろん召喚獣込みだよね? ハヤト相手にはきついと思うけど、召喚獣強化ありならギリいけるのか? 偶然会えるどころか、参加してるじゃん。
あとは……サヤカは何をしてるんだ? 彼女の結界は強力だけど、攻撃手段がないだろう。あっ、もしかしてサヤカもハヤトも、新しく生まれ変わった国の宣伝目的で参加したとか? それなら十分あり得るな。
それからダライアスって、確かテオドールのお兄さんだったよね。第1か第2か忘れたけど。頭がいい方と強い方がいたはずだけど、ここに出てくるくらいだから強い方のお兄さんっぽいか。
あれ、オーロラが来ているってことは、テオドールもいるよね。暗殺騒動の黒幕はお兄さんのどっちかだと思ってたけど、大丈夫かね。僕が心配することじゃないけど。
それとイグニートさんね。ってか僕とイグニートさんの場所だけ近くない? イグニートさんが一回勝ったら僕と当たるじゃん。文句言っても仕方ないのかもしれないけど。
後は見たことない名前ばっかりだな。
(お、こっちに選手の簡単な紹介が書いてあるな)
・アジダハ(竜人国)…竜人国No.2の実力を持つ剣士。
・ルサール(魔王国)…新魔王の側近。鞭と複数の魔法を使いこなす。
・オットー(王国)…世界最強と言われた元Sランク冒険者。
・グランドール(王国)…王都のギルドマスター。元Aランク冒険者。
・ヨルムガン(竜人国)…竜人国No.1の槍術士。優勝候補筆頭。
ほほう、この説明はありがたいね。何となくイメージがついたよ。
にしても、僕の説明文は悪意を感じるぞ。
・フォッグ(共和国)…Cランク冒険者。
いや、これはないだろう。せめて『期待の』とか『最速でランクアップ中の』とか入れれるでしょう!
周りから聞こえてくる批評もひどいよ?
「やっぱり優勝候補はヨルムガンか? 何せあの竜人国のNo.1だからよ!」
「いやいや、間違いなくオットーだろう。数年前から姿を消していたけど、それまでは間違いなく世界最強だったからな。あの帝国ですらオットーを恐れてるって話だからよ。今回、生で戦う姿が見られると思うと……くぅー、楽しみでしかないぜ!」
「なあ、このフォッグで何者だ? Cランク冒険者ってこの武闘大会をコケにしてんのか?」
「ところで何で急に武闘大会なんかやることになったんだ?」
「ああ、噂だと竜人国の提案だとか。案外、武闘大会で優勝して世界統一でも宣言したりするかもな」
「ねえ、あのトーナメント表の前に立ってる人見て。ここじゃ見ない顔よね。すっごいイケメンじゃない? ちょっと声かけてみようよ」
人が多いおかげか、ちょっと耳を澄ませるだけで、色々な情報が入ってくる。それにしても、コケにしてるとか言ったやつは誰だ? 上手いこと言いやがって。
それはそうと、出場者の受付はどこでやっているのかな。こんな混雑しているところに出場者が現れたら大変なことになりそうだけど。
そう思ってキョロキョロしていたら、トーナメント表の隅に、闘技場に専用のブースができているようなことが書かれていた。
それを発見した僕は、こっちを見て何やら話し込んでいる女性冒険者達に捕まらないように、気配を消しながら人混みを縫うように冒険者ギルドを後にした。
冒険者ギルドで必要な情報を得た僕は、闘技場に行く前にお昼ご飯を食べようと『オーク亭』に寄ってみたのだが、すごい混んでいるだろうという予想に反し、お客さんは一人もいなかった。と言うより、お店が開いてなかったのだ。
『オッチョさんに何かあったのでは?』とも思ったが、玄関先に張り紙が貼ってあり、『3日間お休みします』ときれいな字で書かれていたので、ひとまずホッとした。
しかし、こんな稼ぎ時に店を休むなんてもったいない、何があったんだろうね。
しかし、やっていないものは仕方がない、僕は焼肉を諦めて、その辺の露店で串焼きを買って食べた。これはこれでおいしかったので、よしとするか。
それから僕は、闘技場に向かった。
闘技場は、街から少し離れたところにあるようだ。以前、猫の姿だった時には行ったことはなかったけど。
武闘大会の開催は明日だと言うのに、闘技場には結構な人がいた。その人達に見られないように、出場者の受付を行なってる部屋へと入る。
「あー! もしかしてフォッグさんですか!?」
部屋に入った途端、大声で名前を呼ばれた。まだ名乗ってもいないのにどういうことだ?
「確かにフォッグだ」
受付に来て嘘を言っても仕方がないので、とりあえず肯定してみる。
「遅いですよ! もう他のみなさんは、とーっくに受付を済ませてますよ! フォッグさんが最後です! と言うか前日に来るとは……よっぽどのバカなのか……大物なのか」
そうか、出場者の受付をしていて、僕が最後だったから名前の予想もついたと言うわけか。納得。
最後の方は何かごちゃごちゃ言ってたけど、聞かなかったことにしよう。
「すまない」
考えてみれば、これだけのイベントに出場するのに前日に受付とは非常識だったね。ここは素直に謝っておこう。
「えっ? あれ? ずいぶん常識的な……。てっきり逆ギレでもされるかと……それに、思ったより、いえ思っていた100倍以上にイケメンだし……」
「それで明日はどうすればいい?」
何だか、急に受付のお姉さんがもじもじし始めたんだけど、まだ聞きたいことが聞けていないから、こちらから切り出してみた。
「あっ、すいません。明日は……」
受付のお姉さんによると、明日は開会式の後、小山の4試合が行われるようだ。なので、朝からここに来てほしいと言われた。
2日目は、1日目に勝ち上がった4名とシードの4名が対戦する。
そして、最終日は準決勝と決勝が行われ、終わり次第閉会式という流れだ。
明日の日程を確認した僕は、なぜか引き留めようとする受付のお姉さんにお礼を言い、部屋から出た後すぐに自宅へと転移したのだった。
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