第29話 あべこべ
ダンジョンブレイクと呼ばれる災害がある。これはダンジョン内に生息するモンスターたちが外に大量放出される現象である。
ダンジョンブレイクが発生すると人的被害は勿論だが、存在するだけの周囲の環境を変化させるモンスターもいるため、ダンジョンブレイクが発生した地域は人の住めない地域に成り果ててしまうことも多い。この現象は世界中で発生しております、探索者が少ない地域では深刻な社会問題となっていた。
蒼唯が『ぬいぐるみ』のぬいと戯れていると、柊からメッセージが届く。
柊:「もし、『死毒』で汚染された土地があったとして、どうやったら元に戻せると思う?」
蒼唯:「唐突です。ダンジョンの話です?」
柊:「違うぜ」
蒼唯:「『死毒』だと中和剤を造るのも面倒ですし、放って置くのが一番良いと思うです。ダンジョンでも無いなら『死毒』を補充する奴もいないと思うですし」
『死毒』の厄介な所は、毒の性質が時間経過と共に変異し続けていくことにある。『死毒』を研究し何とか中和剤を開発した頃には、毒の性質が全く異なるものに変わっているのだ。
ただ毒であることには変わり無いので、汎用性の高く高性能の中和剤を開発すれば効果はあるかもしれない。ただ蒼唯が自主的にそれを開発する事は無いので却下。そもそも元に戻すというお題に別のモノで上書きするというのが蒼唯的にはナンセンスであった。
そのため毒が自然消滅するのを気長に待つのが結局一番だろう。しかしその方法を聞かされて納得するなら蒼唯に話などしない。
柊:「アオっちが放置するより早く元に戻そうとするならどうする?」
蒼唯:「今日はしつこいですね‥.元にってのがネックです。あ、あれなら...いや駄目ですね」
蒼唯は何かを思い付いた素振りを見せるが、すぐに撤回した。それこそ元に戻すというお題とは別の次元のアイディアであったからだ。
しかし蒼唯のその反応に可能性を感じた柊は追求する。
柊:「何か思い付いたなら言ってくれ」
蒼唯:「前に柊さんから『反転槌』って装備品を買ったですけど覚えてるです?」
柊:「あの残念ユニーク品? もしかして『反転槌』で『死毒』を反転させる気か?」
ユニーク品とはダンジョンのボスを初めて倒した際などにドロップする一点モノの事で、性能が高かったり、効果が優秀なモノが多い。
しかし『反転槌』は残念ユニーク品と呼ばれている。『反転槌』の効果は叩いたモノの性質を反転できる。ドロップした当初は『反転』という効果に期待が集まったが、反転できる対象の槌で叩けるモノだけであり、反転できる範囲にも上限があるためすぐに注目されなくなった経緯がある。
結果的に柊が安く買い取り、蒼唯の元に流れてきたのだ。
蒼唯:「それを色々弄くったです。今は『
柊:「あべこべ...効果は?」
蒼唯:「確か...あったです。対象は何でも、上限無しで性質を逆様にするです。ただ効果を強化するときに色々と削ぎ落とした関係で三回使ったら壊れる設計です」
柊:「何でも?」
蒼唯:「例をあげるなら『逆様の槌』なら『死毒に汚染された土地』を逆様にする事も可能です。説明難しいですけど分かるです?」
柊:「概念系装備...マジかよ」
概念系の効果を持ち合わせる装備。それならば回数制限も納得である。柊からすればそれを人の手で作れることの方が驚きだが。
柊:「でも三回か。ちょうど良い案配だぜ」
蒼唯:「まあ完成したとき実験で1回、前に熱いお茶を冷ますの1回使ったですから、残りは1回しかないですけどね」
柊:「え...実験はまだ分かるけど、お茶! 何でそんなのに使っちゃったんだ!」
蒼唯:「熱かったからです」
柊は頭を抱える。忘れていたが蒼唯は、高位のポーションをエナドリ代わりに飲むような女である。装備品やアイテムの価値観がバグっているのだ。
柊:「じゃあそんな貴重な最後の一回を使わせて欲しいぜ」
蒼唯:「よく分からんですけどいいですよ。使い方の説明書も一緒に転送するです」
柊:「ありがとうだぜ」
バグっているからこそ、柊のお願いをすんなり承諾する蒼唯であった。
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