第258話 理屈の上ではそうだけど

【『錬金術』を捨てるって…『錬金術師』を引退するという事でしょうか?】

「引退です? 別に今のところそんな予定は無いですよ? ただ捨てるだけです」

【そんな心底不思議そうな眼で見つめられましても】


『錬金術師』が『錬金術』を捨てる。この発言だけを聞くとまごう事なき引退宣言である。しかも『錬金術』を単なる趣味活の1つと言い切る蒼唯であれば、と言うか一般の人であっても『錬金術』を続けると身体が崩壊するので引退しますは至極真っ当な発言である。

 しかし蒼唯としては『錬金術』を用いたハンドメイド活動を止めるつもりは毛頭無いため、何故リリスがそんな勘違いをしたのか不思議がる。


「うーんです。あ、捨てるって言葉で誤解させたです? 安心しろです。捨てた『錬金術』スキルは…そうですね、ぬいたちの『食トレ』の餌にでも再利用するです」

「ぬいぬ!?」

「まく~!?」

【エスディージーズに配慮してない事を杞憂している訳ではありませんが。ほら、流石のぬい様方も驚いてらっしゃ…あ、よだれ】


 ぬいとまっくよも流石に主人のスキルを食べるのは抵抗があるだろうと、味方に付けようとしたリリスであるが、ぬいたちの口から溢れるよだれを見て味方はいないと再確認する。


【と、と言うか『錬金術』を捨てるのに、『錬金術師』を止めるつもりは無いというのはどういう事でしょうか?】

「どういうって…あれです。手動です」

【手動っ! スキルの補正無しで『錬金術』を使うと仰ってるのですか!? 無謀過ぎますでしょうそれは!】

「大丈夫です。昔、ミシンが壊れちゃった時に、手縫いを頑張ってたら、近所のお婆ちゃんたちから、アオイちゃんは、ミシンみたく上手ねって誉められたことあるです!」

【そんなほっこりエピソード引き合いに出されましても!】


 何故か関係ない話をどや顔で語り出す蒼唯にリリスのツッコミが追い付かない。

 確かにスキルが無いからと言ってそれが使えないという道理は無い。剣術系のスキルが保有しないが剣を使う探索者はそれなりにいるのも事実である。スキルが無くとも剣は振れる。理屈の上ではそうであろう。

 しかし、これが『錬金術』においても同じ理屈が通じるのかは甚だ疑問である。


 そんな不安を抱いたリリスは必死に止める。

 『錬金術師』を引退するのであれば良かった。もう『錬金術』を使わず普通のハンドメイド作家として生きていくのであれば、『錬金術』を捨てて綺麗サッパリと言うのは分かる。

 しかしそうでないのであれば、『錬金術』を捨てる行為はあり得ない、とリリスの常識が叫んでいた。


 しかしである。それは所詮、リリスの中での常識であった。


「まあ、リリスの言うことも分かるです。スキルの正確さと速さには敵わないかもしれんです。でも『錬金術』にも欠点はあるです」

【はい?】

「『錬金術』って杓子定規なんです。スキル任せで造ると自由度が無いと言うかです、スキルの想定外の製作は補正してくれないせいで邪魔な時があるです」

【じゃ、邪魔!?】


 スキルを邪魔だと感じた事は無かったリリスは、呆気に取られる。

 

【で、ではこれまでもスキル無しで製作をしたことが?】

「手動始めたのも最近ですし、完全手動ではねーですね。でも可愛いモノ製作の時とかは、使わない方がスムーズな部分もあるです」

【あり得ない。確かに蒼唯様が造るとモノだけ、他の『錬金術師』と比べて、やけにバラエティーに富みすぎているとは思っていましたが…】

「そうです? あ、だから麗花とかに『錬金術』のやり方を説明しても伝わらなかったです?」

【ど、どうでしょうか? まあ確かにスキル無し手動の感覚をスキル有自動に伝えても伝わらないかたは思われますが…】


 とは言え蒼唯の説明が伝わらない理由の大部分は、説明文の重要部分が悉くギューやポーンなどの擬音満載である点だとは思うが。


 と話が逸れてしまったが結局のところ、蒼唯的に魂と肉体の問題の解決策でこれ以上の案は無い。

 とは言え蒼唯もリリスの反応を見て少し考えを改める。


「まあ、リリスの心配も分かったです。確かに『錬金術』も大量生産とか品質一定化には…よし捨てようです!」

【あぁ、スキルがある一番のメリットが、蒼唯様からすれば消耗品等の可愛くないモノを沢山造れるというデメリットであるとお気づきになられてしまった】

「と言うのは2割冗談です。まあ捨てちゃって後で必要になった時に困るのは理解したです。なので保管しとくです」

【8割は本気なのですね…】

「と言う訳でごめんですけど、『食トレ』の餌って話は無しです」

「ぬいぬい」

「まく~」


 『錬金術』スキルを食べられずに落ち込む素振りを見せるぬいとまっくよであったが、2匹としても自分たちを造り出してくれたスキルが保管されると聞き内心ほっとするのであった。


「あ、でもこれを機に『ブルーアルケミスト』で消耗品系の商品の販売を正式に止めて貰うよう頼もうです」

【現在は休止中ですからね。柊様や世間が驚愕する様子が目に浮かびますよ】



 後日、『ブルーアルケミスト』のお知らせ欄に記載されたメッセージは、リリスの予想通り世界中を震撼させることになる。


『齋藤蒼唯から送られてきたメッセージを全文掲載させていただきます。「『錬金術』スキル失くなったから消耗品の販売は止めさせて貰うです」』







☆☆☆☆☆


 『強欲』によって『錬金術』を奪われた蒼唯は言葉を発する


「あ、ちょうど邪魔だなって思ってたとこだったです。ありがとうです」


 蒼唯は戦闘しないだろ、七つの大罪に手を出すと最低でも七エピソード必要だ…等々、様々な観点からボツにしたネタ

 

 

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