第179話 茸大収穫

 ダンジョン外を侵攻していたモンスターたちが、打ち合わせでもしてたかの如く、一斉にダンジョン内に戻っていくという出来事が発生した。

 原因不明で発生した同時多発のダンジョンブレイクは、同様に原因不明で終息してしまった。取り敢えずの危機は去ったと言えるが、また突然ダンジョンブレイクが発生するのではないかという不安は払拭されないままであった。


 そんな出来事が発生しているなど露知らず、可愛いもの造りに勤しんでいた蒼唯。

 そんなマイペースな彼女の元に柊からメッセージが届く。


 蒼唯と探索者業界を繋ぐパイプ役として、世間から認知されている柊であるため、今回のような出来事が起こる度に探り役を任されるのであった。


柊:「アオっち、今いいか?」


蒼唯:「良いですよ?」


柊:「今、アオっちの近くにぬいたちっているか?」


蒼唯:「いないです? お出かけ中です」


 ぬいたちに用事とは珍しいなと思いつつも、ありのままに返答する蒼唯。


柊:「そうか。こんな正月から『ぬいぐるみ』たちだけでお出かけか。初詣か何かか?」


蒼唯:「うーんです。まあ、似たようなもんです」


柊:「そうなのか? 初詣か…」


 ぬいたちは現在、『ミラグロ』という宗教施設に行っているので、初詣かと問われれば強く否定する気も起きない蒼唯。

 初詣に来て神社をキノコまみれにする参拝客など、生涯出禁だろうが。


 基本的に嘘は付かない蒼唯が初詣に行ったと言うのであれば、そうなのだろうと柊は考えてしまう。

 ほぼ間違いなく今回の件も蒼唯の仕業だろうと思っていた彼は、この結果に困惑してしまうのであった。


――――――――――――――

 

 一部の『のこちゃん』のコントロールが奪われた事を察知した『茸師』ぬい。

 それを聞いたリリスたちは、魂に寄生する『のこちゃん』に気が付き、侵食してくる『のこちゃん』を防ぐ事が出来るのは、おそらく『魔王』の魂を持つ者だろうと予想を立て、急いでそちら方向に向かっていた。

 

 しかし死屍累々の『ミラグロ』所属の騎士団員や聖職者たちを掻き分けて進んでいる最中に、予想だにしていなかった事態が発生する。

 『のこちゃん』のコントロールを奪い取り、此方側の『のこちゃん』と戦わせるという大胆な戦法を取っていた筈の者。その者がダンジョン外に移動し始めたのである。

 

ぬいぬにげた

まくだれが~?」

ぬいまおー」

まくありゃ~」

【『魔王』の魂を持つ者が『ミラグロ』から逃げ出した、と言うことでしょうか?】

ぬいそう

【『魔王』の魂の管理を任せれるほど、『ミラグロ』から信頼された者が、『ミラグロ』を捨てて? ここの狂信者たちは『ミラグロ』の防衛に命を賭けられる精鋭たちですが…】

ぬいでもぬいぬにげた

【そこは疑っておりません。『のこちゃん』が魂に寄生した事で何らかのイレギュラーが?】


 『ミラグロ』にいる者の中でも更に選りすぐりの者の行動としてあまりに不可解なため、『のこちゃん』に寄生された結果、バグでも生じたのかと疑うリリス。

 これで『ミラグロ』の制圧は簡単になった。しかしリリスたちの目的は『ミラグロ』ではなく、逃げた者の肉体に宿る『魔王』の魂である。このまま逃げられたら、また振り出しに戻ってしまう。


【すみませんがぬい様! 『茸師』で逃げた者の居場所は把握出来ますでしょうか?】

ぬいぬできる

【でしたら、早速その者を追いかけましょう! 『のこちゃん』が体内から排除されて追えなくなる前に!】

まくおう?」

ぬいぬなんで?」

【な、なんでと言われましても…追わないのですか?】

まくまくおわない~」

ぬいぬはやすぬいまおー」

【はやす…生やすのですか?】


 ぬいたちの発言にリリスが驚く間もなく、ぬいは『茸大収穫のこのこハーベスト』を発動する。

 

ぬいぬはえろー、ぬいぬはえろー」


 するとぬいたちの目の前の地面から、茸のように生えてくる者が確認できた。

 その者は一瞬、自身の身に起きている事態が呑み込めず固まったが、その後、何とか言葉を絞り出すのであった。


【……………………見つかるのは想定してたけど、生やされることは、想定外だったな】

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