第23話 ぬい

 蒼唯の素材回収用の『ぬいぐるみ』が完成した。沙羅に販売した『ぬいぐるみ』と大きく変更した点は3つ。

 1つ目は魂を『共鳴する魂』から『無垢なイノセントソウル』に変えた点。これは『ぬいぐるみ』と一緒に蒼唯が探索するわけではないため、持ち主の思考に合わせて行動する『共鳴する魂』は適さないと考えたためである。その点、教えたことを素直に吸収することに長けている『無垢な魂』は、蒼唯の教えさえ適切であれば『ぬいぐるみ』は、すくすくと成長するだろう。

 2つ目は心臓部に『魔力炉』を採用したことである。『魔力炉』とは魔力を増幅させるアイテムであり、『ぬいぐるみ』の活動に必須の魔力を供給する役割を担う。


「イヌ型『ぬいぐるみ』...名前は『ぬい』です」


 最後は二足歩行ではなく、四足歩行を採用したことである。これには大した理由はなく蒼唯の中で探しモノをする動物のイメージが、犬であったためである。

 その結果、色々と改良が必要となったが後悔はない。


 そもそも沙羅に販売した『ぬいぐるみ』と今回の『ぬい』ではコンセプトも大きく異なる。沙羅の『ぬいぐるみ』一緒に成長することをコンセプトとしているが、『ぬい』は素材を集めるため、『食トレ』を行わずとも既に強さを備えていた。


「さてと、初実践です...ぬい、行ってこいです!」

「ぬいー!」

「...吠えるようにしてみたですけど...普通にわんとかの方がよかったです?」


 蒼唯的に犬はよく吠えるイメージであったので、その機能も追加させたのだが、何故か犬ではなく『ぬいぐるみ』っぽい鳴き声にしてしまったのだ。


「...そもそもぬいぐるみっぽい鳴き声ってのもおかしい話です。ぬいは文句無さそうですしまあいいです」


 颯爽とダンジョンに向かう、ぬいの後ろ姿を見た蒼唯はそう思うのであった。


―――――――――――――――


 ぬいはダンジョンを闊歩する。蒼唯が丹精込めて造った『ぬいぐるみ』であるため、上層のモンスターは相手にならない。適当に討伐し素材を喰らう。

 喰らった素材の殆どは『食トレ』に回され、ぬいの強化に使われる。その残骸や使われなかったモノは『魔力炉』を稼働させるエネルギーとして活用されるため、無駄が少ない。


「ぬいぬい!」


 蒼唯からは、指定された素材とドロップ品などの珍しいモノのみを持たされた『時空鞄』に入れるようにお願いされたため、上層のモンスターはただの餌である。

 ぬいは識別票を首に提げ、特別製の『時空鞄』を背負っている。そのためモンスターと間違えられる可能性は少ないだろう。


「ギルルルル!!」

「ぬい!」

「ギャン!」


 モンスターを狩り続け30分ほど経過した頃、漸く初ドロップとなった。ぬいはドロップ品に前足を乗せ一吠えした。すると地面に落ちていたドロップ品は『時空鞄』に収納される。これが四足歩行のぬい用に造られた『時空鞄』であった。


 狩りが順調な内は、魔力不足になることもないため、ぬいはどんどんとダンジョンの奥深くまで歩を進める。


「あれ? 小さな犬が歩いてる?」

「識別票あるしテイムされたモンスターだろ?」

「...なんか違和感あるけどな。ドール系のモンスターか? もしや今話題の『ぬいぐるみ少女』に関係が?」


 人目に付いてもお構い無く素材回収を続けるぬいであったが、最近話題となった『ぬいぐるみ少女』の影響で変な注目も集めてしまうのだった。



 


 

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