第119話 堕転司教

『転職の神殿』のダンジョンマスターである『堕転司教』クルートは、初めてジョブを授かった際と同じほどの衝撃を受けていた。


「はい、これでまっくよも転職終わりです」

「まく~」

「ぬいもまっくよも、2人の魂に合わせて調整したですから大丈夫だと思うですけど、違和感あったら言ってくれです」

「まく!」

「ぬい!」


 最年少でジョブ教の司教となったクルートは、転職神やジョブの探求に熱狂していた。『転職の神殿』が魔族に侵略された際は、神殿でジョブの研究が続けられるように真っ先に人類を裏切った。人の身体から『半魔族ハーフデビル』に作り替えられても気にしなかった。身体を作り替えた影響で見た目が幼いまま成長しなかったが、特に気にしなかった。魔族の方が人よりも寿命が長い。そのためより長い間ジョブの研究が出来るからであった。

 そして彼はサタンが『転職の神殿』を見限り、魔族も転職を好まないため誰も訪れない神殿でジョブの研究に没頭していた。


 そんな人生をジョブに捧げた彼でも神殿の設備を使わなければ人を転職させることなど到底出来ない。ましてやジョブの中でも忌避すべき『無職』に、可能性を見い出すなど、彼が信仰する転職神すら不可能ではないだろうか。


【…そう言えば思い出したわ。貴方、あのサタンの配下の一人だったわね】

【ええ。サタン様より『堕転司教』と言う名を授かりました。クルートと申します。先ほどは前の世界で見たことのあるお顔に興奮してしまい、失礼しました】

【別に構わないわ】


 元の世界ではリリスとサタンは派閥が分かれていた。そのためサタンの配下に突っ掛かれることも少なくなかったリリスにとって、クルートの態度は気にする程でもなかった。

 それよりもリリスが気になったのは、先程からチラチラと見つめる蒼唯への視線。


【狂信者の目。まあ予想は出来ていたけれど】


 その目はまるで、信者が神を見ているかのようであった。


 ぬいたちの転職を終えた蒼唯は、リリスたちが連れてきた『転職の神殿』のダンジョンマスターに向き合う。


「つまりです。なんか私の方に転職してくれって話がいっぱい来るようになって迷惑なので、そっちで処理して欲しいです」

【お、お任せください。このクルート、誠心誠意、努めさせていただきます】

「頼むです。じゃあ『無職』を取り除くですね。」

【よろしくお願いします!】


 リリスが連れてきた当初は、かなり反抗的で神罰がどうとか裁きがどうとか言っていたクルートだったが、ぬいとまっくよに付与された『無職』を使い新しいジョブを造っている間に、別人のように態度が急変したのだ。

 蒼唯としては頼み事を素直に聞いてくれそうなので有り難いことだが、何でこうも変化したのか謎であった。


「ぬいがこっそり茸でも生やしたです?」

「ぬいぬい!」

「じゃあリリス?」

【いえ、私の『魅力眼』ではありませんよ。そもそもある程度の実力差がなければ『魅力眼』は効果がありませんよ】

「じゃあ何でなんですかね? 不思議です」


 元々、『無職』を逆付与してダンジョンから追い出した後は、茸でも生やして命令を聞かせようと計画していたのだが、蒼唯の信者となることでそれを回避したクルートは幸運であった。

 

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