第22話 聖なる手

 蒼唯が商品を売買するのに利用している『ダンジョンショップ』は、そこまでランクが高い探索者が多くいるサイトではない。特に大規模なギルドに所属している者は、探索者協会とも繋がりがあるし、大手の商業系ギルドと繋がりがある。

 単純な話、装備やアイテムを買うにしてもダンジョンで獲得したモノを売るにしても事足りているのだ。


 蒼唯は『ダンジョンショップ』で買い物をよくする。柊に頼めばおおよその素材やアイテムは手に入るが、『ダンジョンショップ』で手に入るモノは、蒼唯の想像を越える者が多く、それによりインスパイアされることもあるのだ。

 通常の場所では値が付かなかったり、買い叩かれるような粗悪品や効果不明品を売る、在庫処分的な使い方をしてる者もいるためである。あまり本名を使っては出来ないことをやる者もおり、HNハンドルネームを使っている者も多い。

 

「あ、『聖なる手』さんの出品です...これは買いですね」


 HN 『聖なる手ホーリーハンド』は『ダンジョンショップ』ではそこそこ名の通った転売ヤーである。だが世間一般的な買い占め品を転売するようなモノではなく、やっていることはリペア転売に近い。


「『聖なる手』さんのは、基本的に聖属性が付与されてるのが面白いです。たまに『祝福』とか付いてるですし」


 『聖なる手』は各地から『呪い』付きのアイテムを仕入れてきて、それらを『解呪』して転売する。『呪い』アイテムは軒並み価格が下がるので安く買って高く売るが自前で出来るのだ。


蒼唯:「その『絶望のリング』買いたいです」


聖なる手:「お目が高い。流石は蒼唯さまです」


蒼唯:「そう言えば、前、聖なる手さんに紹介して貰った天使司あまつかつかささんに、聖なる手さんから買った者で造った『聖なる』シリーズ見せたら、全部売れましたです」


聖なる手:「あ、ああ。そうですか。彼女もそう言った商品が欲しいと言ってましたからね。残念ながら私が『解呪』してもアイテムや装備の名前までは変えられませんか、彼女はお気に召さないようでして」


蒼唯:「もし、そういう装備がまた必要になったら、注文してくれと伝えてくださいです」


聖なる手:「はい。わかりました」


 今日も良い商品に巡り会えて満足な蒼唯であった。


―――――――――――――――


『聖なる手』はサイトから退出する。それと同時にギルドのメンバーから電話が掛かってくる。


「天使さま、天使さま。今日は『黄昏』のメンバーの『解呪』の依頼が入っていると言ってましたよね!」

「...ええ、分かっております」

「ならば早く来ていただけませんか? 『黄昏』の幹部が『聖女の間』に居座っておりまして」

「...まったく。あの方々も遠慮というものを知りませんね。『解呪』ならば自前の回復術師に頼めばよろしいのに」

「頼んだのでは? 私の見立てでも『解呪』を試みた痕跡がありましたので」

「そうですか...」


 天使司、治療系ギルド『聖域』のギルドマスターであり、世界でも3本の指に入る『神聖魔法』の使い手である。彼女を人は『聖女』と呼ぶ。


「兎に角、早く来てください」

「はぁー、直ぐいきます」


 その肩書きとは裏腹にネットでは『聖なる手』というHNで有名な転売ヤーであることは、誰も知らない。彼女が『呪い』アイテムを買い漁り『解呪』をしていることも、蒼唯が自身が売ったアイテムを使い真の聖属アイテムを造り出したので、本人のアカウントで購入していることも周りには秘密なのであった。

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