第86話 vs 魔王 ① side オーロラ

 地底湖でレベル上げをした私達は、タイヨウさんのおかげで当初の予定であるレベル80を大きく超え、全員がレベル85まで上がっていたの。そして地底湖を後にした私達はその足でポートネシアの街へと移動し、そこから船に乗って魔王国デモナイズへと渡ったわ。


 魔王国デモナイズは一つの大きな島からできており、島の中央に魔王達が住む魔王城がある。その他に街や村は存在せず、地獄の門デビルズゲートと呼ばれる地下迷宮ダンジョンが一つあるだけ。


 私達は島の北端にある岩場からこっそり侵入し、そのまま中央の魔王城を目指したの。道中は鬱蒼と茂る森林地帯で、そこら中魔物が徘徊している危険な森ではあったけど、タイヨウさんをはじめ、レベルが上がった『英雄の剣』のメンバー達は苦もなく進んで行ったわ。


 数日かけて魔王城の近くまで到達した私達は、そこで一晩過ごし翌日の朝早くから魔王城の攻略へと乗り出す。魔王城の中は、低位の魔族やその手下である魔物達で溢れかえっていたけど、レベルを上げた私達の敵ではなく、魔王との一騎打ちを控えるタイヨウさんを、戦闘に参加させないように温存しながら進んでいったわ。


 そして数時間ほどかけて、美しくはあるけど禍々しい意匠が施された巨大な扉の前へとたどり着いたの。


「ここが魔王のいる王の間だ。よくここまでついてきてくれた。礼を言うぞ」


 魔王城を目前にタイヨウさんがみんなの前に立って頭を下げた。


「いやいや、まだ魔王を倒していないでしょ! もしかして、負けるかもしれないとか思ってない?」


 突然のタイヨウさんの行動にテオドールが突っ込みを入れている。


「いや、そういうわけではないのだが……」


 しどろもどろになるタイヨウさんに、みんなの顔に笑みがこぼれたわ。魔王を前にした緊張感がほどよくほぐれていく気がする。


「そうだな、魔王を倒すのは帝国のためであるから礼など必要ないが、魔王を倒した後に改めてみんなで喜びを分かち合うとしよう」


 『英雄の剣』の最年長であるジャックさんが上手くその場をまとめたところで、全員の目が巨大な扉へと向いた。


「では、行くとするか。作戦通り、俺はすぐ魔王と一騎打ちの状況を作る。四天王が何人残っているかわからないが、魔王以外をなんとか食い止めてくれ」


 全員がタイヨウさんの言葉に無言で頷く。そして、タイヨウさんが扉に手をかけると一気にその扉を開け放ち、奇襲を警戒しながら一気に部屋の中へと飛び込んだ。





「よく来たな、帝国の冒険者達よ」


 意外にも魔王からの奇襲はなく、全員が王の間へと流れ込み玉座に座る魔王と対峙する。魔王の両脇には四天王と思われる魔族が3人控えていた。


「四天王が一人足りない。どこかに隠れている可能性もあるが、この場にいないのであればずいぶん助かるな。それとすまない、どうやら"鑑定"は妨害されているようだ」


 魔王の布陣を見たタイヨウさんが、自分達の仲間にだけ聞こえるように呟いた。事前に得た情報によると、魔王の名は『ゼノス』、四天王は『破壊のラッシュ』、『幻夢のドリー』、『堅固のテクター』、『奇怪のエクセル』の4人らしいの。どうやらこの四天王の中で『奇怪のエクセル』だけがいないようね。そして、当初の作戦ではタイヨウさんが魔王達を"鑑定"し、ステータスを仲間達に伝えるはずだったのだけど、そちらは上手くいかなかったみたい。


 魔王ゼノスと奇怪のエクセルの能力はよくわかっていないけど、その他の四天王3人の能力はある程度知られている。


 破壊のラッシュは素早い動きと手数が多い格闘術を主体とした、物理攻撃を得意とする魔族ね。逆に幻夢のドリーは物理攻撃は苦手だけど、闇魔法、水魔法、風魔法を高いレベルで扱う魔道士タイプ。そして、堅固のテクターはその二つ名の通り、物理、魔法ともに高い防御力を誇り、生半可な攻撃では傷一つつかないという噂だわ。土魔法も扱うようだけど、攻撃力がそれほど高くないのが唯一の救いだと思う。


 タイヨウさんが魔王ゼノスと一騎打ちをするためには、『英雄の剣』と私、そして召喚獣であるスノウとスパークの6人と2匹で魔族を相手にしなくてはならない。もちろん数では勝っているけど、四天王の3人から放たれる圧は決してそれが簡単ではないことを物語っている。


「魔王ゼノスよ。聖国と手を組んで帝国に戦争を仕掛けたことを後悔させにきた」


「ふむ、我は聖国と手を組んだ覚えはないが……まあよいか。そちらにとっては同じことだからな。それよりも、我らに後悔させることなどできるのかな? 帝国の英雄タイヨウ・ミカド殿」


 聖国と手を組んではいない? タイヨウさんとゼノスの会話から聞き捨てならない言葉が聞こえてきたようだけど、今はそのことについて考えている場合ではないわ。二人は会話の中で殺気を膨らませ、それに同調するかのようにそれぞれの仲間の緊張感も高まっていく。


「はっ! 言ってくれるぜ魔族風情が! 後で泣きっ面かいても許してやらねえからな!」


「笑止! 泣き面をかくのはどちらになるかな? 今すぐ尻尾を巻いて帰るのであれば許してやらなくもないが?」


 魔王の挑発にタイヨウさんが剣を構えると、矢のように一直線に魔王に向かって飛び出した。


 事前にタイヨウさんが剣を構えたらすぐに飛び出すことを知っていた私達は、すぐその後に続いて四天王を抑えるべく動き出す。


 四天王の3人も魔王をかばおうと動き出したけど、一歩出遅れたため破壊のラッシュは同じ格闘家のジャックさんと召喚士のテオドールが、幻夢のドリーは狩人のアルマンディさんと魔術師のパールさんが、堅固のテクターは私とスノウで抑えることができたの。

 テオドールの召喚獣であるスパークは、万が一奇怪のエクセルが現れたときのために待機していて、その橫では治癒士のダリアさんがいつでも援護に入れるように準備している。


 そして、タイヨウさんは奇襲こそ魔王が手に持っている黒い槍に受け止められてしまったものの、予定通り魔王との一騎打ちに持ち込むことができたみたい。後は、タイヨウさんが魔王を倒すまで、私達が四天王を抑えることができれば私達の勝ちだわ。


 そして、帝国と魔王国の存続をかけた戦いが始まった。

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