第106話 価格調査

 さて、剣術スキルと炎魔法スキルを無事ゲットした僕は、週末の開店に向けて再び素材の価格調査をすることにした。まずはここ共和国の首都、トロンバレンから調べていくことにしよう。


 今回は商人として価格を調べに行くので、キリの方でお出かけする。


 まず向かったのは冒険者ギルドだ。冒険者ギルドはどんな素材も買い取ってくれる。ただし、その買い取り価格は他よりも安く、販売価格は少し高めだ。それでも、何でも買い取ってくれること、素材の在庫が豊富なことを考えれば妥当なのだろう。以前、一度調べてはいるが今度はもっと詳しく聞いてみようと思う。


 ギルドで聞いた買い取り価格は、Eランクのフォレストウルフの毛皮が完全な状態で銀貨5枚、オーロラがレインボウにいるときに倒したのと同じ、Eランクのシザーズアントの外殻が大銀貨1枚だった。

 この値段の差は、需要の関係だろう。さらにシザーズアントの上位種、E+ランクのミリタリーアントの外殻は大銀貨5枚、おおよそ5万円といったところか。

 Dランクのポイズンスネークの皮は金貨1枚、大体10万円で買い取ってもらえる。これはランクが高いのと、毒耐性が付くことが大きいと思われる。

 オーロラ達が倒したシザーズアントクイーンの外殻はD+ランクで金貨5枚。同じD+ランクのハングリーボアの毛皮が金貨3枚なのをみると、防具としての需要が高いのだと推察される。


 金貨3枚と言えば30万円だ。1体倒すだけで普通に1ヶ月くらい暮らせるな。


 ここから先はランクが上がると、買い取り金額も跳ね上がっていく。もっとも、ギルドにはこれ以上のランクの素材はほとんど在庫がないようだけどね。


 Cランクのブラッドベアーの毛皮は金貨7枚。C+ランクのイビルボアの毛皮は大金貨1枚。ちなみに100万円ね。

 テオドールの召喚獣でもあるドレイクはBランクで大金貨3枚。僕のアイテムボックスに眠るコカトリスはB+ランクで大金貨5枚。はい、500万円でました。石化耐性がつくから需要も高いそうだ。

 これまたアイテムボックスに眠るブルードラゴンは白金貨1枚。お値段何と1000万円です。ただ、牙やら爪やら魔石やらはテオドール達が売ってしまったので、肉だけだともっと安値になっちゃうけどね。


 そして、A+ランクのファントムタイガーですが……はい白金貨2枚で買い取ってくれるそうです。いやぁ、冒険者って儲かるのね。


 これらは全て買い取り価格なので、ギルドで販売するときは倍の値段になるそうな。いい勉強になりました。


 さて、次は冒険者ギルド以外も調べてこようかな。とりあえず個人のお店を回ってみるか。





 首都トロンバレンで素材を売っている店は、そう多くはなかった。と言うのも、冒険者ギルドの影響が大きすぎてあまり商売にならないのだとか。

 範囲を狭めてみれば、金属系の素材は鍛冶師や鍛冶ギルドが、薬草関係は錬金術師や錬金ギルドが、布や皮素材は裁縫師や裁縫ギルドが取り扱っている。

 買い取り価格は冒険者ギルドより、やや高く設定されているが、何でも売れるわけではないようだ。あくまで募集しているものしか買い取りをしていないらしい。


 あっ、調査ついでに鍛冶屋で片手剣を買いました。何でも名のあるドワーフが打ったという鋼の剣が置いてあったので、ありがたく買わせていただきました。

 せっかく剣術スキルを手に入れたのに、剣がなかったら意味がないからね。でも盾は止めておいた。一応、使い方は習ったけど正直邪魔になるだけだったから。


 半日費やしてここトロンバレンの価格調査は終了した。ただ、この辺りではなかなか集められない素材の値段がわからずじまいだったので、ちょっと別の街に行って調べてこようと思う。久しぶりに王都にも行ってみたいと思ってたところだしね。


 僕は空間転移テレポートを使って意気揚々と王都へと向かった。







「おお、懐かしの王都よ!」


 久しぶりに帰って来た王都は相変わらずの賑わいでした。でも、視線が高くなっているせいか以前とは見え方が違う。前は全て下から見上げていたからね。


 それはそうと、価格調査に来たわけだが気分はそれどころじゃない。行きたいところがたくさんある。オッチョさんの焼き肉店やリーンゴをくれたおばちゃんがいる果物屋、それに孤児院も見に行かないとね!

 丁度時間はお昼時だから、まずはオッチョさんの焼き肉店に行ってみるとしよう。


 昔の記憶を頼りに、オッチョさんが働いていた焼き肉屋へと向かう。数分ほど歩いたところで、あの時焼いたお肉を恵んでくれたお店を発見した。猫時代はいつも裏庭に忍び込んでいたけど、今日は堂々と正面から入れるね。僕は熱くなる胸を押さえながら、『焼き肉屋 オーク亭』の暖簾をくぐった。


「いらっしゃいなんだなぁ」


 暖簾をくぐってすぐに懐かしい声が聞こえてきた。この声としゃべり方は絶対オッチョさんだ! ただ、オッチョさんは厨房の奥にいるらしく、その姿は見えなかった。残念! 代わりに若い女の子が案内しに来てくれたのだが……


「……ぼくひとり? お父さんか、お母さんはいないのかな?」


 そうか、忘れていたけど僕は今10歳くらいの子どもの姿だったんだ……


「えーと、ひとりで来たんですけど……だめですか?」


 ちょっと上目遣いで聞いてみると……


「あら、やだ、かわいい! うん、お金はある? それなら大丈夫よ!」


 よかった。上目遣いの効果は抜群だ。お金は十分にあるから、しっかり焼き肉を堪能させてもらおう。


 僕は注文を聞きに来たお姉さんに、お高いオークジェネラルのお肉を頼んだ。ちょっと心配そうな顔つきをされたけど、大銀貨を2~3枚テーブルの上に置いたら、安心したような笑顔を見せてくれた。


「店長、オークジェネラルの肉入りました!」


 お姉さんが厨房に向かって大きな声で伝えると……


「ありがとうなんだなぁ」


 何と、オッチョさんが返事をした。えっ!? オッチョさん、いつの間に店長に!? やばい! あのいつも師匠に怒られていたオッチョさんが店長だなんて。嬉し過ぎて涙が出る!


 僕はあの時のことを思い出してひとり感慨にふけっていると、すぐに上質なお肉が運ばれてきた。さすがはオークジェネラルの肉。見た目も霜降り和牛のようにきめ細かい。


 前の世界の焼き肉店とは違い、ここでは肉が焼かれた状態で出てくる。甘辛いタレをつけて一口頬張ると……


「うん、おいしい!」


 オークジェネラルの肉のおいしさに甘辛のタレがぴったり合う。それに懐かしさと嬉しさが相まって最高の気分だ。一人分のお値段は大銀貨1枚。1万円と考えると少々お高い気もするけど、このおいしさなら納得だね。

 たっぷりとオークジェネラルの肉を堪能した僕は、帰り際にチラッと厨房を覗き、一生懸命オークを捌いているオッチョさんを見れたことに満足してお店を後にした。


 次に向かったのは果物屋のおばちゃんのところだ。まだ元気にしてるといいんだけど。僕は東側のメインストリートから一本外れた露店街が並ぶ道路を歩いて行く。


「確かこの辺だったはずだけど……あ、あった!」


 そこには以前と同じ佇まいで露店を構えているおばちゃんがいた。


「お姉さん、リーンゴをみっつくださいな」


「はーい、ってあらやだお姉さんだなんて。それに随分かわいい坊やね。今日はお使いか何かかい?」


 僕の気の利いた一言と、このかわいらしい容姿のおかげでつかみはバッチリだ。


「はい、そうです。お母さんに頼まれました!」


 もちろん嘘だけど、少しでも売り上げに貢献したいからね。って、何だあれ? お店のカウンターに置かれている黒い猫の像は……うん、あんまり気にしないでおこう。


「お使いなんて偉いわね! はい、これ一個おまけしておいたわよ!」


 おっと、売り上げに貢献するどころか気を遣わせてしまったようだ。さて、どうしよう。よし、ここはあれだな強制リーンゴ寄付作戦だ。

 おばちゃんからリーンゴを受け取った僕は、あえておつりがでるように銀貨を渡した。そして、おばちゃんがおつりを用意するために後ろを向いた瞬間に、自慢のスピードを利用して一瞬のうちにアイテムボックスから取り出したリーンゴ10個を、店の奥にあった在庫入れのかごの中に入れた。


 ふふふ。完璧だ。


 おつりを受け取った僕は、リーンゴをひとつかじりながら次は街の北にある孤児院へと向かった。





(おかしい、僕の知ってる孤児院じゃない)


 僕は孤児院を一目見て、そんな感想を抱いてしまった。だって、以前孤児院があったところに大きくて立派な門が立っており、そこをくぐると見るからに新しく建ったばかりの大きな建物が、3つならんでいたからだ。


(あの古い建物はどこにいった? 一体何が起こってるんだ?)


「あら、どうしたの坊や? ここは王都孤児院よ。何かご用かしら?」


 僕が以前とは変わり果てた建物を見て呆然と佇んでいると、ひとりのシスターに声をかけられた。あの人は確かマリアさんだったな。ちょっと聞いてみるか。


「あの、以前ここに来たことがありまして、それであまりの変わりように驚いていました……」


 僕が戸惑ったように言うと、マリアさんはすんなり教えてくれた。何でも、以前、ここにたくさんの食べ物を寄付してくれた人じゃなくて猫がいて、余った素材を街の貧しい人たちにも提供したら、いつの間にか街の人たちが孤児院のために色々手助けしてくれるようになったのだとか。


 さらにその猫をモチーフにした木彫りの像やバッジを作って売り出したところ、これが大当たり。黒猫のバッジをつけていたり、店先に黒猫の木彫りの象が置いてあると、仲間意識が芽生えて色々なことが上手くいくようになるというのだ。今では、王都どころか近隣の街や村からも注文が殺到しているらしい。うん、よかったね。


 今では銀色のカブトムシ教に続く、新興宗教になりつつあるのだとか。


 えっ? 銀色のカブトムシ教? どっかで聞いたような……あれか、エリック達が叫んでいたやつか?


 僕は寄付する必要が無いくらい潤っている孤児院を、複雑な気持ちで後にした。


 もちろん、その後価格調査は行ったよ。訪れるお店の全てに黒猫の像がおいてあって、こっぱずかしい思いをしながらね。おかげでお店での販売価格はある程度決まったけど、銀色のカブトムシ教と黒猫教の仲が悪くならないように祈ることが日課に加わってしまった。

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