第76話 エンヤの村

「そりゃあ!」


 ハヤトの振り抜いた剣が、リッチロードの核を破壊しその体を霧散させる。


 ここは地下迷宮ダンジョン『常世の闇』の地下51階層。今ハヤト達が倒したのは、Sランクのリッチロードが率いるA+ランクのエルダーリッチの群れだ。エルダーリッチのレベルは85~88、リッチロードに至っては91とかなりの高レベルとなっている。


「お、レベルが上がった!」


「私もです!」


 ここ『常世の闇』に入ってからおよそ一ヶ月。ハヤトとサヤカのレベルは順調に上がっていき、今の戦闘で91へと到達したようだ。どうやら今のリッチロードが『常世の闇』での最高レベルのようなので、いよいよここでのレベル上げも終了となる。


〈それじゃあ、レベル上げを終わらせて聖国へと向かおうか〉


 僕が念話でそう告げると、ハヤトとサヤカが改まって僕にお礼を言ってくれた。


 その顔は自信に溢れており、レベル上げ以上に得るものが大きかったようだ。そんな2人のステータスはというと……


種族 魔人族

名前 ハヤト・コバヤカワ

ランク  S

レベル 91

体力 830/830

魔力    435/435

攻撃力     797

防御力     649

魔法攻撃力 701

魔法防御力 633

敏捷      461


スキル

槍術   Lv23

身体強化 Lv21

鑑定   Lv24

雷魔法  Lv23

闇魔法  Lv22


称号

転生者

魔人の王子




種族 人族

名前 サヤカ・カミシロ

ランク  S

レベル 91

体力    561/561

魔力    975/975

攻撃力    327

防御力    542

魔法攻撃力 552

魔法防御力 930

敏捷     377


スキル

身体強化  Lv17

敵意察知  Lv24

聖魔法   Lv22

結界魔法  Lv23

生活魔法 Lv25

料理    Lv24


称号

転生者

聖女


 かなりいい感じに育ってきた。サヤカもこのステータスなら教皇を倒せそうだと息巻いている。


 サヤカのお墨付きももらったし、ここでこれ以上レベルを上げるとなると時間がかかるので、入り口目指して移動を開始した。入った当初は苦戦していたスケルトンキングを一蹴し、1階層を目指し猛烈な勢いで入り口を目指す。おかげで1ヶ月かけて到達した51階層だったが、帰りは1階層までたったの5日で到着してしまった。





「おぉ、久しぶりの外だ!」


 1ヶ月ぶりの陽の光にハヤトが眩しそうに目を細める。


「それでも、1ヶ月でこれだけレベルを上げられるとは思ってませんでしたわ。ミストさん、ありがとう!」


 地下迷宮ダンジョンの中よりも、幾分柔らかい表情に戻ったサヤカに改めてお礼を言われ、僕はちょっと照れてしまった。いや、普通に可愛いんだよね、サヤカさんは。


「それで、これからどうするんだ? すぐに聖国を目指すのかい?」


 そんな僕の心を知ってか知らずか、ハヤトが言葉を続ける。


〈うーん、とりあえず聖国へは向かうけど、地下迷宮ダンジョンでは野営ばっかりだったから、今日くらいはどこかの街か村で宿屋に泊まったらどうかな?〉


 ちなみに、3人での会話の時には両方に念話を送っている。そうじゃないと面倒くさいからね。


「それはありがたいですわ! いい加減私もお風呂に入りたいと思ってましたから!」


 僕の提案にサヤカがうれしそうな声を上げる。サヤカは生活魔法持ちだから、地下迷宮ダンジョンでもきれいにしていたけど、さすがに泊まれる宿があるなら彼らに野宿させるのもねぇ。僕はドラゴンだから気にならないけど……


「ここから聖国に向かう途中となれば……エンヤの村が丁度いいか」


 ハヤトが言うには、ここから聖国に向かう途中に丁度いい村があるらしい。真っ直ぐ向かうより少し逸れるけど、ほとんどロスなく向かえるそうだ。


〈じゃあ、そこで1泊して明日また聖国に向かうとしよう〉


「「了解!」」


 レベルが上がり移動速度も上がっている僕らは、木々がうっそうと茂る森の中をたった数時間で100km駆け抜け、特に道に迷うこともなくエンヤの村へと到着した。






「確かここがエンヤの村だったはずだが……」


 数時間走り通して、すっかり日も暮れかけてしまったところで目的地へと到着したのだが、どうも村の様子がおかしいようだ。なかなか立派に作られた木の柵に囲まれているのだが、村の中の明かりが少ないというか人気ひとけがないというか。


 一応、村の入り口には警備の者だろうか、木の柄に鉄の刃をつけた槍を持った青年が立っている。だが、ハヤトとサヤカが近づいても気づく気配がない。なんだか地面を見つめながらぶつぶつ呟いている。警備の者がこんな状態でこの村は大丈夫なのだろうか?


「おい、そこの人。すまないが、俺達を村に入れてもらえないだろうか?」


 フード付きのローブで身を隠したハヤトとサヤカが、声をかけながら近づく。日が暮れかけている状況も相まってその様相は限りなく怪しいのだが……


「おうっ!? あ、あぁ、すまないちょっと考え……」


 突然声をかけられたせいか、体をビクッとさせた青年はハヤトとサヤカの姿を見て、言葉も途中におびえたように後ずさる。


「あっ、すいません。わけ合って顔を隠しておりますが怪しい者ではございません。二人とも冒険者をやっておりますの」


 サヤカの声で小柄なローブの方が女性だと気がついたのだろう、おびえた表情が幾分和らいだ。さらに、ハヤトとサヤカが提示した冒険者カードを見てようやく安心できたようだ。もちろんこのカードは幻惑スキルを駆使した偽造だが、王都や帝都ならともかく、ここで見破られることはないだろう。


 そして、ふと顔を上げた青年と小さい体のまま、翼をパタパタと動かし宙に浮かんでいる僕の目が合う。


「ド、ドラゴンだ! 闇のドラゴンが来たぞぉぉぉ!」


 僕を見た青年は持っていた槍を放り投げ、一目散に村の中へと駆け込んでしまった。


(…………)


 突然の出来事にあっけにとられる二人と一匹。


「ミストって闇のドラゴンだったんだ」


 何やら冷たい目で僕を見つめてくるサヤカさん。ハヤトもなんだか呆れたような顔をしている。


〈全くの濡れ衣です! 僕は闇のドラゴンでもないし、この村に来たのも初めてです! 大体僕の真っ白な身体のどこが闇のドラゴンなんですか!?〉


「まあ、確かに闇のドラゴンって感じはしねぇが、この暗さじゃ真っ白かどうかなんてわからりゃしないからな。別のドラゴンと間違えたってところか?」


 確かにハヤトの言うとおり、日はすっかり落ちて辺りはすでに真っ暗なので見間違えるのも無理はないけど、わざわざ『闇のドラゴン』って言うくらいだから、この村に特定のドラゴンが関わってるってことなのだろう。しかも、一目散に逃げるってことはよくない方向で……


〈とりあえず、僕は村に入らない方が良さそうだから、近くに隠れてることにするよ。二人は村で闇のドラゴンについて調べてみてね。何かわかったら念話で教えてほしいな〉


「うーん、俺達だけで村に入るのは気が引けるが、あの反応を見るにそれが一番よさそうだな」


「何かわかったら、すぐにお伝えしますね」


 二人は僕だけ村の外ということに気が引けると言ってくれたが、どう考えても現状これがベストなので僕をおいて村に入ってもらった。


 僕は近くにあった大きな木の根元に結界を張って丸くなり、身体を休めながら二人からの連絡を待つことにした。

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