第67話 魔王子と聖女
本日2話目です。ご注意ください。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
オーロラが『英雄の剣』に加わってから1ヶ月が経った。帝国と聖国の戦争は徐々に熱を帯びていき、ついに先日お互いの本隊が帝国と聖国の間にあるアストラル大平原で接敵したようだ。
帝国軍には2つの部隊が存在する。帝国騎士団と帝国魔術団だ。
帝国騎士団は第1部隊から第5部隊まであり、数字が小さいほど強いとされている。
帝国魔術団は、攻撃魔法部隊、補助魔法部隊、召喚魔法部隊がある。攻撃魔法部隊は一団として行動するが、補助魔法部隊はいくつもの小さな隊に分かれ、他の隊の補助に当たる。
一方、召喚魔法部隊は戦争で通用するほどに魔法スキルを高めている者はそれほど多くなく、ましてや高ランクの魔物を召喚している者に至っては数えるほどしかいない。ゆえに召喚魔法部隊は数十人しか在籍していない。
しかし、部隊長のミルドの召喚獣であるブラッドワイバーンをはじめ、強力な魔物を従える召喚魔法部隊はたった数十人でも、騎士団の第1部隊に勝るとも劣らない戦力を有している。テオドールも第3皇子でなければこの部隊に属していただろう。
そして、この帝国軍全部隊をまとめるのが、第2皇子のダライアス・クリフォードだ。帝国でも武闘派として名高いダライアスは、軍略にも通じており今回の大戦で帝国軍を勝利に導いてくれると期待されている。
さらに今回の戦争には、あのSランク冒険者であるタイヨウ・ミカドも参戦するという。ダライアスが大金を積んで依頼したらしく、彼以外にも帝国に所属する多くの冒険者が祖国のためにと参加を決めたようだ。
一方、聖国側は教皇の息子であり右腕でもある、イーヴァン・グレゴリーが全軍を率いている他は、まだ何もわかっていない。おそらく神下十二部隊を中心とした軍であることは間違いないだろうが、聖女が参戦しているのか、数ある暗殺集団がどういった動きをしているのかは掴めていない。
個の能力としては頭ひとつ抜きん出ているタイヨウ・ミカドだが、相手の出方がわからない以上、慎重に行動せざるを得ないようだ。
特に聖女は強力な結界魔法と回復魔法を使うらしい。彼女の結界はタイヨウと言えども、そう簡単には破壊できないそうだ。さらに怪我人も簡単に回復してしまうので、聖女がいるといないのでは継戦能力に大きな差が出るのだ。
万が一、聖女が前線にいるのであれば消耗をできるだけ抑えて、隙を見て一気に叩く他ない。そのせいで、接敵した後もこう着状態が続き、大きな戦闘へは発展していないようだ。
その間、帝都周辺の森を警戒していた『英雄の剣』だが、一度だけ聖国の暗殺集団を発見し撃退した。おそらく、帝都にいる皇帝、もしくは第1皇子を狙ったものと思われるが、それほど腕が立つわけではなかったため、誰ひとり犠牲を出すことなく撃退できた。
だが、聖国がこのこう着状態を利用し、裏で暗殺集団を動かしてきていることが明らかになったので、それ以来、テオドール達はさらに警戒を強めていたのだが……
そんな中で、突然木の影から現れた2人組は、予想の遥か上をいくとんでもない人物だった。
「おいおい、ほんまにこんなところに第3皇子がおるんやな!」
「だから言ったじゃないですか、私の部下は優秀だって」
軽口を叩きながら出てきたのは、人の姿形をしているが頭には捻れた2本の角、眼は赤く背中にはコウモリのような翼が生えており、背後には細い尻尾がゆらゆらと揺れている男だった。『英雄の剣』の斥候役であるアルマンディですら気がついておらず、せっかくの不意打ちのチャンスだったのに、わざわざおしゃべりしながら出てくるとは、よっぽど自信があるらしい。
(この姿は、あの真っ白な空間で種族を選ぶ時に見たことがある。確か、魔人だったはず)
その魔人の軽口に答えたのは、とてもじゃないが森の中を歩いてきたとは思えないほどキレイな白いローブに身を包んだ。黒目、黒髪の女の子だった。
(こっちの女の子はもしかして……うん、"鑑定"してみればはっきりするか)
僕はまず魔人の男を鑑定する。
種族 魔人族
名前 ハヤト・コバヤカワ
ランク S
レベル 79
体力 470/470
魔力 435/435
攻撃力 437
防御力 349
魔法攻撃力 401
魔法防御力 393
敏捷 341
スキル
槍術 Lv20
身体強化 Lv18
鑑定 Lv21
雷魔法 Lv20
闇魔法 Lv19
称号
転生者
魔人の王子
(おお!? こいつも転生者だったのか!? しかも魔人に転生しているなんて! 羨ましい! しかし、こいつが転生者って事は、やっぱりこっちの女の子も……)
種族 人族
名前 サヤカ・カミシロ
ランク S
レベル 78
体力 366/366
魔力 520/520
攻撃力 197
防御力 282
魔法攻撃力 357
魔法防御力 475
敏捷 247
スキル
身体強化 Lv14
敵意察知 Lv21
聖魔法 Lv19
結界魔法 Lv20
生活魔法 Lv22
料理 Lv21
称号
転生者
聖女
(やっぱり転生者だったか……しかも、レベルが80近いときたもんだ。まあ、ステータスは僕の方が圧倒的に高いし、スキルも僕の方が多いからどうとでもなりそうだけど。しかし、初めて会った同郷が敵国とは。同じ日本人っぽいし、何で戦争なんかに加担しているのかわからないけど、話し合いでなんとかならないかな……)
元日本人なら、人をたくさん殺すような戦争なんて忌避しそうなもんだけど、この2人はそんな感覚もなくなってしまったのかな?
「な、なぜ魔人がこんなところに!? しかも、隣の君はせ、聖女のサヤカ!?」
突如現れた2人組に動揺したテオドールは、戦闘態勢をとるのも忘れて驚きの声を上げた。って言うか、やっぱり聖女は有名なんだ。
「気をつけて、テオドール! あの魔人もただの魔人じゃないわ! 魔王子よ!」
おっと、治癒士のダリヤさんからの追加情報だ。どうやらハヤトという魔人も二つ名を持っているらしい。それにしても、2人とも二つ名を呼ばれたのに平然としているな。僕だったら恥ずかしくて普通になんかしてられないぞ。
「ほう、俺のことを知ってるとは……そっちの姉ちゃんは教会の関係者か?」
二つ名を紹介されたハヤトがニヤリと笑う。
ふむ、教会の関係者が何を意味するのかわからないけど、その教会と魔人は敵対しているのか……あるいは協力関係にあるのか……
どちらにせよ、この2人相手では英雄の剣だけではきつそうだな。最悪、僕がなんとかするしかなさそうだ。
「魔王子と聖女か。なかなかにきつい相手だな……」
ジャックが珍しく愚痴をこぼしながら、それでも戦闘体制に入る。だが、目の前の2人のプレッシャーのせいか、顔色は良くない。
ジャックが戦闘体制に入ったところで、他のメンバーも覚悟を決めたようだ。それぞれが自分達の武器を構えて、2人を睨みつける。
「サヤカ、逃げられないようにいつものよろしく!」
テオドール達が戦闘体制に入ったのを嬉しそうに眺めながら、ハヤトがサヤカに何かをお願いした。
「ふん、もうとっくに張っているわ!」
なるほど、言われて初めて気がついた。サヤカを中心に半径200mほどの結界が辺りを覆っている。おそらくこの結界は外部からの攻撃を防ぐためではなく、この場から誰も逃げ出さないようにするためのものなのだろう。もっとも僕以外のみんなは気がついていないようだが……
これほどの大規模な結界を維持しつつ、自身にも結界を張っているのは、さすがに聖女といったところだろう。しかし、ハヤトには結界がかかっていないところを見ると、サヤカが同時に発動できる結界は、2枚が限界なのだろう。であれば、なんとかなりそうだ。
お互いの準備が整ったところで、静かに戦闘が始まった。初手を撃ったのは、アルマンディの弓だ。
素早く放たれた矢がサヤカに一直線に向かったが、あえなく結界に阻まれ、地面に落ちた。
それが合図になったかのように、ハヤトの蹂躙劇が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます