第72話 頭の中の茸
『エデンの園』の後処理のため呼び出されたリリスは目の前の光景に震えていた。
【の、のこ~】
【...これがかつて神にすら反抗し挑み続けていた者の末路。悲惨ね】
昔馴染みが頭から茸を生やしている光景に恐怖を感じるが、これはリリスにもあり得た未来である。1つボタンの掛け違いが起きればリリスの頭にも茸は生えていただろう。
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その光景を造り出した張本人たちはのほほんとしていて、なおのこと質が悪い。
【ぬい様、まっくよ様。どうかサタン...この蛇に最低限の思考力を戻してはくれませんか?】
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【『エデンの園』の運用なら私だけでも事足ります。しかしこのダンジョンの構造はサタンの狡猾さが有ることで成り立っています。蒼唯様のためにもサタンを有効活用することが一番かと愚考します。普通ならサタンに反抗の機会を与えるのは怖いですがその茸はアレですから】
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リリスの説得に納得したぬいは『茸師』を使いサタンの思考力を戻す。
【の...はっ! 助かったのか?】
【...残念だけど全く助かっては無いわ】
【......その声は、リリス! 貴様、何故ここにいる! よもや貴様の差し金か!】
【もしそうだったらどれ程幸運だったかしらね】
思考力を奪われていた時も微かに意識はあったようで直ぐに状況判断を始めたサタン。思考力を取り戻した時、目の前にリリスがいたことで勘違いしてしまう。いつもならもう少し冷静に物事を判断するサタンだが、今はそんな余裕は無い。
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まあ冷静であったとして、主犯が可愛らしい『ぬいぐるみ』たちだとは思えないだろう。主犯としてあまりにサタンに関心が無さすぎるのだ。
【それでこれから我に何をさせる気だ?】
【...サタン。貴方にはこれまで通り普通にダンジョンを運営して貰うわ。今回の件で多少構造が変わっているけど貴方なら問題ないわよね?】
【我を誰だと思っている。しかしこれまで通りだと? ふざけているのか? それとも舐めているのか?】
【私たちには『エデンの園』を運営していく余裕がないの。...でももし私たちに害を成す様な行為をしたらどうなるかは、身を持って知っているわよね?】
【ふん! 安い脅しだが仕方がない。乗ってやるさ】
【そう。なら頑張りなさい】
リリスの説明に納得した素振りを見せるサタン。リリスも彼とは長い付き合いであるので考えていることは分かる。分かってしまうからこそ、現状の悲惨さも理解してしまうのであった。
リリスたちが立ち去ったのを見計らい、サタンは高笑いを上げる。
【ふははは。何が頑張りなさいだあの淫魔め! 油断して我の思考力を戻しやがったな。直ぐに後悔することになるだろう】
サタンの一番の武器である思考力。それを安易に戻した事を嗤うサタン。これまでその思考力で幾度となく窮地を脱してきた経験がサタンにはある。
【さてと、ではこれから我がしなくてはならないことと言えば...これまで通り、いやこれまで以上に探索に来るものたちにとって有益なダンジョンとなるような運営を続けることか】
そんな自分の思考力に絶対の自信があるサタンは、自分の思考が歪められている事実に気が付かない。正確に言えば思考の歪みを疑うことが出来なくなっている。
【最高のダンジョン運営を行う! これこそ我に与えられた使命!】
『能力上昇林檎』で探索者の欲を刺激し、食べた者の思考を歪め『エデンの園』に依存させる計画を立てていたサタン。彼の末路は思考を歪められ、探索者のために働かされ続ける存在になることであった。
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