第103話 開業準備

 さて、ノアちゃんとの取引を無事に終えた僕は、そのまま商業ギルドの職員にお願いして、昨日下見をした空き家の中を見せてもらうことにした。


 ギルドの職員は快く案内を引き受けてくれて、街の少々外れにある空き家までわざわざ連れて行ってくれるそうだ。

 街の中心部から少し外れた場所にある一軒家。そこまで案内してもらった。




「どうぞお入りください」


 ギルドの職員が入り口の鍵を開けて、中へと案内してくれる。思ったよりもきれいに掃除されていてびっくりした。


「この家は以前住まわれていた方がポーション類を売っている方でしたので、一階は店舗になっております」


 ギルドの職員が説明してくれたように、この空き家は一階が店舗と倉庫になっていて、二階が居住スペースとなっている。

 店舗も倉庫もそれほど広くは無いが、商品を直接置かず値札だけなら十分なスペースだ。街の中心部から少々離れているのが難点らしいが、生活費程度を稼げればいいと思っているからこのくらいが丁度いい。


 居住スペースの方もひとり暮らしには十分な広さがあり、トイレやお風呂、台所もきちんと付いている。これで月金貨1枚ならお買い得だね。

 ちなみにこの家を買うとなると金貨100枚でいいそうだ。早いところお金を貯めて買っちゃおうかな。


 この家の造りに満足した僕は、早速この家を借り入れることにした。商業ギルドに戻った僕はすぐに手続きを済ませ鍵を受け取る。大した荷物もないので宿を引き払い、すぐに引っ越しだ!





「よし、次は開店準備だな!」


 借り物とはいえ、一国一城の主になった僕は何だか楽しくなってきた。まずは商品の値札を置く台を用意しよう。おそらく家具屋さんで手に入るはず。ついでに居住スペースに置くテーブルや椅子、ベッドも買っちゃおうか。お金、足りるかな?



 商業ギルドから家具屋に移動し、シンプルながら頑丈な物を選んでいく。Dランクの魔物アサルトツリーから作られた家具にしよう。下手な金属より堅いらしいから。


 いい感じの大きな台を4つと居住スペース用のテーブルと椅子、大きめのベッドを買った。アイテムボックスに入れれば簡単に持ち運べるけど、なんとなくまだ公にするタイミングじゃないと思い、家に届けてもらうことにした。




 家に戻った僕が次にやるべきは、素材名と値段が書いてある札作りだ。イメージ的には台に置いてあるその値札を持ってレジに来て、そこに書かれている商品を倉庫(という名のアイテムボックス)から持ってきて、お金と交換って感じかな。在庫が切れたらその値札は下げればいいし、在庫が多ければ値札もたくさん用意しておくみたいな。

 であれば、みんなが手に取る物だから、これも頑丈な物にした方がいいだろう。紙じゃすぐボロボロになりそうだし。


 となると……やっぱりアサルトツリーがいいのか? 万能だなアサルトツリー。これは自分で取りに行くか。


 よし、ある程度値札ができたら、フォッグに変身して狩りに行こう。ついでにいくつかクエストを受ければ一石二鳥だね。






「これを頼む」


 値札をある程度作った僕は、フォッグになって冒険者ギルドに来た。Eランクの討伐系のクエストを、いくつかまとめて受付へと持っていく。

 受付のお姉さんが少々顔を赤らめながら受理してくれる。おかしいな今日はちゃんと服を着ているのに。

 えっ? 前回も周囲の人達は、ちゃんと服を着ているように見えてたって? じゃあ、受付のお姉さんが毎回赤い顔をするのはなぜかな?


 まあ、考えても仕方が無いことは置いておくとして、早速、アサルトツリーを狩りに行こうと思う。丁度、アサルトツリーの素材を募集するクエストがあったおかげで、生息地もわかっているからね。ここから西にある森だ。それほど大きくはないみたいだけど、植物系の魔物が群生しているらしく、あまり人気がないそうだ。


 植物系の魔物は見分けがつきにくく、狙った獲物を見つけるのが大変らしい。中には自力で移動できる種類もいるようで、休憩中も常に不意打ちを警戒しなくちゃいけないから、精神的にもきついとか。


 まあ、鑑定も結界もある僕にとってはどうってことないけどね。


 それと、受付のお姉さんが以前に頼んでおいた『剣術を教えてくれる人』と『炎魔法を教えてくれる人』が見つかったと教えてくれた。早速、明日から可能だと言うことなので、明日を剣術、明後日を炎魔法でお願いしようと思う。


 こんなに早く教えてくれる人が見つかると思ってなかったので、僕は気分よく街を出て西へと向かう。人の目がある間は歩いて向かっていたけど、人気がなくなったところで、短距離転移を繰り返しあっという間に目的の森に着いてしまった。


「さてと、探知系と鑑定を使って狩りまくるとするか」


 植物系の魔物は見分けづらいと言われているが、"生命探知"、"魔力探知"、"鑑定"を持つ僕には関係ない。早速森に入って手当たり次第、アサルトツリーを狩りまくる。


 ウインドカッターで枝を落とし、エアリアルブレイドで幹を切断していく。時々、気分転換にウォーターエッジなんかも使ったり。


 アサルトツリー自体はそれほど多くはないようだけど、鑑定で無駄なく狩れるから素材がどんどん集まっていく。

 そして楽しくなって調子に乗って狩ってたら、随分と森の奥まで来てしまった。そこで見つけたのはアサルトツリーの上位種、イビルツリーだった。


 イビルツリーはアサルトツリーより堅く、色も若干黒っぽい。それを見た瞬間、『値札に使うのはこれだ!』と思って速攻で狩っちゃいました。

 その後も、ターゲットをイビルツリーに変更し、かなりの量の素材を集めることができた。値札に使うには十分過ぎる量だ。


 目的の素材を集めた後は、クエストの対象となっている魔物を探し狩っていく。数時間狩ったところで、目的の素材が全て集まったので、冒険者ギルドに帰ることにした。ついでにレベルも40ほど上がったようだ。





「あわわ、この短時間で全部の魔物を倒して来たのですか!?」


 いくつか受けていたクエスト全ての討伐部位を提出すると、受付のお姉さんがえらく驚いていた。

 だがしかし、考えてみるとそれも当然か。僕は鑑定や探知、転移のおかげで目的の魔物を狩るスピードが尋常じゃ無いと思うし、移動時間もかからないし、魔物を探す時間もほとんどかからない。魔物を間違えることもないし、アイテムボックスのおかげで持ち運びも完璧だ。


 むしろ、必要な分しか納品していないからアイテムボックスにはまだまだ残ってるんだけどね。これは『万屋』の在庫にしよう。


「うむ」


 クールなキャラを忘れないように、短く答える僕。


「しょ、少々お待ちください」


 普通に受理されるかと思いきや、奥に引っ込んでしまった受付のお姉さん。どうしたのかと思い、待っていると一枚のカードを持って戻ってきた。


「お待たせしました、フォッグさん。ただいまの納品をもちまして、フォッグさんのランクがDランクに上がりました。こちらが新しいギルドカードになります。おめでとうございます。もちろんですが、最速のランクアップになります」


 どうやらランクがまた上がってしまったようだ。

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