第34話 レベル上げ再開
誘拐犯を全て気絶させた僕は、天井に向かってサンダーランスを放った。天井に衝突したサンダーランスは、轟音とともに屋根を吹き飛ばす。これだけ派手な音を立てれば、衛兵か子ども達を探す冒険者がやってくるだろう。
その間に子ども達が入れられた袋の縛り紐を、鋭い爪で切っていく。中に詰め込まれていた子ども達は、3人とも泣きながら出てきた。それはそうだろう、誘拐犯に連れ去られ袋に詰め込まれれば、大人だって泣いてしまうかもしれない。
しかし、泣きながら出てきた子ども達は、自分達を捕まえた誘拐犯が揃いも揃って床でおねんねしている様子に、びっくりして涙が止まってしまったようだ。
さらにその中の1人の女の子が僕の姿を見つけるや否や、満面の笑みで駆け寄って来た。
「ねこしゃんだ!」
4歳くらいの見た目に相応しく、舌ったらずな言葉を発しながら、小さな手で僕を抱き上げようと必死になっている。
その様子を見た残りの男の子と女の子も、誘拐された恐怖は何処へやら、一緒になって僕を持ち上げようと頑張り始めた。
そんな状態が数分続いたところで、エリック達と衛兵達が騒ぎを聞きつけ一緒に現れた。
僕はエリック達に見つかる前に、子ども達の手をすり抜け暗闇へと姿を隠す。別に隠れる必要はなかったんだけど、何となく目立つのが嫌だったのでそんな態度を取ってしまった。
エリック達は子ども達の無事を確認した後、孤児院の方へと去っていき、衛兵達は意識を失って転がっている誘拐犯どもを縛り上げ、どこかへと担いでいった。
その様子を建物の陰から見送った僕も、ボロ小屋へと帰ることにした。
翌朝、事の顛末を確認するために冒険者ギルドへと向うことにした。
ギルドの朝は慌ただしい。クエストは基本的に早い者勝ちだからだ。いいクエストを手に入れるために、真面目な冒険者達の朝は早いのだ。
その喧騒に紛れてギルドへの侵入を果たす。
僕はこっそりギルドの中に入って、受付カウンターの陰に座る。最近の僕の定位置だ。するとすぐにカウンター内から職員の話し声が聞こえてきた。その話によると、あの後子ども達はギルドに迎えに来た家族に引き取られ無事に家に帰ったそうだ。よかったよかった。
それを確認した僕は、次に孤児院へ行ってみることにした。
孤児院に着くと、昨日誘拐されていた女の子がシスターと一緒にお祈りをしているところだった。その祭壇には女神様の像の横に、なぜか猫の像が置かれている。少し前まではあんな物などなかったはずなのに。どうしたんだろう。
エイミーと呼ばれていた女の子はお祈りを終えた後、猫の像の頭をなでながらにへらっと笑っている。もしかしなくても、僕に助けられたことを理解しているのだろう。
何はともあれ、女の子が無事でよかった。
その後、人が出払った隙にいつもの寄付を置いてからいったんぼろ屋へと戻る。この後のことを考えるためだ。
僕は王都での気ままな猫生活も十分満喫したから、そろそろ次の進化に向けたレベル上げを再開しようと思っている。そのためにはもう一度、
お昼前に王都を出たのに、夜中にはもう
真夜中だったこともあり、真っ黒な身体に気配遮断と魔力遮断のスキルを使った僕は、驚くほどあっさり
Cランクとなった今、どのくらいのレベルで進化できるのかは定かではないけど、おそらく60~70くらいだと思う。前回は30階層でファントムタイガーを倒した後戻って来たので、今回はさらに奥まで目指そうと思う。
常に気配遮断と魔力遮断を使っているので初撃ほとんど全てが不意打ちになる。攻撃力もすでに400を超えている上に、さらに僕には称号の"暗殺者"がある。不意打ちに攻撃力と命中力上昇の補正があるこの称号は、今の僕にぴったりの効果と言える。レベルが上がっていることもあって、30階層までほとんど全ての敵を一撃で葬り去ることができた。
しかし、ここから先はAランク以上の魔物が現れる。気配遮断が効かない敵も出てくるだろう。僕は慎重に30階層へと足を踏み入れた。
30階層で僕を1番最初に出迎えてくれたのは、まだ僕が黄金のカブトムシだったときに苦戦を強いられたファントムタイガーだった。
さすがにA+ランクの魔物だけあって、僕の存在にすぐに気がついたようだ。スキルに探知系がなくても、強者になると気配を察知する能力でもあるのだろうか。特に彼らは自分のテリトリーというか、ある一定の距離に近づくと見つかる気がする。
っと、そんな考察をしている場合ではないか。ファントムタイガーはゆっくりとその姿を消していく。スキル透明化の効果だ。前回は敏捷や攻撃力で劣っていたので、透明化させないように戦ったが、僕はここまで来るのにレベルが38まで上がっており、全てのステータスで上回っている。ファントムタイガーに全力を出させて、さらにその上を行かせて貰おう。
ファントムタイガーは透明化だけではなく、隠密も使い音もなく移動している。だが、いくら姿を消したところで、僕の高レベルの生命探知、魔力探知さらには敵意察知がその姿を明確に捉えているのだ。
回り込むように迫ってくるファントムタイガーは、僕の右背後で巨大な爪を振り上げている。この爪で何人の冒険者を葬ってきたのだろうか・・・あっ、ここまでたどり着いた冒険者は1パーティーしかいないんだった。ってことは、このファントムタイガーは他の魔物でも倒しているのだろうか。いやいや、
何て余計なことを考えつつも、僕はファントムタイガーの爪を左にステップして躱す。必殺の一撃を躱されたファントムタイガーの動揺が伝わってくるのは、僕の敵意察知のレベルが高いからだろうか。
床に着地したファントムタイガーがこちらを振り向くスピードより速く、僕はファントムタイガーの背後へと回り込んだ。今度は僕を見失ったファントムタイガーの困惑と恐怖が伝わってくる。
片や5mを超える巨大な虎。片や30cmほどの黒い猫。端から見たら、小さな猫が巨大な虎を圧倒する信じられないような光景が見られることだろう……うん、虎は透明化してました。これじゃあ、信じられないような光景は見えませんね。
僕は僕を見失っているファントムタイガーに背後から飛びかかり、正確にその首筋に爪を立てた。
「ギャウゥゥ!」
首から血を流すファントムタイガーは僕の方を睨みながらも、その重心は後ろにある。
(さては、逃げ出す気だな)
A+ランクの強者だからといって、どんな敵にも立ち向かうわけではない。むしろ、強いからこそ相手の強さにも敏感で、生き残るためなら平気で逃げ出したりするのだろう。死んでしまったらそれ以上強くなれないからね。
その考えは勉強になるなと思いつつ、それでも僕はファントムタイガーを逃がす気はない。何せ、仕掛けてきたのは向こうからだからね。
僕はファントムタイガーの背後に数十本のサンダーランスを浮かべる。
バッと振り向き逃げだそうとしたファントムタイガーの顔が絶望に染まった……気がした。
(いけ!)
驚き動きが固まったファントムタイガーに迫る数十本の雷の槍。その一本ですら、彼を絶命させるのに十分だろう。そんな雷の槍が数十本ぶつけられたファントムタイガーは、完全に炭化し、そこに残っていたのはかつてファントムタイガーだった灰の塊だった。
(うん、魔石しか残ってないね……)
完全なオーバーキルだったようだ。
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