第149話 メタ的な

 ダンジョン攻略において、ぬいとまっくよは特異的な性能をしている。茸と睡眠という対策が無ければ相手を一方的に倒す術を持ちつつ、『食トレ』により通常戦闘も最高峰の探索者を屠る程の強さも併せ持つ。

 

 そんな2匹でも手を焼く相手はいる。『地獄の塔』に出現する階層ボス何かはそれに当たる。階層ボスは複数人のレイド形式での戦闘を想定しているかの如きステータスをしている。特に体力や防御面は突出している事が多い。

 またボスはハメ技対策なのか状態異常を回復する能力を持つことが多く、茸で操る等の戦法が通用しないこともしばしばある。勿論、まっくよの眠らせ力はその対策を上回り眠らせるが、眠らせた所で体力お化けのボスを倒しきるのには、かなりの時間を要することとなる。


「…出来た。『骨龍滅剣ボーンドラゴンスレイヤー』だ。これを『幻想金属』の手に持たせて」

「ぬいぬい!」

「まく~」


 しかし今回の探索には蒼唯がいる。『真理の眼』で視た情報を元に、その相手に合わせた装備をその場で作り出せる完璧なメタ製造者がだ。

 95層に出現した階層ボスである『骨龍王』ボンデッドは、無数の骨龍を生み出し、ダメージが蓄積すれば生み出した骨龍を自身の骨格に取り込むことで回復すると言う半永久機関を誇っていたが、まっくよに眠らされ、蒼唯の造り出した『骨龍滅剣』により切り裂かれ消滅した。


「やはり効果を詰め込みすぎたな。一度の使用で壊れてしまった」

「ぬい!」

「まあ、オリジナルは消耗品を嫌っているが私は気にしないからな。たからこそオリジナルの方が『錬金術』は上なんだろうが」

「まく~?」

「可愛いものを造るというモチベーションが圧倒的なパフォーマンスに繋がっていると言うことだ。私の場合は造るものによってそこまでパフォーマンスに差がない」


 蒼唯の『錬金術』は感覚的な要因が大きいため、モチベーションによってパフォーマンスが上下する。『悪魔化』状態の蒼唯も、可愛い物の方がパフォーマンスは上がるが、オリジナル蒼唯は、それが顕著である。

 しかし可愛いを求めない、ダンジョン攻略中の即興でのメタアイテム製作ならば話は別である。

 

「まあ、オリジナルに劣ると言っても骨龍滅剣これくらいなら問題ないがな。さてと先に進もうか」

「ぬいぬい!」

「まく~」


 ぬいが防ぎ、まっくよが眠らせ蒼唯がメタる。このコンボを止められるモンスターは少なくとも『地獄の塔』の95層から100層までには存在しないのであった。


―――――――――――――――


 『地獄の塔』から帰還した蒼唯たちは、着替えのため協会に立ち寄った。すると協会には見知った顔が待機していた。


「蒼唯!」

「おや? 輝夜か。どうした?」

「え? あ、そのダンジョン!」


 蒼唯がダンジョンに出没したとの情報を受けた輝夜は、急いでこの場所にやってきたらしい。


「心配させてしまったか。それは申し訳なかった」

「大丈夫そうで安心したよ」

「ぬい!」

「まく~」

「まあぬいとまっくよもいたからな。問題はないさ」

「そっかー…それなら良かった」


 元気そうな蒼唯を見て安堵する輝夜。そうなると他の疑問が湧いてくる。


「じゃあ次の質問。いつもと雰囲気も喋り方も違いすぎない? 何て言うか凄く大人びてる感じ? 絶対、何か実験失敗したでしょ? それの影響でダンジョン探索してない?」

「よく分かってるな。まあ明日には元に戻っているが」

「はぁー、ならいいけど蒼唯がダンジョンにいるって凄い騒ぎになってたんだよ。…それでやっぱり95層を攻略しちゃったの?」


 協会で待っていると、攻略隊に先んじて95層が攻略されていたと騒ぎになっていたため輝夜がそう尋ねる。


「ああ、95層も攻略したな」

「やっぱりね。…も? もしかして複数階層攻略したの?」

「まあ、100層まで攻略してきた。意外と大変だった」

「はぁー? そりゃ、100層までやったら大変だろうけど? えーー!?」


 蒼唯のことは他の人よりも理解がある輝夜ですら、周りの事を気にする余裕無く叫んでしまうほどの爆弾発言であった。

 

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