第113話 ジョブの元

 国際探索者協会が主導で行った『転職の神殿』攻略は考え得る限り最悪の結果で終わったかに思われた。攻略は失敗し護衛として参加した優秀な探索者たちが『無職』となってしまったのだ。

 そして更なる絶望が参加者を襲う。それは『無職』となった者たちは『転職の神殿』への入場が不可能となっていたのだ。ミッションにおいてジョブによる制限を掛けていたダンジョンであるため、『無職』を出禁にする事など造作も無いのだろう。


 これまでの炎上が小火に思えるほどの大炎上が国際探索者協会を襲う。探索者のサポートをする筈の協会が、彼らの未来を壊したのだから当然である。


柊:「奴ら行動で唯一どうにか評価できると点があるとすれば『転職の神殿』の危険性が明らかになったくらいだぜ」


蒼唯:「なるほどです。てか私的には『無職』が気になるです。ちょっと弄ってみたいですね。本当に転職させられてるか、『呪い』みたくマイナスのジョブを付与されて授かったジョブを相殺してるのか、はたまたどちらでもないかです」


柊:「冗談が過ぎるぜ。いくらアオっちと言えどジョブを弄るなんて…え、は? 弄れるのか?」


 柊はあり得ない想像を笑い飛ばそうとしたが、蒼唯と言う何でもありな存在を前にして笑い飛ばすことが出来なかった。

 そんな柊の疑問に蒼唯は首をかしげる。


蒼唯:「あれです? 柊さんに言って無かったです? この前自分で実験した結果、『錬金術』で転職できるようになったです。今の私は『錬金術師』じゃなくて『偉大な錬金術師アルケミストマスター』です。ついでに言うと坪さんや師匠、こはくも転職済みです」


柊:「理解が追い付かん。じゃあなにか、あの要請は人を転職させられる蒼唯に『転職の間』を開放させるべく奔走してたのか? とんだ笑い話だぜ」


蒼唯:「もし『無職』がジョブ版の呪いなら素材として欲しいですね。私も偉そうなこと言っても元となるジョブがないと何も出来ないですし」


柊:「十分すぎると思うが」


蒼唯:「『無職』になったけど要らないよーってお知り合いいないですか?」


柊:「要らない奴だらけだと思うが…わかった。良い奴を見繕っておくぜ」


 今回の事件を聞いて真っ先に『無職』を有用な素材扱いする蒼唯は、やはり根本的にどこか思考回路がおかしいのだろうと諦める柊であった。


―――――――――――――――


 柊という世界的に見ても有数の商人の甘言に唆され日本にやってきたニックは、現在自身の身に起きている事が信じられないでいた。

 彼を絶望に突き落としていた『無職』が無くなり、元の『細剣士フェンサー』に戻れたのだ。


[か、身体が軽い! 『無職』になる前、いやそれよりも力が漲ってくるようだ!]

[それは良かったぜニック。お前の剣捌きがまた見られると思うとほっとするぜ。たださっきも言ったが、探索者活動に復帰するのはもう少し待ってくれよ]

[ああ、昨日まで彷徨っていた絶望に比べたら少しの間待つことくらい何でもない。そこの女神に誓うよ]

[女神か。まあ『神罰』を解除するならアオっちも神と呼ばれても仕方ないか?]


 ニックは自身を救ってくれた蒼唯を女神のように崇めていた。そんな女神蒼唯はと言うと


「思った通りです。『無職』の中でも不要なモノを精製すれば…どんなジョブにもなれる可能性を持つジョブの元になれるですね。不要なモノも使いようによっては色々出来そうです」

「まあこんな恐ろしい女神は困るがな。おい、アオっち、ニックがお礼を言いたいみたいだぞ?」

「お礼なら私が言いたいと伝えてくださいです」


 ニックから抽出した『無職』に興味津々なのであった。


 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る