第74話 疑惑のブレーン

 『エデンの園』の異常事態について、蒼唯からぬいが持つ『茸師』の説明を受けていた星蘭や柊などは、彼女がこの事態に絡んでいる事を確信していた。

 しかしそれについてとある疑念があった。そのため記者会見が混沌と化したという出来事もあり、代表して星蘭が問いただす役となった。


蒼唯:「それでダンジョンマスターって奴を誘きだして倒したって流れです。ぬいたちが言うには、これからは良いダンジョンになる予定らしいです」


星蘭:「なるほど。前の『悪夢の国』が今ではレジャー施設となったみたいにってこと?」


蒼唯:「それはよく分からないですけど、多分そんな感じじゃないです?」


星蘭:「そっか。おおよその流れは分かったよ。でも本当にビックリしたんだから、やるなら言って欲しかったな」


蒼唯:「そうですか。ごめんです」


星蘭:「別に本来なら謝ることじゃないんだけどね。規模が大きすぎるからね。今度、あのレベルの事をやるときは事前に言ってね」


蒼唯:「出来たらするです」


星蘭:「それ言わないでしょ。まあ了解。ありがとうね」


 メッセージが終了する。蒼唯から『エデンの園』の仕組みや今回の攻略方法の概略を聞き終えた星蘭は深刻そうな表情を浮かべる。結果としてこのやり取りで星蘭の疑念は深まった。


「ダンジョン攻略の仕方がテクニカル過ぎるし、アオがダンジョン攻略を事前に知ってたのに、私に言ってこなかった。それに何よりダンジョン攻略に興味がないアオが自分の『ぬいぐるみ』たちの事だとは言え彼処まで事細かく知ってるのがおかしい」


 ダンジョン攻略が玄人じみているのは、『ぬいぐるみ』たちの成長であるかもしれない。星蘭に事前に言って来なかったのも、蒼唯の性格的に違和感はあるが、状況的に無くはない。

 しかし星蘭が聞いてきたタイミングで、ある程度ダンジョン攻略の流れが分かっているのはどう考えてもおかしい。蒼唯は『ぬいぐるみ』と意志疎通は取れるが、今回のような事細かに説明することは『ぬいぐるみ』の不得意分野であった筈だ。


「アオが積極的に聞くか、『ぬいぐるみ』たちが延々と説明したならあり得るけどそれは無い。となるとアオが作戦を立案した? それも無いなら蒼唯にブレーン的な第三者がいる?」


 それならばあり得る。ブレーン役が作戦を立案し、後に『ぬいぐるみ』たちの活躍という体で蒼唯に説明する。この構図なら納得がいく。

 これならダンジョン攻略の仕方がダンジョンやそれこそ『エデンの園』に精通し過ぎている点や、星蘭に内緒で攻略した点も説明できる。


 かなり突拍子もない考えであったが、一度思い付いてしまったことは、中々忘れられない星蘭は、説明も兼ねて柊に相談することにした。


柊:「ブレーンか...アオっちの交友関係は広い方じゃないぜ? SNSとかもやって無いしな。それとも『ぬいぐるみ』みたいに自分でブレーン役を製造したとでも思ってるのか?」


星蘭:「それは無いと思うわ。アオが造ったなら私たちに自慢はしても内緒にはしないでしょう?」


柊:「それもそうだな。まあそもそも探索者は秘密主義者が多いからな。これまで俺っちたちに色々と言ってくれてただけだぜ?」


 そもそも、今回の『エデンの園』の件もそうだが、開放されているダンジョンの攻略は探索者の権利である。そしてその攻略方法も禁止されている幾つかの行為を除けば自由である。

 どこのダンジョンも『ダンジョンを茸で埋め尽くしてはいけない』などと言うふざけたルールは定めていない。想定外の事態であるため批判が上がるのは分かるし、それに驚愕した現地で実際に探索している者たち等は批判する権利もあるだろうが、それ以外の者たちにはその権利は無い。


星蘭:「分かってるわよ」


柊:「確かに正体不明者がアオっちの傍にいるなら怖いが、お前の想定だと未攻略の『エデンの園』について詳しいってことだぜ? それは誰なんだぜ?」


星蘭:「それは...そうだけど」


柊:「まあ最近、アオっちの近くに他国のスカウトとか、変な輩がうようよしてるらしいから、それの調査と平行して少し調べてみるぜ」


星蘭:「お願いするわ」


 いくら蒼唯について詳しい2人も、ダンジョンマスターを配下としているという発想には至らないのであった。

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