第65話 パーティー『英雄の剣』

 オーロラが待ち合わせの場所に行くと、そこにはすでにテオドールが待っていた。彼の周りにいる4人の冒険者が彼のパーティーメンバーなのだろうか。オーロラはテオドールと一緒にいる冒険者を失礼にならないように観察しながら、彼らの元へと歩いて行った。


「やあ、オーロラ。よく来てくれた。紹介するよ、これが余のパーティーメンバーだ」


 テオドールが紹介したのは、白いたてがみが印象的な獅子の獣人ジャック。格闘術を使う格闘士で、カンフー使いが着るような白い道着を羽織っている。胸元は大きくはだけており、その奥に見える筋肉はまるで分厚いタイヤのように弾力がありそうだ。下半身は高級そうな布のハーフパンツを履いており、そこから伸びる脚はオーロラの胴回りと同じくらいあるのではなかろうか。

 次に紹介されたのは、パールという名の魔道士の女性だ。黒のとんがり帽子に黒のローブ。これぞ魔術師といった出で立ちで、帽子から溢れる髪は明るい茶色で、目がぱっちり大きい美人さんだ。

 さらにその横に立つのはパールと対照的に白いローブに身を包んだ大人しそうな女性だ。名前はダリアといい、見た目通りの治癒士だそうだ。肩まで流れるきれいな金髪に笑うと糸のように細くなる目が、いかにも優しそうな雰囲気を醸し出している。

 最後に紹介されたのは、アルマンディというスラッと背の高いイケメンで、耳の先が尖っている。本人の自己紹介によるとハーフエルフだそうで、緑を基調とした革の鎧を身につけており、背には大きな弓を背負っている。


(とりあえず鑑定しておくか)


種族 獣人族(獅子)

名前 ジャック

ランク  B

レベル 63

体力    408/408

魔力    167/167

攻撃力    371

防御力    299

魔法攻撃力 163

魔法防御力 275

敏捷     285


スキル

格闘術  Lv15

身体強化 Lv15

闘気   Lv10

瞑想   Lv5



種族 人族

名前 パール

ランク  B

レベル 59

体力    216/216

魔力    349/349

攻撃力    168

防御力    187

魔法攻撃力 324

魔法防御力 336

敏捷     229


スキル

水魔法  Lv13

土魔法  Lv10

生活魔法 Lv12

魔力制御 Lv7



種族 人族

名前 ダリア

ランク  B

レベル 59

体力    275/275

魔力    284/284

攻撃力    189

防御力    231

魔法攻撃力 177

魔法防御力 390

敏捷     207


スキル

聖魔法  Lv12

結界魔法 Lv8

棍術   Lv6



種族 ハーフエルフ

名前 アルマンディ

ランク  B

レベル 64

体力    306/306

魔力    452/452

攻撃力    276

防御力    245

魔法攻撃力 341

魔法防御力 392

敏捷     319


スキル

風魔法  Lv13

弓術   Lv14

身体強化 Lv6

気配察知 Lv12

罠解除  Lv10



 4人ともBランクでレベルは60前後だ。そしてテオドールはというと……


種族 人族

名前 テオドール・クリフォード

ランク  B

レベル 53

体力    332/332

魔力    117/117

攻撃力    226

防御力    213

魔法攻撃力 110

魔法防御力 206

敏捷     231


スキル

召喚魔法  Lv13


 ちなみにテオドールの召喚獣であるドレイクのステータスはと言うと――――


種族 ドレイク

名前 スパーク

ランク B

レベル 55 

体力   330/330

魔力   85/85

攻撃力 255

防御力 223

魔法攻撃力 213

魔法防御力 208

敏捷    247


スキル

飛翔      Lv13

咆哮    Lv10

ブレス(炎)Lv11

炎耐性 Lv9


 4人の紹介を終えると、今度はオーロラが自己紹介をする。オーロラ自身はまだまだレベルが低いので恐縮しっぱなしではあるが、スノウがいるのでこの中でも最高戦力であることは間違いない。


種族 人族

名前 オーロラ

ランク  C

レベル 38

体力   154/154

魔力     190/190

攻撃力    114

防御力    117

魔法攻撃力 153

魔法防御力 191

敏捷     80


スキル

召喚魔法 Lv15

棒術 Lv8

聖魔法 Lv7


(称号)

(ミストの加護)


 そのスノウは2週間でレベルが1つしか上がっていない。やはりレベルは高くなるにつれ上がりにくくなっているようだ。


種族名 スペリオルグリフォン

名前 スノウ

ランク A-

レベル  67 

体力    365/365

魔力    387/387

攻撃力   377

防御力   271

魔法攻撃力 402

魔法防御力 413

敏捷    280


スキル

咆哮    Lv13

飛翔    Lv14

麻痺の魔眼 Lv13

敵意察知  Lv14

風魔法   Lv16

炎魔法   Lv14

風耐性   Lv16

炎耐性   Lv14

土耐性   Lv13

毒耐性   Lv11

混乱耐性  Lv11

麻痺耐性  Lv12


(称号)

(ミストの加護)


 さて、お互いの自己紹介が終わったところで、早速一緒に魔物を倒しに行くようだ。すぐにでもオーロラ……というよりスノウの実力を確かめたいのだろう。もしかしたら、僕達が思っているより戦争が近いのかもしれない。


 今回は帝都の西にある『古代樹の森』に行くことになった。そこは森の奥深くに古代樹と呼ばれる木が生えており、通常の木より遙かに堅くそして軽いその木は、装備品や生活道具のよい素材になっている。ただ、そこまでたどり着くにはBランクを超える魔物達を倒していかなければならない。故に古代樹の素材は常に不足しており、希少価値が高い。Bランクパーティーの実力を確かめるのには最適な場所だそうだ。




 古代樹の森は帝都から歩いて2日ほどの距離にある。途中野営をしながら向かったが、テオドールをリーダーとした英雄の剣は仲がよく、オーロラもすぐに打ち解けることができていた。しかし、サミュエルの裏切りによって今、テオドールはこのパーティーメンバーですら信用できなくなってしまっている状態だ。なんと悲しいことだろうか。


 "鑑定"の結果では怪しい人物はいないようだが、こればっかりは確実に大丈夫とは言えない。僕にできるのは彼らが裏切り者でないことを祈ることと、何かあった時にテオドールを守ってあげることくらいか。


 そんなことを考えつつ移動すること2日間、テオドール一行は古代樹の森へと到着した。


「さて、ここからはスノウも交えて連携の確認をしていこうか」


 古代樹の森を前に誰に言うでもなく発したテオドールの一声で、拳闘士のジャックは身体の前で手甲を打ち鳴らし、ハーフエルフのアルマンディは弦を弾く。魔術師のパールは杖を両手で握りしめ、治癒士のダリアは静かに微笑んでいる。


「さて、余も準備するとしよう。来い! 余の僕にして相棒であるスパークよ!」


 テオドールの呼びかけに答えるように、ドレイクのスパークが現れた。それを見たオーロラもスノウを呼び寄せる。


「おいで、スノウ!」


 オーロラの召喚によって現れたスノウを見て、ジャックが『ヒュー』と口笛を吹いた。他のメンバーも、表情には出さないがスノウの存在感に圧倒されているようにも見える。


「よし、ここからはアルマンディが先頭で、その後ろにジャック、ダリア、オーロラ、パール、余の順で進むとしよう。スパークは空からの偵察で、スノウは……オーロラの横でよいか?」


 テオドールの指示に従い、隊列を組んだメンバーが古代樹の森へと入っていく。Bランクの魔物が住む古代樹の森ではあるが、入ったばかりの浅いところにはそれほど強い魔物はいない。時折、何かを見つけたアルマンディが弓を射ることがあるが、どれも一撃で倒せる程度の魔物のようで特に魔石を取りに行くこともない。


 しばらくはアルマンディとジャックに任せておいて大丈夫だと判断したのか、後ろを歩くパールがオーロラに話しかけてきた。


「ねえねえ、その肩に乗ってる黒猫ちゃんも、オーロラちゃんの召喚獣なの?」


 足下の草の丈が長いため身体が隠れてしまうので、森に入ってからオーロラの肩に乗っかっていた僕を指差し聞いてくる。


「はい! 私が最初に召喚したのがこのミストなんです!」


 最近はスノウばかり目立っているせいか、オーロラは僕に興味を持ってくれたパールに嬉しそうにそう答えた。


「小さくてかわいいなー! でもずっと肩に乗ってて重くないの?」


 パールが僕の頭を撫でながら小首をかしげる。


「あー、実は不思議と全然重くないんですよね」


 オーロラも一緒になって僕の身体を撫でてくれるので、あまりの気持ちよさに自分を軽くする重力魔法が切れないように注意するのが大変だ。


「へー、そうなんだ。あたしも抱っこしたいな~」


 物欲しそうな目で僕を見つめるパール。


「ふふ、ダメですよ! かわいいのは否定しませんが、ミストは私にしか懐きませんから!」


 うん、そんなことはないんだけど、僕は空気の読める男なので、ここはぐっと我慢だね。2人の前を歩いているダリアも、真っ直ぐ前をみて歩いているように見えて、こちらの会話を気にしているようだ。すごく大人っぽい見た目だけど、意外と会話に混ざりたいのかもしれないね。




 古代樹の森に入ってから2時間ほど経過したところで、一度休憩を取った。どうやらこの辺りから強い魔物が現れ始めるらしい。ここからは全員で戦うことになるようだ。スパークも空から降りてきている。この先はこれまで以上に背の高い木が生い茂っており、空からの索敵が困難になるからだ。


 休憩を終えて歩くこと数十分、早速、Bランクの魔物と遭遇した。


「テオドール、50m先に地竜が3体だ。どうする?」


 アルマンディが言う地竜とは、竜がつくがドラゴンではなく、ワイバーンのような亜竜の仲間だ。動きは鈍重で空も飛べないしブレスも吐かないが、体力はBランクの魔物の中でも1,2を争うくらい高く、強靱な顎や鋭い爪から繰り出される攻撃も侮れない。反面、魔法には弱く、特に弱点属性である風属性の魔法が使えれば優位に戦闘を行うことができるだろう。

 

「スパークとスノウで1体ずつ押さえている間に、余とジャックで残りの1体を倒すとしよう。アルマンディとパールは苦戦しているところがあれば援護を、ただし土魔法には耐性があるから水魔法で。ダリアは結界の準備を頼む。アルマンディは周囲の警戒も忘れないでくれ」


 テオドールの指示を受け、素早く動き出す英雄の剣のメンバー達。さすがはBランクのパーティーだけある。その動きは洗練されており、いくつもの修羅場をくぐってきた様子が窺える。


 オーロラはスノウに指示を出した後、聖魔法の準備を始めた。ダリアが結界魔法の準備をしているので、回復は自分の役割だと感じているのかもしれない。テオドールもその様子を見て頷いているから、オーロラの判断は正しかったようだ。


「いくぞ!」


 テオドールの掛け声とともに、3体固まっている地竜の左側をスパークが、右側をスノウが、正面をテオドールとジャックが請け負うようだ。


 スパークは森の中ということもあり、炎のブレスは使わないようだ。木々が邪魔になって飛ぶことも難しいため、走って向かい素早く前足を振るう。

 素早さに劣る地竜はその攻撃を躱しきれずに、右肩辺りに傷を負ったが致命傷にはほど遠く、怒り狂った咆哮を上げながらスパークへと突進していった。それを上手に躱しながら、スパークは徐々に地竜を引き離していく。


 真ん中にいた地竜はテオドールとジャックが向かってくるのを見て、身体を低く構えた。そこへ1本の矢が飛来する。アルマンディが援護に放った矢だ。彼が放った矢は狙い違わず眉間に突き刺さった。


 突然の痛みに叫び声を上げる地竜の元に、先にたどり着いたジャックが右フックを放つ。何かしらの格闘術のスキルを使った攻撃なのだろう、ジャックの何倍も体重がありそうな地竜が一瞬浮かび上がった。


 そこへテオドールが飛び込み、片手剣を横なぎに一閃する。3人の見事な連携でかなりのダメージを与えたようだが、そこは相手もBランクの魔物。どれも致命傷には至らず、地面に落ちた地竜は怒りに満ちた目で、自分に傷をつけた者達を睨みつけていた。


 右側にいた地竜へは、スノウが牽制のために風魔法第5階位のエアカッターを放った。他の地竜を巻き込まないように、あえて1つにしたのだろう。


 今回は3体の地竜を引き離して戦う作戦なので、わざと足は狙わず尻尾を狙ったようだ。風魔法に弱い地竜の尻尾はあっさりと根元から切断され、ぼとりと落ちた。


 その様子に援護のため地竜から離れた位置にいた3人が息を呑む。まさか第5階位の魔法1発であの太い尻尾が切断されるとは思っていなかったのだろう。


 尻尾を切られ怒りのままスノウに突進していった地竜だったが、スノウが次に放った風魔法第4階位のエアショットで眉間に穴が開いて絶命した。


 地竜を上手く引きつけて一対一に持ち込んだスパークは、そこからは少々苦戦を強いられていた。敏捷で勝るスパークだが、地竜の攻撃力を考えると迂闊に近づくことができずに、攻撃方法は自ずとヒット&アウェイとなってしまう。そうなると、深い傷を負わせることができず、浅い傷ならば持ち前の再生能力で治してしまう地竜相手に決定打を欠いている状態だ。


 もちろん、スパークの役割は地竜1体の足止めであり、テオドールとジャックが真ん中の地竜を倒すまで時間を稼げばよいのだが、そうは言っても倒せるものならば倒してしまった方がいいに決まっている。召喚獣として主に助けられるより、助ける立場に立ちたいのだよ。たぶん。


 だが今回は主よりも先に助っ人が来てしまったようだ。スノウが放ったエアカッターが、スパークと対峙していた地竜の四肢を切断してしまった。さすがの地竜も失った四肢までは再生できないようだ。芋虫のようにもがく事しかできない地竜は、スパークの前足によって頭を潰され物言わぬ骸となった。

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