第64話 バトルトーナメント

 『従魔競技会』の最終種目である『バトルトーナメント』が行われている会場にやってきた柊。関係者以外立入禁止のエリアを歩いていると、顔見知りを発見する。


「どうも坪さん」

「柊くん、こんにちは」

「調子は...良さそうですね」

「蒼唯のお陰でね。ここまでとはあんまり予想してなかったけど」


 2人の視線の先には、戦闘中のこはくの姿があった。


【おーと、『剣虎サーベルタイガー』選手の猛攻に全く動じないこはく選手、受けきった! そしてお返しの犬パンチ! カウンターパンチが見事に決まり吹き飛ばされる『剣虎』選手。これまでの戦いと同じ展開だ!】

【攻撃力に定評のある『剣虎』選手の猛攻を受けきる防御力に、一撃で大型従魔を沈める攻撃力。見事としか言いようがありません】

【やはり動けない『剣虎』選手! ...ここで10カウントです。勝者はこはく選手。準決勝進出です】


 大型の虎をパンチ一発で吹き飛ばし、仕留めるトイプードル。絵面が凄いことになっていた。


「あれが『不落要塞』と『逆襲殴カウンターパンチ』か。あのコンボだけで大抵のモンスターやれるんじゃないですか?」

「見る限り穴は多いけどね。相手にそれがバレてない間は完封できるかな?」

「そうなんですか。圧倒的な耐久性能を与える『不落要塞』と相手からの攻撃をそのまま自分の攻撃力にする『逆襲殴』は、かなり隙がないように見えますけど」

「柊くんは戦闘に興味ないからね」


 誰が聞いているか分からないため坪も安易に弱点を説明したりはしないが、『不落要塞』を発動している間は動けないという制約がある。そのため攻撃に転じている間は無防備だったりする。

 そういった穴は、他の装備品などで補っているがそれでも完全に塞ぎきっている訳ではない。熟練の探索者が見ればどう攻めれば勝てるか分かるだろう。


「そうですか。まあ『テイマー』系も戦闘素人な人多いですからね」

「それに『テイマー』が戦闘中に指示を出せる訳でもないから。まあ難しいかな」


 しかし『テイマー』の特に大型従魔を好んで使うタイプは、個体差によるゴリ押しが多い傾向にある。戦闘に詳しい指揮官タイプはスキル等が面白い小型、中型の従魔を好む傾向があるが、今回の『バトルトーナメント』のルール的に大型従魔の方が有利なので出場選手も片寄っている。

 そのため余計に活躍するこはくが目立つのだ。


「このまま行けば3種目制覇ですか。歴代タイ記録じゃないですか?」

「そうなんだ。こはくの頑張りと蒼唯のサポートのお陰かな」

「...主催者は凄い顔してますけどね。素直に『ぬいぐるみ』を招待しろって言ったんですよ。人気があって実績もある『ぬいぐるみ』たちならって。結果、普通の犬に蹂躙される従魔っていう主催者が一番恐れてた事態になっちゃってますぜ?」

「それは、彼らが悪いね」


 従魔の有用性を示す大会で普通の犬が3種目制覇してしまう。しかも大型従魔が犇めく種目にも出た上でである。これでは従魔の有用性を示すどころではない。

 今、主催者たちは一生懸命、こはくの攻略法を考えていることだろう。ただ今さらである。蒼唯が「安全面を最大限重視したです」と言っていた。『不落要塞』だけでは完全とは言えない。つまり他にもギミックは用意されているのだ。

 

「わんっ!」

「おお、こはく。よくやった。偉いぞ」


 自分を見て駆けてくるこはくを受け止め誉める坪。この感じでゆるーく優勝してしまうように柊は思えた。

 その予想は的中し、こはくは『従魔競技会』の歴史に名前が刻まれることとなった。

 

 

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