第206話 サポートの実感
ぬいたちからお願いされた蒼唯は柊に連絡をして、『ブルーアルケミスト』の販売を殆ど中止してもらった。
とは言え『ブルーアルケミスト』は、消耗品の製作を嫌う蒼唯の意向から、ポーション類などのダンジョン探索に必須の消耗品類はあまり販売していないため、販売を中止して即座に探索者たちが困窮する事態には陥らず、直接的な影響は少ない。
しかし、あの世界的な英雄である『蒼の錬金術師』が、探索者業界と距離を取ったというニュースが与える影響は凄まじい。
このニュースが流れる直前まで蒼唯の可愛いモノ造りを消極的にでも批判していた世論は一斉に掌をひっくり返し始め、この問題を引き起こした最初の発言者であるコメンテーターたちを批判し出すのであった。
そんな世間の情勢などに興味のない蒼唯は、いつも通り、趣味活に勤しむ日々を送っていた。とは言え、これまでの日常から『ブルーアルケミスト』に費やす時間が増えた影響は少なからずあった。
「まだこんな時間ですか。適当に造って出品してたですけどやっぱり、『ダンジョンショップ』の時より明らかに製作数が多かったですね」
「まく~?」
「リリスとかが家事をやってくれてるってのもあるですけど、普通に縫い物を終えてもまだまだ時間が余ってるなんて久しぶりです」
「ぬいー」
『ブルーアルケミスト』のアイテムを用意していた時間が空いた結果、時間が有り余ってしまうことに気が付いた蒼唯。
そこまで時間を使っている感覚は無かったが、制作者1人でのネット販売。しかも世界中から注目されるサイトでの事だ。逆に1人で回せていたこと自体凄いことである。
「…折角まとまった時間が取れそうですし、どうせなら有意義な事をやりたいです」
「ぬいぬい!?」
「まあ、ぬいたちと一緒に遊ぶのも有意義な時間の過ごし方ですけど、それはこれまでの生活でも確保してたです。それとは別にって話です」
「まくま~く?」
「だから睡眠時間も同じです。逆にまっくよのお陰で、昼間とか眠くならないですから余計に時間が余るです!」
【確かに私も、まっくよ様の睡眠サポートのお陰で、眠気でボーとする時間等は無くなりましたね】
『ブルーアルケミスト』を1人で回せていたのは、『ダンジョンショップ』時代には無かった、リリスの生活面でのサポートと、まっくよの睡眠面でのサポートによる時間の捻出が大きいのであろう。
それを時間を余らせてしまっている現状から知ることになった蒼唯。
一応、『ダンジョンショップ』時代からの顧客や、七海等の『ブルーアルケミスト』で獲得した熱心な顧客には、オーダーメイドでの依頼を受ける旨のメッセージは送っている。
しかし蒼唯を利己的に使おうとした結果のボイコット宣言が出されている現状で、図々しくも注文依頼を出せるような図太い神経の顧客はいなかった。
そのため暫くは、このように時間が余ることが予想される。そのため蒼唯はこの時間をどのように過ごすか考えていたのであった。
「ぬいやまっくよを造ったときみたく、構想から練って造ってみるのもアリですね。それか長期休みには結局、予定が入って造れなかった大掛かりなモノでも……」
【――まあ、何をするにしても、お腹が空いてはいけませんのでそろそろ夕御飯にしましょう】
「それもそうですね」
「ぬいぬい!」
「まく~」
【ほっ、それではすぐに用意いたしますね】
蒼唯の口から不穏な要素しか飛び出てこない事に戦々恐々するリリス。
蒼唯の不利益にならない方法として他に選択肢が無かったとは言え、蒼唯に対して自由時間を与えてしまって良かったのかと自問自答するリリスは、その場しのぎに、蒼唯を製作欲から食欲に誘導するのであった。
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