絶対脱出出来そうにない謎のダンジョンで助けを求めて絶賛配信中~ダンジョン内でありとあらゆるチート能力と道具を手に入れたのにマジで手持無沙汰~

小路 燦

一章 お願いだから誰か助けてください

第1話 まずは状況把握から始めたいと思う

 床が冷たい。冷たいというか、温もりというものが一つも感じられなかった。

 俺をクビにした上司でさえ、もうちょっと温かみはあったような気がするぞ。

 そして何よりも固い。クソッ、あの上司の頭程じゃないが相当の固さだよこれは。

 ここから導き出される答えは一つ。俺はベッドではなく地面に倒れている。

 その最たる証拠として、口の中に土が入ってきていてとっても苦いんだ。


「――俺は仰向けで寝てた筈だろ!? 何でうつ伏せになってんだ!! 許せん!!」


 そう言いながら俺は跳び起きた。寝相の良さにはそれなりの自信がある方だ。

 ペッと口の中に不法侵入してきた土を吐き出し、辺りを見渡した。

 知らない天井が~、とかの次元ではない。ベッドも無ければ部屋ですらない。


「……ドッキリ?」


 会社を辞めてから配信者を細々やっていたからまずはその可能性を疑う。

 ふと思った。そもそもコラボする相手なんていないし、登録者数三桁じゃんって。

 つまり壮大なドッキリという線は消えた。いや、お願いだから消えないでくれ。

 何もかも分からないことばかり。5W1Hの全てが不明ということだけが分かる。


「ってことは漠然と考えてもしゃーないか。ワンチャン家の近くかもしれないし」


 取っ掛かりが無いのなら考えるだけ無駄。思考が無意味なら身体を使う。

 幸い拘束などされていないし、五体満足。持ち物は無いが元気は有り余っている。

 広い空間には多少の灯りがあり、取り敢えずはそこをくまなく探索してみよう。


「……? 奥の方に何かある……?」


 そもそも来た方向が分からないから奥かどうかも不明だが、空間の行き止まりの方。

 そこには何やら石碑のようなものと共に、一冊の本が置かれていた。

 石碑に彫られた文字は全く読めなかったので、折角だからと本を手に取ってみた。


「ははっ、読めん!! 日本語で頼――」


 と言いかけた瞬間に、本から光が溢れ出し俺の身体を包み込んだ。

 うおっ眩し、とか思ったその時には既に光は収まっていて次に目を開けたら。


「……は? 読める、読めるぞ……!?」


 どこぞの大佐のようなセリフを言ってしまったが、急に文字を読めるようになった。

 文字自体が変わった訳ではない。理由は分からないが、唐突に文字を理解出来て。

 そして、その本の冒頭にはこう書かれていた。


おめでとうございます!! 様々な困難を乗り越え、このダンジョンの最奥まで辿り着いた貴方様には報酬として、スキル【無限の夢幻】を贈呈いたします』


 読んだ瞬間に頭の中に情報が流れ込んでくる。刹那の間に形容出来ない程の何かを感じ。


「ステータス、オープン?」


 おもむろにそう呟くと、目の前には自分のステータスが細かに可視化され。

 そこには数字の類は一切なく、全ての項目には『∞』の文字が刻まれていた。


「う、うわぁ……これは喜ぶより先にドン引きする……」


 元来そのようなRPGは好きだったのでその概念は知っている。だからちょっと引いた。

 努力無しに多大なる力を得た者の末路など一つ、何か大きなしっぺ返しがあるのが相場。

 ダンジョン踏破の報酬、と本には書いてあった。そしてここは最奥であるとも。

 何か嫌な予感がするな、とその本の先をペラペラ捲っていたら。


『――なお、お帰りになられる際は。他のあらゆる脱出方法はブロックされますのでご注意ください。万が一紛失等なさられていた場合、徒歩での自力帰宅のみとなります』

「は?」


 そんなもん持ってないよ、そもそも入り口から入った記憶が無いんだよ俺は。

 気付いたらここにいたんだよ、ここまでの道中なんて一つも知らないんだよ俺は。

 無限の力を手に入れたところで、ここで使えなかったら何の意味もないと思うよ俺は。


「誰かぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 助けてくださぁぁぁぁぁぁぁぁいッ!!」


 そんな俺の慟哭を聞く者は無し。広い空間に悲し気な声が空しく反響するだけ。

 気付いたら最難関ダンジョンの最奥にいました。どうすればここを脱出出来ますか?


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