第84話 錬金術談義

 優梨花は『錬金術』について熱く議論を交わすはじめと蒼唯という大変珍しい光景を見ていた。

 はじめは、日本で唯一『神の手』の称号を得た『錬金術師』である。そのため日本国内ではじめに対して意見を言うような人は、これまでほぼいなかった。

 しかし現時点で日本で一番の『錬金術師』を問われれば、本人以外は全員が蒼唯と答えるだけの途轍もない実績を積み上げた化物が、はじめの目の前にいる。彼女にとってそんな経験はこれまで無かっただろう。平静を装っていたが内心、蒼唯との邂逅を楽しみにしていたのだろう。


「魔力を材料にね...それなら生産ギルドの慢性的な素材不足も解消されるね。それなら『賢者の石』とかはどう? すごく希少だけど、あれなら魔力を材料に錬成も出来るんじゃない?」

「あれは結局のところ錬成や付与の効率を上昇させる触媒ってだけだったです。普通の何倍も上昇させるですから、魔力を材料にする技法が確立された後なら役に立つと思うてすけど、現段階ではちょっと違うですね」

「そっか。残念だな」

「それに『賢者の石』は触媒としてより素材として使った方が有用ですし」

「素材として? あんな希少なのに?」

「まあ殆ど手に入らないですけど、あの増幅性能は面白いですよ」

「確かに素材としてのポテンシャルは高いだろうね」


 そして蒼唯もはじめとの『錬金術師』談義に付いていけている。蒼唯は『錬金術師』としての一般常識や用語など興味のない部分を知らないだけで、『錬金術師』としての経験は凄まじいものがある。

 我流ならではの自由な発想が蒼唯には詰まっている。それがはじめには新鮮であった。2人の談義は長時間続いた。



「なるほどです。勉強になったです」

「こちらこそ面白かったよ...ああ、もうこんな時間か。もうそろそろあの子が来る頃か。蒼唯?」

「何ですか?」

「この後、優梨花と話したいことがあるから、その間、もうすぐ来る子の案内でギルドを見て回ってくれないか?」

「分かったです」


 はじめの提案で蒼唯の次の予定が決まる。ただ今のままギルド内を回ると凄い騒ぎに成ってしまうため蒼唯は『変装メガネ』を再度掛ける。


 そうこうしているとドアが来客を感知したのか自動で開く。開いたドアの先には大学生くらいの若い女性が立っていた。


「はじめ先生、麗花が参りましたわ。何かご用意でしょうか?」

「ああ、麗花。忙しいのにごめんね。今から優梨花と色々と話すことがあるんだけど、その間この子が暇になるからギルド内を案内してあげてよ」

「はあ、別に構いませんが、また若い子の勧誘ですの? 私のような逸材はそうそう見つからないと思いますが」

「はいはい、自慢はいいから、案内よろしくね」

「分かりました。では行きましょうかえーと」

「齋藤です、よろしくお願いするです」


 蒼唯は麗花に連れられて作業部屋を後にするのだった。


―――――――――――――――


 作業部屋に残された優梨花は、はじめの顔をじっと見つめる。


「相変わらず意地悪ですね」

「なにが?」

「あんなプライドが高そうな子に蒼唯の案内なんて任せるなんて」

「そう? 麗花はこのギルドでも私の次くらいの実力者だよ。案内役としてあの子以上の適任はいないと思うな」

「あの若さで? 凄いですね」


 『錬金工房』という国内で有数の生産ギルド内でトップクラスの実力者。見た感じ高校卒業したばかりであるのにもうその実力を身に付けているとなれば、相当の才能と努力の積み重ねがあったのだろう。

 

「この実力主義な探索者業界だとあるあるだけどね。若いのに実力があるとどうしてもね」

「だからもっと若い蒼唯にバキバキに折って貰おうって訳ですね。意地悪な先輩らしいです」

「えー、破壊と再生を繰り返して人は成長するの。これ私の持論だから」

「そうですか」


 その結果が大きくなったプライド。これ以上肥大化すれば成長の妨げになるだろう。しかしはじめではそのプライドを折る役割は出来ない。はじめより劣っていることを麗花は受け入れているからである。そのため蒼唯は適任であった。


「でも蒼唯の正体に気が付いたら意味ないんじゃ無いですか?」

「...そうかな? 逆にもっとショックを受けると思うよ」


 既に『蒼の錬金術師』として名が知られている蒼唯だと気が付けば、負けて当然だと思うように感じられた優梨花だが、はじめは真逆の考えを持っているのだった。



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