第102話 セルフ人体実験

 サタン茸から聞いたジョブシステムは、蒼唯の『錬金術』の考え方に似ていた。不要な才能を減らし、その分の余剰を必要な才能を伸ばすのに使う。

 そういった複雑な操作の肝はおそらくは、ダンジョン初入場時に全員に授けられるジョブだと蒼唯は推測する。そう考えた蒼唯がする事と言えば決まっていた。

 

「なるほどです。色々と複雑にはしてるですけど、言うなればジョブも複合スキルみたいなモノですね」

【蒼唯様。先程から何をなさっているのですか?】

「これです? 自分自身に『錬金術』を掛けて私に付与されてるであろうジョブの『錬金術師』を調べてるです」

【はぁ?】

「ぬい!」

「まく!」


 自分への『錬金術』の使用し、ジョブについてかなりの事を把握する事ができ満足げな蒼唯。それとは対照的に呆然と蒼唯を見つめるぬいたち。


「ぬいぬい」

「え? でも取り敢えず調べるだけならそんなに危険じゃないですよ?」

「まく~」

「私以外にジョブを持ってるのいないです」

【ならばやる前に言って下さりませんと】

「そうすると止められるですし」

【分かっているならやらないで下さい】

「結果的にジョブについてより理解が深まったですからオッケーです。とはいっても他人に『錬金術』するの気が引けるですからあんまり役に立たない技術ですね」


 リスクある行動の結果、ジョブを『錬金術』で弄くれる確信を持つ蒼唯。

 一方でもし蒼唯がジョブを強化したり変更したり出来たとして、それをやって欲しいと思う人物がどれ程いるか。『転職の神殿』があるならそっちで『転職』したいと思うだろう。

 そして蒼唯としても赤の他人にやってあげたいとも思えない。


「ぬい?」

「ぬいたちにですか? 完全再現は難しいですけど、ジョブのスキル的な要素を模した擬似ジョブなは付与することは出来るですね。それをしたところで大した利点はねーですけど」

【確かにぬい様とまっくよ様は、『食トレ』で思うままに成長する事が出来ますからね】



 蒼唯が確認したジョブの効果は主に3つあり、ジョブに応じて才能を特化させる効果、特化させた才能が成長しやすくなる効果、ジョブに紐付いてるスキルを扱いやすくする効果であった。

 これらをぬいたちに付与することは出来るが、『食トレ』により自由に成長できるぬいたちの可能性を潰しかねない。


「まく~?」

「こはくてす? こはく自身は良いって言っても坪さんと師匠が何て言うか分からんですよ。まあでもサタン茸の話だと『転職の神殿』が信用できるか分からんですからね。出来るようになってて困ることは無いかもですね」


 サタン茸がぬいに食べられる前に発した言葉。才能を奪うないしは中抜きし配下のモンスターに与える。これが『転職の神殿』で行われるのであれば、下手に使用するのは憚れる。

 そう考えると全く役立たずな技術でも無いかもしれない。しかし

 

「まあ何にしても他人にやるなら安全面は確認しないとですよね?」

【あ、待ってください蒼唯様!】

「大丈夫です多分」


 安全かどうか確信が持てないモノを他人に試す趣味は無い蒼唯は、まず自分を実験台にする。自身が持つ『錬金術師』とそれに紐付いている『錬金術』を元にして、身体の中を弄くり回すのであった。


 蒼唯が成功を確信していた実験は、もちろん成功し、蒼唯のジョブは『偉大な錬金術師アルケミストマスター』に『転職』し新たなスキルも習得した。

 しかし連続で心配を掛けたためか、ぬいたちの機嫌がかなり悪くなってしまったため、ご機嫌取りに奮闘することになるのであった。




 

 


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