第95話 ドラゴン族 全面戦争 ②
〈へぇ、俺のブレスを受けて無傷とは……誰が張ったのか知らんけど、なかなかの結界じゃないか。これは思ったよりも楽しめそうだな〉
ブレスが防がれてもアグニは特に慌てた様子もない。鋭く細められた目でこちらを睨みつけながら舌なめずりまでしている。
〈お主ら! まさかこの勝負で不意打ちを仕掛けてくるとは!〉
おお、我らがナギニさんはアグニの不意打ちにお冠のようだ。
〈ハハハ、まさか我らの命運を決める大事な決戦で不意打ちごときを卑怯とは言うまいな?〉
ナギニの怒声に何食わぬ顔で答えるクルド。ドラゴンの表情はわからないから何食わぬ顔っていうのは僕の想像だけど。
〈まあまあ、ナギニ落ち着いてよ。逆に向こうが先にやってくれてよかったでしょ。これで僕がやったことも卑怯だと言われないで済むし〉
ナギニが怒りで今にも飛び出しそうな気配だから、僕はナギニを落ち着かせるために会話に割って入った。
〈ん? どういうことだ?〉
僕の言った意味がわからなかったのか、クルドがそう問い返してきたが僕がそれに答える必要はなさそうだ。クルドのセリフが終わった直後に、彼の隣にいたドラゴンの首がずるりと落ちたから。
〈うぉ!? いつの間に攻撃しやがったんだ!? こいつだって雑魚とはいえ上位種だぞ。それを俺達に悟られず一撃か。クルドのおっさん大丈夫か?〉
どうやら僕が土埃に紛れて放った風魔法は気づかなかったようだ。それでもアグニは言うほど驚いても焦ってもいないようだ。ドラゴンの表情はよくわからないからあくまで僕の感覚の話だけど。
〈問題ない。我とお主がいれば誰が何人来ようが負けるはずがない。そうだろう?〉
〈ははは、確かにそうだな!〉
一方クルドの方も味方がやられたのにあまり気にしていないようだ。もともと二人で戦いに来たかのように落ち着いている。
〈むむむ、今のはミストがやったのか? 我は全く気がつかなかったぞ。ナギニは気がついていたか?〉
〈いや、我も少々驚いている。まさかドラゴンの上位種を魔法の一撃で倒すとは、味方であればなんと心強いことか〉
おっと、ヴォーラもナギニも気がついていなかったのか。所詮不意打ちだからもう通用しないとは思うけど、こんなに上手くいくんだったら攻撃対象をアグニにしておけばよかったか。
何て僕が軽く反省している間に戦闘が再開していた。
魔法では分が悪いと感じたのか、クルドとアグニが同時にナギニへと向かっていく。2頭で一気にナギニを倒しにかかる作戦か。だが、それを許すわけないだろう。僕はタイミングを見計らってアグニの前に結界を張った。
「グァブゥ!」
突如目の前に現れた結界に反応が遅れ、アグニが結界にぶつかり変な声を上げた。仲間の異変を察知したクルドだったが、時すでに遅し。すでにナギニの間合いに入っているので、むやみに逃げ出すことはできない。そんな絶妙なタイミングで結界を張ったのですよ、僕は。
さらに一呼吸遅れてヴォーラが参戦したことで、丁度ナギニとヴォーラでクルドを挟撃する形となった。
ナギニがこちらに顔を向ける。その目は『感謝する』と僕に伝えているようだった。ドラゴンの表情はわからないけど。
上手いこと二対一の状況を作り出した僕は孤立したアグニと向かい合う。
〈イテテ、油断したわ。そうだよな、ホーリードラゴンだもんなぁ、結界を持ってるか。しかし、俺の体当たりで割れない結界とは、お前なかなかやるなぁ〉
前足で器用に頭をさすりながら、アグニが言うほど慌てた様子もなく念話を送ってきた。僕のことは余裕で倒せるとでも思っているのだろう。まあ、あのステータスなら負けるとは思わないか。でも、世の中にはズメイみたいな規格外の存在や、そのズメイを倒してしまうような化け物がいるんだけどね。
予定外に僕と一対一になったアグニは、それでも余裕の態度を崩さず相対する。
ゴゥ!
先手を打ってきたのはアグニだ。魔法合戦では分が悪いと思ったのだろう、勢いよく接近してきて鋭利な爪がついた前足を振り下ろす。無論、素早さで勝る僕がそんな単純な攻撃を受けるわけがない。軽くバックステップで躱し、お返しにと身体を反転させ尻尾をアグニの顔面に打ち付けてやった。
ドゴォォン!
予想外の反撃だったのか、そもそも初撃が躱されると思っていなかったのか、僕の攻撃をまともに食らうアグニ。
〈ちょ、おま、おかしくないか!? 何で接近戦で俺と対等にやりあってんの? ホーリードラゴンって癒し系魔法特化の種族じゃねぇのかよ!?〉
僕の尻尾の一撃で少なからずダメージを受けたであろうアグニが、しかめっ面で念話を飛ばしてきた。もちろんドラゴンの表情など僕にはわからないが。
〈そう言われても……君が思ったよりも弱かったとか?〉
「グルルルゥゥゥ!」
僕の挑発にうなり声を上げるアグニ。念話を使うことすら忘れて怒っているようだ。そこからアグニの猛攻が始まった。噛みつき、ひっかき、尻尾攻撃。おっと、次はブレスを吐くようだ。確かアグニはフレアドラゴンだったな。ならば……
〈ウォーターウォール〉
僕は水魔法第4階位"ウォーターウォール"を唱える。アグニのブレスを受け止めれるだけの魔力を込めて。
ゴォォォォォ!!
アグニの口から吐き出された炎の奔流が、巨大な水の壁にぶち当たり大爆発を起こした。
しかし、その爆発もアグニのブレスも僕のウォーターウォールを突破するには至らなかったようだ。爆発の余波で飛び散った水がゲリラ豪雨のように降り注ぐ中、僕とアグニが見つめ合う。もうその顔には先ほどまでの余裕は見えない。ドラゴンの表情はわからないので、そんな気がするだけかもしれないが。
っと、その時、突然背中に衝撃を受け僕の身体がよろめいた。何とか前足を踏ん張り倒れることは阻止したのだが、その隙をアグニが逃すはずもなく飛びかかってきた。
満面の笑みを浮かべている……ように見えるアグニが、僕の顔めがけて前足を振り下ろす。その爪から首を捻って逃れようとしたが、躱しきれず首筋を引っかかれ血しぶきが舞い散った。
(痛い! っていうか今のはいったい?)
僕は首を切られた痛みで咄嗟に結界を張った。その判断は正しかったようで、追撃しようとしていたアグニの攻撃を防ぎ、距離を取ることができた。僕はアグニにから目を離さないようにしながら、背後の様子を確認する。先ほど背中に受けた衝撃の正体を確認するためだ。
僕はアグニと戦いながらもクルドの様子もきちんと把握していたはずなのに、そちらから何かが飛んできたのだ。だが、クルドはナギニとヴォーラ相手に苦戦している。とてもじゃないがこちらを攻撃してくる余裕などなさそうだ。
(ではなぜ?)
僕が不思議に思っているとヴォーラからの念話が届いた。
〈す、すまない……〉
おまえかーい! 何と背後からの攻撃の正体はヴォーラのブレスでした。そりゃ僕も味方の攻撃までには気をつけてなかったわ。まさかフレンドリーファイアーとは……
背後からの衝撃の謎が解けてすっきりした僕は、自身の傷をエクスヒールで癒やしアグニとの第二ラウンドを再開した。
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