人柱(女性ひとり読み)

Danzig

第1話


人柱に選ばれた娘、

そこへ愛しい男が訪ねてくる。

旅の服装と荷物を持つ男

今から一緒に逃げようと打ち明けられる




ダメよ。


逃げるなんて出来ないわ

私は人柱になる運命(さだめ)なの

そう決まってしまったの・・・・



もし私が逃げ出してしまったら

私のお父様や、お母様も、この村には居られなくなってしまう


それに、私一人だけが助かれば、それでいいなんて思えない

だって、私がいなくなれば、他の娘が人柱に・・・・



とても、そんな事はできない・・・

私の命で村が救えるなら、私・・・・



私が人柱の巫女に選ばれた時から

もう私の命は、私一人のものではなくなってしまったの


だから、逃げるなんて出来ないのよ



私が人柱に選ばれた時、最初はとても悲しかった

どれだけ泣いたか分からないわ・・・・


でも、泣き続けて、それでもう私の涙は枯れ果ててしまったの

今は、もう何とも思わない・・・・



だから、あなたも私の事を悲しまなくてもいいのよ。



ね、だからあなたも・・・



(落ち込む顔の男)

(それを気遣う娘)


はは

今日が最後になるんだから、何か楽しい話をしましょうよ。


(男を見つめ直す娘)


私、あなたと会えてよかったと思ってるの



だから、今まで幸せだったわよ私。



私ね、ずっと憧れてた事があるの


それはね・・・・



私、あなたのお嫁さんになるの


そして、二人で一緒に暮らすの


子供を産んで、歳をとって、孫も生まれて、大きな家族になるの


陽だまりの中で二人で孫の顔をみるなんて素敵じゃない?



春には、川のほとりにある、あの大きな桜の木の下で、あなたと一緒にご飯を食べたり


夏には二人であの山に登って星を見たり・・・



ほら、あそこの沢って蛍がいるでしょ?


でも私ね、誰も知らない場所を知ってるのよ。

とっても綺麗なの


そこにあなたと一緒に行ってね、それで・・・



あれ?


可笑しいな・・・ハハ・・・涙が・・・・


もう涙なんか出てこないはずなのに・・・・


ぬぐっても、ぬぐっても・・・


あれ・・・どうしてだろう・・・・



困っちゃったな・・・


あなたの・・・あなたの顔が涙でよく見えない


あなたの顔、もう見られなくなっちゃうのに


今日が最後なのに・・・・


これが・・・こんなのが最後だなんて

私ってホントに肝心な時にダメね



(しばし沈黙する二人)



お願い、もっとこっちにきて


あなたの顔をよく見せて・・・



(男の顔を確かめるように撫でていく娘)



最後に一つだけ、お願いがあるの・・・・



私の事、忘れないでね


私はあなたの胸の中でずっと生きていられるって・・・・


そう信じていたいの



それが今の私の唯一の願いなの



我侭言って・・・ごめんなさい・・・・


(抱き合う二人)



あぁ・・・



さようなら

さようなら・・・・

ありがとう・・・・




大好きよ




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