第18話 始まりの迷宮
~side 子ども達~
オレ達が村に着いた時、大人達は大騒ぎしていた。どうやら、オレ達がいなくなったのがバレたらしく、みんなで探していたようだ。
村人の1人が森から帰ってきたオレ達を見つけ、駆け寄ってきたが、なぜかすぐに逃げ出した。原因は手に持っているおどろおどろしいクモの足だったようだ。
それでもすぐに他の大人達が集まってきて、『ケガはないか』とか『どこに行ってたんだ』とか聞かれた。オレのかーちゃんがきて抱きしめられた時は、ちょっと恥ずかしかったな。でも、あの時になって、自分が死んでいたかもしれないと冷静に考えたら怖くなってちょっぴり泣いちゃったのは、他のヤツらには内緒だ。
一通り無事が確認されたら、次は村の中でお説教祭りだった。オレ達はとーちゃん、かーちゃんはもちろん、村長さんやエリックの兄ちゃん達にまでしこたま怒られた。まあ、オレ達が悪いんだから仕方ないけど……
説教祭りが終わった後は、オレ達4人ともぐったりしていたが、ポイズンスパイダー足の話になった途端息を吹き返したように元気になった。なにせエリックの兄ちゃんの話によると、ポイズンスパイダーはEランクの魔物で、エリック兄ちゃん達のパーティでも勝てない相手だそうだ。
その足というか軽くて丈夫な爪に価値があるらしくて、少なくも一本銀貨5枚で買取してもらえるそうだ。それが8本あるということは銀貨40枚。4人で分けても銀貨10枚。つまり大銀貨1枚分だ。オレのおこづかいは1ヶ月で銅貨5枚だから、20ヶ月分のおこづかいと同じだけの価値があるのだ。
ただ、この村には冒険者ギルドなんてないから、エリック兄ちゃん達がその場で買い取ってくれて、ウェーベルの街で売ってくれることになった。大銀貨を4枚もポンっと出せるなんて、冒険者って儲かるんだな。
オレ達は思わぬ大金に、怒られたばかりだというのに大はしゃぎしてしまった。特にヘレナとマリーは『これで他の女どもと差をつけれる』とかなんとか、悪い笑顔で呟いていた。
最後にオレ達を助けてくれたと思われる銀色のカブトムシの話をしたんだけど、大人達は誰も信じてくれなかった。しかたがないから、今朝、カブトムシがいつもとまってる木に大人達を連れていったんだけど、今日に限ってカブトムシはいなかった。
だから大人達には信じてもらえなかったけど、それはそれでいいと思う。オレ達4人だけの秘密ということで。
これがオレ達4人の一生忘れられない冒険の話だ。
~~~
僕は子ども達を助けた後、念の為にいつもとは違う木にとまっていた。子ども達の様子から僕のことを話している可能性が高いと思っていたからだ。
案の定、次の日子ども達は大人達をぞろぞろと連れて現れた。近くの木にとまっていた僕はその様子を見つからないように眺めている。僕がいつもの場所にいないことに慌てた子ども達が、一生懸命身振り手振りで大人達に説明し始めた。だが、やっぱり大人達は子ども達の言うことは信じていないようだった。僕も目立ちたくはないからそれでいいと思う。
それから、村人達とエリックの会話からエリック達のパーティーが近々拠点としている街に帰ることがわかった。どうやら村の周辺の魔物達がいなくなったかららしい。元々、フォレストウルフを中心とした魔物達を退治しにきたのだろう。だが、僕が全部狩り尽くしてしまったため仕事がなくなってしまったようだ。心の中で謝っておこう。ごめんなさい。
彼らは2日後に出発するようなので、僕もこっそりと後をつけさせてもらうことにした。この村で集められる情報はもうなさそうだし、そろそろレベル上げも再開しないと思っていたから丁度よかった。
そして2日後……
「あー、どういう訳かフォレストウルフも狩られてたし、他の魔物もぜんっぜん見当たらないから俺達はウェーベルに戻ることにするわ」
冒険者のエリックが村の入り口で、村長っぽい老人にそんな話をしているのが聞こえてきた。今一度、心の中で謝っておこう。ごめんなさい。
「ふむ、確かに村周辺の魔物はめっきり減ったようじゃから、問題なかろう。じゃが、また魔物が増えたら依頼を出すから頼んだぞ」
エリックの会話の相手は、やはり依頼を出した村長さんのようだ。
エリックは村長の申し出を笑顔で引き受け、仲間とともに村を後にする。
彼らは村を出た後、街道を西に向かって歩き始めた。まだまだ冒険者としてはそれほど稼いでいないのか、エリック達は馬車などはなく徒歩で野宿をしながら街を目指していく。
街道と言っても決して安全な道ではないようで、道中もかなり警戒して歩いているようだし、野宿するときも必ず見張りを立てている。ただ、その見張りがうつらうつらしてしまっているのが、彼らの冒険者ランクの低さを現しているのかもしれない。とりあえず、彼らに死なれても寝覚めが悪いので、夜中に近づいてくる魔物は僕が倒しておいた。
そんな旅を1週間ほど続けて、ようやくウェーベルの街とやらが見えてきた。この世界の街と街の間は中々に距離が離れているようだ。しかし隠れて様子を見ているとはいえ、1週間も一緒に旅をしていると、最後の方は彼らが仲間のように思えてきてしまっていた。いつか本当の仲間とともに旅をしてみたいものだと思ってしまうくらいに。
そんな感傷に浸りつつ、エリック達に心の中でお別れを言い、一足先に街の方と飛んでいった。もちろん街には入れないので、周辺で拠点に出来そうな場所を探すために。
ウェーベルの街はマイラの村とは比べものにならないくらい大きな街だった。街の周りは5m程の高さの土の壁で囲まれており、その土壁が視界の限り続いている。
鑑定で見てみると、土魔法で作られていることがわかった。いったいどれだけの人員と時間とお金が必要だったのか想像も出来ない。エリック達の会話からそれなりに大きな街だとは思っていたが、これは予想以上だな。一通り街の周りを飛んでみたが、それだけで数時間ほどかかってしまうくらいの大きさだ。
円形の街は北側が森になっており、その先に洞窟の入り口のような穴が存在する。そこには2人の衛兵が槍を持って立っており、中に入る人をチェックしているように見えた。その入り口の周りには露店のような建物がいくつもあり、商売が行われているようだ。森の中とは思えないほど活気に満ちあふれているこの場所はいったい何なのだ?
近くの木にとまり聞き耳を立てていると、この洞窟は
ただし、その魔物が
特にここの
この
(それであれほど大きな街になっているというわけか)
僕はこの『始まりの迷宮』とウェーベルの間の森を拠点とすることに決めた。ここで少し情報を集めながら、隙を見て
なぜなら、
僕はウェーベルと
ウェーベル北の森に拠点を構えてから、5日間ほど情報収集に努め、ようやく中の情報が集まった。後は、衛兵達の隙を突いて入り込むだけなのだが、中々その機会はやってこなかった。そして、さらに2日経ったある日、ついにそのチャンスがやってきたのだった。
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