第8話 俺の魔法は一発芸、学園生活は地獄ルートなようです
美人校長先生のバトルの末、決定したルビナーツ学園の入学。
バトルがあったその日から、俺は学園敷地内にある教員のマンションへ一時的に引っ越し。
だが、試験を受けるだけですぐに帰ろうと思っていた俺は、荷物は最小限。
そのため、気軽な転移が可能な姉さんに、俺の荷物を持ってきてもらった。
どうやら姉曰く、俺のアメリカ行きがバレて、じいちゃんはレイジモード。
怒りのあまり、一つの倉を跡形もなく壊してしまったらしい。
強いとはいえ、姉さんに危険が及ぶ。
心配になった俺は姉さんも学園に来ないか誘ったが。
「うん! 私も
「うむ。私たちはいつでも愛衣の入学を待っているとも」
「ありがとう! 先生! ま、そういうわけだから! 先に界は1人で学園生活楽しんでおいで! あ、もしかしたら、じいちゃんがここに来るかもしれないから、悪いけれどその時は先生に任せる! チャオっ!」
と言って、満面の笑みで颯爽と帰っていた。
――――そして、俺が渡米して数日後。
姉さんのいう通り、転移魔法が使えないであろうじいちゃんたちが、眉間にしわを寄せまくって、遠路はるばる俺を連れ戻そうとアメリカに、ルビナーツ学園にやってきた。
彼らは何の許可を得ることもなく、マンションに勝手に入り込み、俺の部屋に侵入。
逃げる場所もなく、かといって逃げたところで捕まることが分かっていた俺は、大人しくじいちゃんが連れてきた従者たちに連行されていると。
「お久しぶりです、阿賀都様」
いつの間にか来ていた美女先生こと、グラディス・スクウェイア校長。
彼女はじいちゃんの名前を呼び、丁寧に頭を下げていた。
「鳴海家ご当主様が、我が学園に無断で侵入とは一体何事で?」
「わしに許可を得ることもなく、勝手な行動を取ったこの小僧を叱り、連れ戻そうとしているだけじゃが?」
ギリッと細い目のじいちゃんに、不気味なほど穏やかな微笑みを浮かべる先生。
その2人の間には火花が散っていた。
鳴海家に姉の家庭教師として一時的に来ていた先生とじいちゃんには当然面識はある。
その時の2人は仲が悪いということもなかった。
でも、今の2人は戦い始めそうなぐらいな雰囲気を醸し出している。
他の生徒もいるこんな場所で、この2人の戦いはマズい。非常にマズい。
姉さんの時ほどではないが、巻き込まれる人間は100人は超える――。
だが、そんな俺の心配は杞憂だったようで。
教授にして、校長となったグラディス先生は、毅然として態度で、でも笑顔は絶やさず、一旦落ち着いて話をしようと提案。
その後じいちゃんたちを応接室へと連れていった。
俺も同席しようと思ったが、先生に「君はいいよ。私1人でするから」と言われ、俺は蚊帳の外。廊下に出された。
先生がなんとかしてくれるとはいえ、話の中心は自分のこと。
当然木になる俺は、廊下で耳をたてて、じいちゃんたちの会話を聞き取ろうとした。
でも、全く聞こえない。
盗聴妨害魔法を張られているみたいだな………。
そうして、廊下で待つこと1時間後。
出てきたじいちゃんたちは不服そうに俺を一瞥するだけで、連れて行こうとはせず、何も言わずに帰っていった。
これはじいちゃんが入学をOKしてくれたってことか?
え。でも、どうやって………。
「君のおじいさんは、入学を許可してくれたよ」
と後から部屋を出てきた先生に言われた。
あの頑固なじいちゃんに許可をもらうって、一体何を言ったんだ?
じいちゃんを納得させた方法について、先生に教えてくれと懇願したが。
「それは秘密だ」
先生はいたずらな笑みで、口元に人差し指で押さえるだけ。
その仕草は妖艶さたっぷり。
問い詰めても答えてくれはしないだろうと感じ、俺はそれ以上聞きはしなかった。
そうして、じいちゃんたちに学園の入学を認められた俺は、手続きを済ませ、清拭に男子寮へと引っ越した。
いきなりの1人暮らしで、不安はあった。
だが、各国の料理が揃えられメニューが豊富な食堂に、香ばしいコーヒーの香りが広がるカフェ。
一度入っただけで迷子になってしまいそうなぐらい広く、多くの書物を所蔵している学園の図書館。
加えて、自室には最新の洗濯機や、日本にいた頃は出会わなかったフカフカのベット。
そんな手厚い待遇に、すぐに不安はなくなっていた。
★★★★★★★★
「アハハ!!!」
時は過ぎて9月。
オリエンテーション中の教室に響くその甲高い笑い声。
「嘘でしょぉw この変な魔法しか使えないのww アハハww」
ただ魔法を披露しただけだった。
先生に言われた通りに魔法を使っただけだった。
「アハハ!!!!」
なのに、隣の空色髪の美少女に爆笑され、先生には呆れられている。
笑われることは分かっていた。
おかしい魔法だというのは最初から知っていた。
俺にだって、初めは『スベル』に期待なんてなかった。
でも、入学式の間にルビナーツ学園に来て俺の魔法特訓を見ていた姉さんが。
「『スベル』って何かありそうよね。もっとこう……隠れたスキルがありそうな予感……」
とこぼしていた。
姉さんの直観は百発百中。
それを知っていた俺は、少しであるもの『スベル』に期待していた。
――――――――でも、実際は?
見た全員が笑って、美少女も爆笑させてしまうほど、一発芸な魔法。
攻撃としては全く使えないその魔法。
えっと? グラディス先生?
俺の魔法について申し送りとかしなかったんすか?
せめて担任ぐらいには説明しましょうよ?
俺の魔法は1つしかないって、その魔法はしょうもない魔法いうぐらいは伝達しておいてくださいよ。
心中、あの美女校長を恨みながら、教室中に響くその笑い声に、ため息をつく。
「こんな落ちこぼれ、よくここに受かったな! あははっ!」
ふと振り返ると、後ろ上の席に座る茶色の短髪少年が、豪快に口を開けて笑いながら、俺を見下し。
隣に座る金髪美女も口元を扇子で覆って、くすくすと笑っていた。
………………ああ。
姉さん、俺の学園生活は初日から地獄ルートに一直線なような気がするよ。
まぁ、それでも
………笑われているだけの地獄なら、あの頃よりもずっといいだろう。
そう言い聞かせながら、俺は肘に顎を乗せ、教室に響く笑い声を聞き流していた。
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