第104話 剣術指南を受ける
「ふう、よく寝た」
昨日はあの後、家に戻ってひたすら値札作りに精を出した。まだ素材の名前と値段は入れてないけど、かなりの数の値札を作ることができた。
今日はこの後、剣術の指南を受けてから素材の値段調査に行く予定だ。ふふふ、楽しみだな。
僕は昨日買った服に着替え、いそいそと冒険者ギルドへと向かった。
「ほほほ、待たせたのう。わしの名はブラウン。お主に剣術を教える元Cランク冒険者じゃ」
受付のお姉さんから紹介された剣術の指導者を待っていること十数分、一人の初老の男性が訓練所に現れた。白髪交じりの髪に、立派なあごひげが特徴のその男は真っ直ぐ僕と受付のお姉さんの元にやってきて、自己紹介をしながら右手を差し出してくる。
「フォッグだ。今日はよろしく頼む」
クールなキャラを崩さないように気をつけながら僕も右手を差し出し、がっちりと握手をした。
「今日は剣術の稽古じゃったな。それで、お主の得意武器は何じゃ? 片手剣か? 両手剣か? もしや変わり種のレイピアなんぞじゃないだろうな?」
ブラウン師匠から得意な武器を聞かれたが、正直ろくに剣を握ったことが無い僕には違いがさっぱりわからない。ここはそれも含めて相談してみるとしよう。
「すまない。その辺りも含めて教えていただけないだろうか?」
「ほっ、全くの素人じゃったか。よろしい、わしが一から教えてしんぜよう。まずは剣の種類からじゃな」
ブラウン師匠は剣術素人の僕に一からわかりやすく教えてくれた。それぞれの剣の特徴、戦い方、メリットとデメリットなど、戦闘狂では無い僕でも心躍る説明だったよ。
その結果、まずは片手剣での戦い方について詳しく教えてくれることになった。
「ブロードソードはバックラーとセットで使うことが多い。盾の使い方も教えるからこれを持て」
師匠から木剣と木でできた小さな円形の盾を受け取る。僕は師匠に教えてもらいながら、木剣を右手に持ち、左手にバックラーを装着した。
「まずは基本の構えからじゃな。左足を前に出してつま先をこっちに向けるのじゃ。右足は後ろに引いて斜め45度に開こうか。足の幅は肩幅くらいがよいじゃろう。膝を軽く曲げて腰を少し落とすんじゃ。じゃが、上半身はまっすぐ立てろ。重心は少し前に置いておくのが基本じゃ」
言われた通りの姿勢を取ると、いつもより身体を動かしやすいような気がした。
「剣の構え方はいくつかある。一通り教えるから自分に合ったものを選ぶのじゃ」
それから師匠は剣の構え方を教えてくれた。剣を額と平行になるように頭部を守る構え。肩に担ぐような構え。腕を下に下ろす構え。剣の柄を後ろに引き相手に剣先を向ける刺突の構え。
様々な構えをそれぞれのメリット、デメリットと共に教えてくれる。
僕は何となく盾を正面に構え、腕を下に下ろす構えを選択した。こうすることで剣の動きが見えづらくなるメリットがあるそうだ。
「よし、構えが決まったら次は剣筋の確認じゃ。基本は真上から、左右斜め上から、左右水平に、左右斜め下から、そして突きの8通りじゃ」
そう言って師匠は一通り見本を見せてくれた。剣での攻撃は全て腰の回転から始まるようだ。腰を回転させつつ、左右どちらかの足を踏み出し、腰のひねりを伝えるように肩、肘、手首と伸ばしていき剣がしっかり伸びてから足を接地させる。そうすることで重たい剣を自在に扱えるのだとか。
なるほど、確かに剣速が少し増したように感じるし、振り抜きやすい気がする。だがこれはステータスが低い者向けの振り方だな。僕のステータスであれば腕の力だけで同じことができる。その方が予備動作も少ないし、実践向きだろう。
とは言え、威力が増すことは間違いないので、場面によって使い分ければいいってことか。
僕は教えてもらった型を何度も繰り返し練習していく。もちろん、かなり手を抜いて行っているが自分の動きの無駄がどんどん減っていくのが楽しい。数十分後にはすっかりこの動きをマスターすることができた。
「お主、なかなか筋がよいのう。このまま練習を続ければ半年以内に剣術スキルが生えるやもしれんな」
半年!? 新しいスキルを覚えるのに半年もかかるの? 魔物の頃はどんどんスキルを覚えていったから、そんなに苦労するとは思っていなかった。
ちょっと心が折れかけたけど、新しいスキルを覚えるために頑張るとするか。そう思って、師匠との実践形式の模擬戦を行った2時間後。
「剣術スキルを覚えた。感謝する」
はい、無事剣術スキルが生えました。
「なっ、まさか!? そんなはずは……本当に覚えたのか?」
あまりに覚えるのが早すぎたせいか、師匠が疑ってくる。
「ステータスに現れた。間違いないだろう」
とは言え、すぐに証明することはできないので、僕の言葉を信じてもらうしか無いんだけどね。
「いや、それは、だがしかし、ないとは言いきれんか」
っと、意外にも師匠は僕の言葉を信じてくれたようだ。ひょっとしたら、剣術スキルを覚えた瞬間、急に剣速が上がって抑えるのが大変だったから、その辺の変化を感じ取っていたのかもしれない。
「ならば、わしの出番もこれまでじゃの。短い間だったが楽しかったぞ」
「師匠のおかげだ。感謝する」
もとより剣術スキルが発生するまでの契約をするつもりだったので、目的を達成した以上、後は自分でスキルレベルを上げていけばよいのだ。
「ほほぅ、こんな短い時間の指導でもわしのことを師匠と呼んでくれるか。うれしいぞい」
「俺はあんたから剣術を学んだ。時間は関係ない」
心底嬉しそうにしているブラウン師匠と、来た時と同じようにがっちり握手をしてお別れをした。
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