こはく編
第60話 こはく
『テイマー』や『召喚師』といったモンスターを従えてダンジョンに挑むジョブがある。モンスターを仲間にとする唯一のジョブ。このジョブの弱点は、モンスターの支援に重きを置く関係上、探索者自身の弱さが目立つ。高難易度ダンジョンで『テイマー』などがいない理由はそれにある。
そう言った意味でも『ぬいぐるみ』は画期的なのだ。別のジョブなのに『テイマー』と同じような事が可能なのだから、弱い訳がない。『ぬいぐるみ少女』である沙羅が活躍している理由の一つは間違いなくそれである。
蒼唯がいつものように、ぬいとまっくよを連れて散歩をしていると珍しく知り合いに遭遇する。
「あれ? 坪さんです。 あ、こはくもいるです」
「わん」
「おお、蒼唯か。久しぶり」
「お久しぶりです」
『ぬいぐるみ少女』の他にも『テイマー』系のジョブを持たず探索者以外とダンジョンを攻略する者が存在する。
坪秀樹もその一人である。
「また面白いアイテム造ったんだって? 柊くんから聞いてるよ」
「そんな面白いモノは造って無いです」
「その無自覚っぷりは相変わらずだね」
彼のジョブは『剣豪』であり、日本でも有数の近接戦の達人である。ギルドには所属していないため高難易度のダンジョンでの実績に乏しいが、知る人ぞ知る探索者である。
そんな彼の相棒は、彼の隣に佇んでいる、トイプードルのこはく。甘えん坊で坪が大好きなあまりダンジョンにまで付いていってしまったこはく。
「...それが噂の『ぬいぐるみ』か。これは中々」
「何の噂か分からんですけど...というか、こはくもまた成長したです?」
「この前の探索のせいかな?」
「師匠が怒るですよ。また、こはくをダンジョンに連れてってとか言われるです」
「それは困る。内緒にしといてくれ」
そんな世間話を2人がしている横でペットたちはじゃれあっていた。正確に言うといたずらっ子のぬいがちょっかいを掛けていた。
こはく自慢の茶色い毛並みをわちゃわちゃするぬい。
「ぬいぬい! ぬいぬい!」
「......」
「まく~」
そして無反応なこはく。それを呆れた様子で見守るまっくよ。
肉体的な強さはぬいたちには劣るが、精神面では負けていないこはく。それもその筈である。
ペットをダンジョンに連れていくと言うのは、それなりの者が考え付く。人間に限らず動物もダンジョンでジョブを授かり、成長できるためダンジョン攻略を繰り返せば生物として強くなる。
しかしモンスターを前にしたペットは本能的に恐怖を感じダンジョンに寄り付かなくなる。万が一モンスターの恐怖を乗り越えたとして、主人がペットというハンデを背負いながらダンジョン探索など普通は出来ない。
そのため、こはくは主人への愛により本能的恐怖を乗り越え、尚且つ強い主人を持ったため必要水準まで成長できた稀有な存在なのだ。そんじょそこらの犬とは違う。
「ぬい!」
「......」
「ぬいー」
「何ですぬい?」
「お、ご指名ですか。嬉しいね」
無反応のこはくに飽きたぬいは、こはくの主人である坪に遊んでもらおうと近づく。その瞬間、こはくの表情が激変し、先ほどまででは考えられない音量で吠える。
「わっん!!」
「ぬ、ぬぃ~」
その迫力にぬいは思わず距離を取ってしまう。
主人が大好きな、こはくは嫉妬も深い。そんなこはくの咆哮は、『菌ノ庫』ダンジョンを食い荒らしたでお馴染みのぬいでさえ怯ませる
「まく~」
「っとまっくよ。いきなり生えてこないで欲しいです」
まっくよも驚いたのか、いつの間にか『茸猫』により蒼唯の肩に避難しているのだった。
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