9-4 例の「はあはあ」タイム
「ところで、どうやって俺達を案内するんだ、ルシファー。空からしか近づけないんだろ」
まさかの大魔王登場に頭が混乱していたが、とりあえずそんなのは後で考えればいい。まずはお宝が課題だ。
「大丈夫よ、エヴァンス様。私やグウィネスが、飛べないおともだちを抱えて運ぶから」
「俺、重いぞ」
「平気よ」
笑顔で俺の目を見つめてくる。赤い瞳は、限りなく澄んでいる。まるで最上級のルビーだ。
「そうやっておともだちと旅行すること、空を飛べる子なら普通によくある話だし」
「ならまあいいけど、俺ひとりじゃないぞ」
考えた。アンリエッタとリアン、バステトは連れていく。地下型モンスターのみんなとは、ここで一度お別れだな。後でまた、ここ寺小屋で会えばいいし。それと……ネコマタのコマは同行したがるに決まってる。バステト同様、俺の「ヒトまたたび」愛好家だからな。
「あと……四人、俺を入れて五人かな、多分」
「そうねエヴァンス様。今ここで飛べる子は、私にグウィネス、それにグリフォンのイグルーがいるわ。だから合計三人は運べる」
「あとふたりか……」
「エヴァンスくん、ひとり忘れていませんか」
ソラス先生の眼鏡が輝いた。
「先生はウエアオウル。空を飛べますよ」
それもそうか。ふくろうは夜行性とはいえ、猛禽類だ。ふくろう男は鳥人モンスターなんだから、飛べるのも当然と言える。
「他に飛べる子は今……ここには居ませんね」
ソラスは溜息をついた。
「エヴァンスくん、今回の宝箱探索人数は、四人に絞って下さい」
「仕方ない……か」
「それならあたし……残念だけれど今回はお留守番にします。だってアンリエッタちゃんとバステトちゃん、それにリアンちゃんは、古くからのエヴァンスくんのお友達だし。優先してあげて……」
そうは言うが、コマは悲しげだ。
「穴掘り道中の間、エヴァンスくんは毎日くんくんさせてくれたよね。時間を掛けて。だからあたし、我慢できるもん。……す、少しの間なら」
瞳に涙が溜まっていた。今にも落涙しそうなくらい。
「すぐ戻ってくるよ、コマ」
元気づけるように、バステトがコマに寄り添った。
「そうだ。お詫びの
いや。誰がお前の俺だ。
「本当?」
コマの瞳が、ぱあっと明るくなった。
「ああ。一時間やる。存分にくんくんし――」
「エヴァンスくーんっ」
聞き終わる前に、コマが俺に飛びついてきた。勢いで、柔らかな草に押し倒される。俺のシャツをむしり取ると、自分も上半身裸になった。
「こうすると、すっごく気持ちいいし……」
熱い吐息で言い訳のように口にすると、胴に腕を回してくる。そのまま首筋や脇をくんくんし始めた。
始まったか……。
俺はわかっていた。こうなるとコマだろうがバステトだろうが、当分解放してくれないと。まあ……本人も裸になったのは初めてだけど。多分、しばらく会えなくなるから限界まであれこれしたかったんだろう。
仕方ないんで、裸の背中を撫でてやった。胸と胸が重なっているが、それは仕方ない。それに……こういう触れ合い、何度か経験してきたしな、俺も。アンリエッタが胸を触らせてくれたり、リアンやバステトが裸の胸に抱え込んでくれたり。まああれと同じだ。
「へえーっ。エヴァンスって、本当に胸が平らなんだね」
「硬そうだわ。それに……胸の先も小さい」
「ぽちっとしていて、かわいいわ」
「奇妙な体だのう……」
俺……というか男の裸を初めて見る娘は、コマにはあはあされる俺を、興味深げに覗き込んでくる。恥ずかしいけど、もういいや。この世界では、俺はどうせ晒し者だ。
「先生も、『おとこのこ』の体は初めて見ました」
ソラス先生の眼鏡が輝いた。
「これは興味深いものですね。しっかり覚えなくては……」
遠慮なしにじろじろあちこち見てくる。
「皆さん、今度のテストにここは出します。覚えておきましょうね」
「はーい、先生」
いやどんなテストだよ。
「エヴァンスくんの体、少しだけ触ってもいいですか。その……覚えるために」
「いいですよ」
いや勝手にソラスが許可出してるんだが。
「せっかくだから先生も撫でておきましょう。これは試験のためですからね。あくまでも試験の」
言うやいなや、しゃがみ込んでナデナデしてくる。
「べ、別に撫でたいわけじゃないもん」
急に子供っぽい口調になった。
「生徒の皆さんも、コマちゃんの邪魔をしないように撫でること」
てかあちこちから手が出てきて、俺の体触られまくってるんだけど。よく知ってるはずのサラマンダーのニュートやリアンまで参戦してるし。バステトは我慢してるみたいだな。多分……コマに筋を通してるんだろう。
なんか体中やたらにくすぐったい。脚とか顔とかも撫でられてるし。コマの奴、くんくんだけじゃ物足りないのか、俺の首筋に唇を這わせ、猫舌で舐めてるし。さすがに「呪いの装備」がある下半身に触ってくる奴だけはひとりもいなかったから、助かった。
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