第72話 オーロラの旅立ち
昨晩より近況報告に載せました『side 魔王子ハヤト』の限定を解除しております。ハヤト&サヤカsideのお話に興味がありましたら、ご覧ください。
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~side オーロラ~
ミストの状況を理解し納得してお別れしたと思ったけど、感情はまた別物なのね。ミストがいなくなった寂しさから、何もやる気が起きずスノウに寄りかかりながらしばらくの間、ボーッとしていたの。
「何もやる気が起きないや……」
本来はすぐにテオドール達と合流し、囮活動を再開すべきだとわかってはいるのだけど、どう頑張ってもしばらくは動けそうにない。そんな気持ちを察してか、テオドール達も無理に私を誘うような事はしなかったことがありがたい。
お昼ご飯も食べずにスノウに寄りかかっていた時にそれは起こったわ。急にスノウが淡く光り始めたの。
「スノウ、何か光ってるよ?」
思わずスノウに話しかける私。当然、返事なんて来るはずがないと思っていたのに、突然それは来た。
〈どうやらミスト様が進化なさったようですね。そのお陰でミスト様の加護を持っているワタクシにもお裾分けが来たようです〉
脳内に響く声に戸惑っていると、さらに"念話"が続けられた。
〈そういえば、こうやって会話をするのは初めてでしたね。改めまして、ワタクシはスペリオルグリフォンのスノウでございます。ご主人様、今後ともよろしくお願いします〉
「よ、よろしくねスノウ。でも、どうして急にしゃべれるようになったの?」
私は突然のことに驚きつつも、スノウに聞いてみた。
〈どうやらミスト様の進化により加護が強化され、種族ランクがAに上がったみたいですわ。人族が言う魔物はAランクを超えると"念話"が使えるようになるのですよ〉
何と言うことでしょう。ミストがスノウに加護を与えていたというのも驚きだけど、進化によって加護が強化されるとか聞いたこともないわ。というか、加護を与えるなんて一体ミストは何者なの?
疑問が尽きないとは言え、スノウと会話できるようになったのは嬉しいことだわ。ミストがいなくなって寂しい思いをしてたけど、スノウに『ミスト様はますます強くなっていきます。ワタクシ達ももっと強くならなくては、次ミスト様に会ったときにがっかりされますよ』と言われ、気がついた。
そう、ミストは死んだわけではない。もっともっと強くなってまた私の前に現れるはず。その時のために、私ももっと強くなりたいという気持ちに。
気持ちを切り替えた私は、すぐに身支度を調えてテオドール達のところへと向かった。
「お、オーロラじゃないか? その……もう大丈夫なのか?」
「はい! ご心配をおかけしました。もう大丈夫です。私、もっと強くなりたいのです。よろしければまたご一緒させてください」
テオドール達『英雄の剣』は丁度、近くの森から帰ってきて冒険者ギルドの食堂でご飯を食べていた。私を見つけたテオドールが心配で声をかけてくれたので、もう大丈夫と返事をした。それから食事に混ぜてもらい、今後の活動について教えてもらったわ。
何でも、聖女が前線にいないことと魔人が絡んできていることを皇帝陛下に伝えたところ、タイヨウ・ミカドと一緒に魔王を討伐に行くように命令されたそうだ。聖女がいない聖国軍であればミカドがいなくても何とかなること、今のうちに魔王国デモナイズを叩き聖国を孤立させたいとのことだ。
ただ、肝心の魔王の強さがよくわかっていないから、テオドール達のレベルをしっかり上げてから臨むようね。具体的には、帝国からはるか南西にある港町ポートネシアを目指すみたい。魔王が住む島にある『魔王国デモナイズ』はそこから船で行くのが一番楽だから。ただし、このポートネシアは聖国領にあるので見つからないようにしなければならないみたいね。
しばらくはこのポートネシアを拠点にしつつ、ポートネシアのすぐ近くにある
『地底湖』はその名の通り、最終階層が地底湖になっている50階層からなる洞窟型の
出発は2日後と告げられたので、長旅に向けて必要な物を買いに行くことにした。携帯食料や野営道具、着替えなんかも買っておきたいかな。
そうそう、荷物が多くなりそうだからスノウにも少し持ってもらおうと、革細工屋さんでスノウの首にくくりつけるタイプのリュックを作ってもらうことにした。既存のリュックの持ち手の部分を変えるだけなので、明日にはできるそうだ。間に合いそうでよかった。
次の日、リュックを取りに行ってから少し帝都を歩き回った。それほど長い期間過ごしたわけではないけど、しばらく離れるとなると少し寂しく感じるのはなぜだろう。
結構忙しかったせいか、帝都を見て回る時間もなかったから、『こんなところに、こんなお店があったんだ』という発見があって面白かった。
食料品を扱うお店にやたらと猫の置物が置いてあったのが気になったけど……。そういえば、孤児院にも置いてあったのを思い出した。この猫の置物がミストに似ている気がするのは気のせいだろうか。
1日街を散策した私は、休学扱いということで使わせてもらっていた宿舎に戻った。ここも明日で引き払うことにしたので、女将さんに挨拶をしに行った。
『またいつでも戻っておいで』と言ってもらったときに、ちょっと泣きそうになったのは内緒の話。
翌朝、宿舎を後にした私は『英雄の剣』のみんなと合流し、S級冒険者のタイヨウ・ミカドとの待ち合わせ場所へと向かう。
ここから私達の長い旅が始まったのだけど、この後、衝撃の展開が待っているとはまだ知るよしもなかった。
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